アスワンさんとクリスマス
シンは、子わんこです。
ちょっぴ大きくなった子わんこです。
でもでも、まだ、子わんこなのです。
もうすぐクリスマス。
丁度、お仕事もお休みだよ。
シンの大好きなアスワンさんも、お休みなんだって。
だからシン、アスワンさんにお電話（通信）してね。
「アスワンさん、一緒にクリスマスとお正月しようよ！」
って言ったらね、アスワンさん、
「いいの？ありがとう」
って！
子わんこ、大喜び！！
アスワンさんも、にっこにこ。
でもね。
「シンは、クリスマスに何が欲しい？」
シンにプレゼントあげたいなって思ったアスワンさんが、そう聞いたらね。
シンは、
「そっか、もうサンタさんにお手紙書かなくちゃ！」
って。
アスワンさん、ちょっとびっくりして。
それから、通信画面の後ろにいるシンのご主人様が、わたわたわたと、何かよくわかんないジェスチャーをしてるのを見て。
アスワンさん、わかっちゃいました。
いえいえ、シンのご主人様のジェスチャーは何だかわかりませんけども、シュチュエーションってものがありますからね。
これは。
シン、サンタさんを信じてるんだ！
可っ愛いーーー！！
アスワンさんも、思わずにっこりしちゃいます。
「サンタさんには、何を頼むの？」
にっこにこのアスワンさん、でも、シンのお答えに困っちゃいました。
「ナイショだよ！」
うーん。
「でも、ナイショだとサンタさんも困らないかな？」
後ろでわたわたしてる、サンタさん。
「だからお手紙書くんだよ！」
なるほど。
うーーーん。
でも今回、アスワンさんのクリスマス休暇は長いですし。
シンも、お仕事無いみたいだし。
会ってから、ゆっくり聞けばいいかなってアスワンさん思いました。
でもでも。
クリスマス前に、ジュールさん家にお邪魔したアスワンさん。
「シンは、クリスマスに何をもらうの？」
今日も、シンに聞きますけども。
「えっとね、ナイショ！」
シンは、なかなか教えてくれません。
「俺はね、そうだな・・・・シンとおそろいのマフラーが欲しいかな」
アスワンさん、ちょっと作戦変えました。
「俺の教えたんだから、シンのも・・・」
聞きたいな、って言う前に。
「じゃあ、アスワンさんの分もお手紙書いてあげるよ！」
シンはそう宣言して、お部屋にクレヨンを取りに行っちゃいました。
「はぁ・・・・」
アスワンさん、ため息。
シンのガードは固いんです。
なかなか教えてくれません。
どうしよう、かな。
アスワンさん、本格的に困っちゃいます。
この間一緒に見た、ニューゴメラの映画、大好きだって言ってたな。あのおもちゃとか、喜ぶかな。
仮面ジョッキーもかっちょいいって言ってた。変身セット・・・は、さすがに子供っぽ過ぎるよな。
食べるものは、きっと国防総監がダメって言うし。でも美味しいダイエットフードとかなら平気かなぁ。
あーあ。
アスワンさん、シンが開けっ放しにしたドアを眺めます。
シンが、サンタさんに書いたっていうお手紙。
あれ、読めたらな。
俺の分も書いてくれるってことは、まだ出してないのかな。
でもでも、人の手紙見るなんて良くないこと、できないしなぁ…
ぐるぐるぐる。
アスワンが、遺伝子主譲りのハツカネズミ回路を回していると、ててててっとシンが戻ってきて。
「見ててね！」
って。
緑色のクレヨンを握って、大きな画用紙いっぱいに、アスワンさんの欲しいものを書いてくれました。
『サンタさんへ シンとおそろいの、マフラーくだちい』
「間違えちゃった！」
シン、画用紙めくってもう一枚。
『サンタさんへ シンとおろそいの、マフラーください』
「できたよ！」
惜しい！
でもそれが可愛い！！
アスワンさん、ぐるぐるするのも忘れて、可愛い子わんこぎゅってしました。
「ありがとう、シン」
「えへへ・・・ｖ」
アスワンさんにぎゅってしてもらって、シンもご機嫌です。
「俺のも、昨日書いたんだよ。アスランさんに出してもらってくるよ！」
シンはそう言って、半分に折った画用紙の裏に、「サンタさん え アスワンさん」って書いて。
「アスランさーーーん！」
ててててっっとまた、ドアの向こうへ走って行きました。
「え？」
アスワンさん、あれ？って思いました。
えっと、シンはまだサンタさんを信じていて。
『アスランさんに出してもらってくるよ！』
推測するに、シンのサンタさんは、ご主人様とその旦那さんで。
それなら。
それなら、シンのサンタさんたちは、シンの欲しいものをちゃんと知ってるんだ！
なら、シンの欲しいものは、ちゃんとサンタさんたちが用意してくれるのでしょう。
でもね。
『サンタさんへ シンとおそろいの、マフラーくだちい』
