attempted
ごそごそと、ベッドに潜り込まれる気配で目が覚めた。
探るような手のひら。
腹の上に乗った体温と重み。
また薫か。
体ばっかりでかくなっても、ホント子供なんだから・・・
半分寝たままの頭でそう思い、皆本はいつものようにしぶしぶと起きあがった。
手を伸ばして眼鏡を取る。
それをかけながら、声をかける。
「薫、また寝ぼけてるぞ。自分の部屋に・・・」
「へえ、君ってば寝ぼけた
思わぬ声に答えられて、皆本は仰天した。
「な・・・っ！」
いつもよりでかく感じたのは当たり前だ。布団からひょっこり顔を出したのは、銀髪学制服の、皆本の仇敵。
兵部京介だったのだ。
「な、なななななななんなんだてめえはー！！」
「夜中にあんまり大声出すなよ。
言っていることは常識的なのだが、この状況でコイツに常識ぬかされると、驚きも吹っ飛ぶ勢いで猛烈に腹が立つ。
言葉も無くしてわななく皆本の腹の上に乗ったまま、兵部は、つめたい指で皆本の顎を取り。
「それに、何って」
そうして、鼻先が触れるほどの近さで、にい、と笑った。
「そんなの夜這いに決まってるだろ」
ぶっちゃけ、兵部にこの体勢に持ち込まれることは、不本意ながら何度だってある。
だから、皆本は油断していた。
黒々とした瞳が間近に来ても、何言い出すんだ子供たちは渡さんぞコノヤローとか思うばかりで。
ちゅ、と。
唇が触れてから、やっと、皆本は事態を把握した。
「な・・・っ！」
「だから、大声出すなって」
叫びだそうとした口を、また兵部の唇でふさがれる。
しかも、今度は舌が入ってきた。
なんとか離れようとしても、念動力で押さえ込まれて動けない。
口蓋をそろりと舐められて、ぞく、と皆本の背筋を何かが駆け上がる。
まずい。
コレなんだか本気でマズイ！！
皆本がパニックになりかけたところで、やっと唇が離れてくれた。
ニヤニヤと楽しそうに笑っているそれが、たっっぷりと濡れているのを見てやっと、皆本は彼の言う、『夜這い』の対象が、薫ではなく自分なのだと気づいたのだった。
「キ・・・キサマ一体何を考えてる！」
変態だ変態だとは思っていたが、こういう方向の変態だとは思わなかった。
ロリコンじゃなかったのかこいつ！
「そんなの、君への嫌がらせに決まってるじゃないか」
ナニ当たり前のことを、とでも言うかのようにきょとんとしながらそう言う兵部は、皆本の想像の範囲を軽く越えている。
だめだこいつ。
話がぜんぜん通じない。
「だ・・・だからってこんな」
「やだなぁ」
思わず漏れた言葉に、クッ、クッ、クッ、と、もの凄くカンに触る声で嗤い、兵部はばっさりと学制服の上着を脱ぎ捨ててから、皆本を押さえつける念動力を強くして、彼のパジャマのズボンに手をかけた。
「僕は、君の嫌がることだったら何でもするぜ？」
「や・・・やめ・・・っ！」
「へえ」
ずる、と下着ごとひっ掴んで下ろされて、皆本は屈辱と羞恥にふるふると震えた。
その様子が、余計に兵部を楽しませることがわかっていても、そんなもん止めようと思って止まるものでもない。
しかも。
「坊やにしちゃ、イイもん持ってんじゃん」
さっきのキスでウッカリ感じてしまっていたそれは、ここのところ処理なんかしてる暇もなく忙しかったせいで、ホントに本意ではなくウッカリと・・・勃ってきてしまっていたのだ。
「コレ、結構モテんじゃね？」
あえて皆本でなく『コレ』に限定して言うと、兵部はその根本から先端までを、するり、と指先で撫で上げて。
それから。
「いただきます」
バカみたいなことを言ってから、あーん、とこれ見よがしに口を開いて。
はくり、と皆本のものを、その口にくわえてしまったのだ。
「〜〜〜〜〜っ！！！」
若い男とはいえ、出せればいいというわけではない。
若い男だからこそ、メンタルって結構大事なのだ。
顔突き合わせるだけで吐き気がしそうなほど嫌いな男にこんなことをされて、勃つはずがない。