綺麗な緑のクレヨンで、シンが書いてくれたお手紙。
間違えちゃったお手紙。
それを拾って、アスワンさんは、大事にそれを畳みました。
でも、さぁ。
シンは子わんこです。
子わんこなので、夜はすぐにねむねむになっちゃいます。
「あすわんさんもねぅーうゃ」
アスワンさんと一緒のベッド。
嬉しくって楽しくって、でもねむねむで。
「うん、俺も寝るよ。お休み」
「んーｖ」
幸せそうに眠っちゃった子わんこの、ふっくふくのほっぺたにちゅーをして。
アスワンさんも、ぬくぬく可愛い子わんこと一緒に寝ちゃいたかったんだけど、でもちょっと我慢して。
控えめに、隣の部屋のドアをノックしました。
ちょっとドキドキします。
だって、ジュールさんご夫妻は、とっても仲がいいんですもん。
夜だって仲良しに決まってます。
「どうしたんだ？シン。・・・・ああごめん、アスワンだったのか」
ドアを開けたのは、シンのご主人様でした。
ちゃんとパジャマを着ています。
良かったー！
向こうのソファでは、旦那様がお酒飲んでます。
そう、シンといるとわかんなくなっちゃうけど、まだ、夜はこれからのお時間でした。
胸を撫で下ろしたアスワンさん、でも、あんまり長居は良くないって知ってますからね。
「あの、お願いしたいことがあるんです」
出来るだけ手短に済まそうと、シンのご主人様に伺います。
「シンの、サンタさへの手紙を、見せては頂けませんか・・・？」
人の手紙を見たいなんて、はしたないって思われちゃうかな。
いけないわんこだって思われちゃうかな。
でもでも、アスワンは知りかたっかんです。
シンのほんとに欲しいもの。
「あなた方が用意するんだって、用意したいんだってことはわかっています。でも、あの・・・」
アスワンさん、ちょっと考えて。
じっと、耳を傾けていてくれるお二人に、一生懸命言いました。
「今年は俺が、シンのサンタさんになりたいんです」
シンの一番欲しいものは、自分があげたいなって。
アスワンさん、そう思ったんです。
「良かろう」
旦那様が、お酒のグラスを置いてそう言いました。
「ありがとう、アスワン」
シンのご主人様も言いました。
「シンの手紙、俺もまだ見てないんだ。・・・・ちょっと待っててくれ」
そうして、大きなベッドのマットレスの下をごそごそし始めました。
「今年は持って来るの遅かったから、イザーク帰ってきてから二人で相談しようと思ってて」
「通信寄越せばいいだろう。・・・貴様、そんなところに隠していたのか？」
旦那様は呆れ顔。
「仕方ないだろ。絶対シンに見つからないところっていったら、ここしか思いつかなかったんだ」
シンも、宝物はベッドの下に隠します。
似た者飼い主とわんこです。
そうして出てきたのは、見覚えのある半分に折った画用紙でした。
二枚あります。片方はきっと、今日シンが渡したアスワンさんの分です。
「なになに、『サンタさんへ、シンとおそろいのマフラーを…』」
「すみません、それは俺のです」
「ああ、今日のか、ごめん」
ご主人様、お間抜けです。
「ええっと・・・・」
アスワンさん、待ちきれずに、シンのご主人様の手元を覗き込みました。
白い画用紙に、赤いクレヨン。
さっき見たアスワンさんのお願い事よりも、なんだかちょっと、困ったような、ちいちゃな字で。
『サンタさん へ アスワンさん ください』
シンには珍しく、誤字も脱字も、綴り間違いもありません。
一生懸命書いたんでしょう。横には、ぎゅっと肉球の跡まで残ってて。
『アスワンさん ください』
今年は、出すのが遅かったって。
きっと一生懸命考えて、考えて。大きな頭のちいちゃいのーみそで、めったに無いほど考え抜いて。
でも他に思いつかなくって、それでやっと、書いたんでしょう。
元気な子わんこらしくない、困ったような、ちいちゃな字。
そんな字で書かれた、シンの、一番欲しいもの。
欲しいもの、は。
アスワンさんは、瞬きをして。
ぽろぽろと、涙が落っこちちゃってるのに気がついて、慌ててそれを拭きました。
なんで、こんなに泣いちゃうのかわかりません。
なんで、こんなに嬉しいのか、わかりません。
なんで。
なんで、こんなにあの子が愛おしいのか、わかりません。
「・・・・そうか」
ご主人様は、にっこりして。
「これじゃ、アスワンにサンタさんになってもらうしかないな」
そうして、アスワンの頭を、ふるふるしてる耳ごと、やさしく撫でてくれました。
そうして、クリスマスの朝。
シンのベッドには、シンの、一番欲しかったプレゼント。
「おはよう、シン」
大好きな人のちゅーで目覚める朝は。
いっちばんのクリスマスプレゼントなんだよ！！