なのに、だ。
まずは先端を包み込んだ舌が、ソレが口腔深く押し込まれると共に、裏を伝うように一気に舐め下ろされた。
そのまま、たっぷりと舌を使われて。
時折先端に感じる柔らかく気持ちいいそれは、深さからいって、たぶん、喉の奥に当たっている。
そう自分に解説しながらなんとか保とうとした理性は、とらりと上目遣いにわらわれたとたん、じゅう、と吸われて吹っ飛びかけた。
何で・・・何でこんなに巧いんだこいつはー！
皆本だって木石ではない。
そこそこモテたし、彼女だっていたことはある。
しかしだ。
ぶっちゃけ、こんなにキモチよかったことは・・・
いや、そうじゃなくて！
「てめ、
そうとしか考えられない。
コイツは、他人の脳内物質を自在に操れる、
しかし、ちゅ、と先端を吸いながらやっと口を離してくれた兵部は、その口先を子供っぽくとがらせてむっとしながら言った。
「やだなぁ、なんでそんなつまんないことしなきゃなんないんだよ」
してないのか！？
皆本は本気で驚愕した。
いや、こいつはどうしようもない嘘つきだ。そう自分を納得させようとするも、兵部の言う『そんなつまんない』の説得力がハンパない。
こういう奴だ。
兵部京介という男は、面白いとかつまらないとかそういうことに、無自覚にウッカリ命だって賭けてくる大馬鹿者だ！
「こういうのは、自分のテクでイかせるから面白いんだからさー」
敵に対する無駄な理解にじたじたする皆本にかまわず、兵部はニヤリと嗤って口を開いた。
「お前だって、そっちのが屈辱だろ？」
そうして、その口でまた、皆本のものをくわえ込んでしまい。
自分でテクとか言うだけあって、やっぱりそれは、メチャクチャ巧くて。
キモチヨくて。
「・・・うわぁ」
白い粘液をまとわりつかせた唇で、兵部は満面の笑みを浮かべた。
「ボロ泣きかよ？」
本っ当に嫌いな相手の口の中に出してしまった衝撃で、皆本は、ぼろぼろと涙をこぼして、声を殺して泣いていた。
しかも飲みやがった！こいつ！！
出してしまったあの瞬間と、続くごくりと喉の動いた感触は、もう悪夢に見そうな感じだった。
イヤだ。
もの凄くイヤだ！！
ナニがイヤって、キモチイイとか思っちまった自分が一番イヤだーー！！
そのままボロ泣きの皆本を眺めて、兵部は笑いが止まらない。
やばい。これ凄い面白い。
ぶっちゃけ、兵部だってここまで嫌がるとは思っていなかったのだ。
これで、自分のナカで絞り尽くしてやったらどうなっちまうんだろ。
それにこの様子なら、あと２、３回搾り取ってやれば、きっと半永久的な催眠もかけられる。
まったく、笑いが止まらないとはこのことだ。
わくわくと、さてどうやって食ってやるのが一番楽しいだろうと考えていると、かたん、と背後で音がした。
やべ、と、兵部がちいさく呟いた。
皆本は、立て続けの衝撃に、頭真っ白になって言葉も出なかった。
「ん〜〜〜、皆本ぉ」
目をこすりながらドアを開けたのは、赤毛の少女。
「なに騒いで・・・」
そこで、とっさに身を離しつつ皆本のズボンを上げてやったのは、兵部の精一杯の真心というか、保身だった。
「ふへ？」
へこん、と首を傾げた彼女は、次の瞬間大きな目を見開いて。
「あーーーー！！」
そう、大声を上げたのだった。
「薫！？」
「どうしたの、薫ちゃん！」
とたん、瞬間移動で飛び込んで来た二人が追加され、紫穂の手で部屋の電気がつけられた。
それと同時に皆本が正気に戻り、兵部がえーっと、どうしよっかな、とぼやき。
そうして、薫も衝撃から立ち直った。
「京介の、バカー！」
がつん、と来た薫の念力波を、兵部はとりえず受け止めた。
今逃げたらもっとやばいとの判断だったが、耐ESP加工された壁に叩きつけられて、ちょっとだけ後悔した。
「フケツ、ヘンタイ、皆本の純潔返せーー！！」
兵部と一緒に、その皆本も潰れているのだが、今の薫にそんなことを考える余裕はない。
ここで兵部が悪いと即決するあたり、信頼の賜ではあるのだが。
むしろ余裕だったのは、
「・・・何しとんのや、紫穂」
あんまりな状況に、まだ呆然から抜け出せない葵が、携帯をカメラモードにした志穂に聞く。
「とりあえず、パティに写メを」
決定的瞬間（違）は逃したが、乱れた着衣で一緒にツブされているこの絵面でも、彼女はきっともの凄く感謝してくるだろう。
大きな貸しひとつ、と黒い嗤いを浮かべる紫穂に、兵部は本気で冷や汗をかいた。
「ええっと、やめてくんないかなぁ」
なんとか薫の念力波から脱し、ひょいと指を上げて、紫穂の手から構えられたケータイを取り上げる。
「真木とか澪にバレたら泣かれちまう」
「そーじゃねえだろ！てか、泣かれんのわかってんならすんな！」
今潰しているのが皆本だけと気づいた薫が、やっとやめてくれたおかげで、皆本はやっと突っ込みに復帰した。
「あら、あたしたちの皆本さんに手を出したんだから、そのくらいはさせてもらわないと」
「そーやそーや、ついでにネットにも流したれ！」
パンドラのボスが、バベルのエリートを襲う図は、確かに流れちゃったらちょっとイヤだ。
「いやごめん。謝るから、ホントにやめてくれ」
取り出された葵のケータイもまとめて没収し、でも壊して嫌われたくはないので、同じように撮られたくないだろう皆本へ、紫穂のものと一緒に放る。
放りながらも、文句は言う。
「君のせいで、
「てめぇのせいだろ！全部てめぇのせーだろ！！」
らしくなく口汚くわめく皆本を、葵のテレポートで自分たちのそばに確保して、薫たち三人は、じっくり、と皆本の様子を観察した。
泣いたことが一目瞭然の真っ赤な目。
いつものスウエットのパジャマだが、ズボンが不自然にずり落ちている。
それでも、（
「・・・いや、あのおまえたち！なんでもないんだ！こいつが勝手に！！」
皆本は自分で墓穴を掘った。
「勝手にされちゃったんか！皆本はん！！」
「違ーう！」
「勝手にされちゃったのね・・・」
「紫穂！嘘つくんじゃない！！」
「あら、あながち嘘でもないでしょ？」
くすくすと笑った紫穂の手は、皆本の右手に添えられている。
全部
ていうか。
「みなもとぉ・・・・」
最初の一番ヤバい場面を目撃してしまい、一番ショックだったらしい薫がとうとう泣き出した。
「あぁ、泣くなよ
お前が言うなと突っ込みたかったが、必死に薫をなだめる言い訳を考える皆本は、それどころではない。
「ちょっと遊びに来ただけさ。悪ふざけが過ぎたのは認めるけどね」
いや嘘だろそれ、と、奴の本気を肌で感じた皆本と、それを
「ホント？京介」
思ったけれど、それで薫が泣きやんだので、それぞれ口をつぐんだ。
薫を泣かせるのは、誰だって本意ではないのだ。
恐ろしいことにそれは、元凶の兵部だって同じことで。
「もちろんだ、
コイツ殺す、マジ殺す。
殺気のカタマリになった皆本と、まだ涙を浮かべた薫と。
薫がこの調子じゃ、自分やらなあかんと構える葵と、もの凄い白い目で自分を見ている紫穂を眺め、兵部はやっちゃったなぁ苦笑いした。
「まあ、
ぼろぼろになったシャツの上から学ランを羽織った兵部に、薫はいつものように声をかけた。
「てか、皆本に嫌がらせはやめろって」
どうも、本気で兵部の言葉を信じたらしい。
薫と同じ『そっち側』の葵でさえ、信じられへん、と呟いている。
「考えとくよ」
「二度と来んなーー！！」
「さあ、どうだろう？」
いつもの余裕ぶっこいた態度を取り戻してケラケラ笑いながら（でもボロボロだ）兵部はひょいと割れた窓の外にテレポートして手を振った。
が。
「京介に取られるくらいなら、あたしが！」
「いやウチが！」
「ねえ、おんなじことしてあげましょうか？皆本さん」
「やーめーろー！お前ら僕を犯罪者にするつもりか！！」
中の４人にはガン無視されて、ちょっとがっくりしながら、帰って行った。