残像
通されたのは、いつもとは違う部屋だった。
落ち着いた調度品と、押さえられた照明は、いつもとそう変わらない。
天蓋の付いたベッドはいつもより大きくて、またレイでも呼ぶ気かと、アスランは少し、覚悟した。
「よく来たね」
ギルバートはいつも通りに、笑顔でアスランを迎える。
そうして、アスランのかすかな同様など知らぬげに、おいでとソファへ差し招いた。
ギルバートは、いわゆる趣味人というやつなのだと、アスランは理解している。
レイを愛玩する傍ら、アスランにも食指を伸ばしてくれるのは、臑どころかあちこちに傷を持つ身には、有り難いことではあるのだが。
「ぎ、ちょう・・・・」
ソファで軽く戯れ、赤服の下だけを脱がされたしどけない姿でベッドへと運ばれて。
とさりとそこへ身を横たえたところで、アスランはうろたえた声を上げた。
「ん？どうしたんだね？」
アスランの瞳が何を映しているのか、わかっているのだろうに。
かすかに笑いを含んだ吐息で、赤く染まった耳朶を湿らせると、ギルバートはそのまま、アスランのしなやかな脚を大きく開かせた。
「・・・・っ」
目を閉じたアスランの、シーツにすり付けられた頬を、ギルバートの手のひらが包んでやさしく撫でながら・・・真正面、天井を向くことを強要する。
「目を開けなさい、アスラン」
柔らかな命令に、アスランは従うしかない。
おそるおそる開かれた緑の瞳に映ったのは。
大きく開いた足の間に男を置いて、しどけなく横たわる、自分の姿。
ベッドの天蓋の内側は、大きな鏡になっており、アスランの淫らな姿を、よくよく映し出していたのだった。
「議長、これ、は・・・」
ようよう声を上げると、脚を支えていた男の指が、く、と食い込むのが見えて。
その刺激に、ひくりとつま先が跳ねるさまも、また。
「少し、悪趣味だったかな？」
ちらり、と、天蓋に投げかけられる視線。
鏡に映った燈色が、また、アスランに投げかけられ。
その瞳が映している光景こそ、今、アスランが見ているそれであることに気が付いて、かっと頬を朱に染めた。
こんな、恥ずかしい姿を。
この人は、いつも。
「しかしね・・・」
ギルバートは熱い頬をするすると撫で回し、恥ずかしく潤んだ目元を、そっと親指でこする。
「私は君に、自信を持って欲しいのだよ」
そうして、口づけをもらったひととき、視界は閉ざされたけれど。
「こんなに・・・美しい自分を、誇って欲しいのだよ」
さらりさらりと、赤服の前を開かれて、上司の指示通り、アンダーをつけていなかった肌を曝される。
詭弁だ。
いくらアスランでもわかる、それはまごうことなき詭弁なのだが。
「っ、あ・・・・・」
胸の飾りをいじられて、身をのたうたせて喘ぐ自分の姿は。
いくらアスランでも、わかる。
この姿は、男を誘うのだ、と。
ゆるり、と、アスランの腰がうねったのを感じて、ギルバートがくつりと笑う。
それもまた恥ずかしくて、アスランは小さく啼き声を上げた。
「あ、ぅ・・・・」
白い、何か別の生き物のような脚が、空を蹴る。
それが、自分のものだと思うだけで、どうにかなってしまいそうだった。
脚の間、一番恥ずかしいところは、ギルバートの体で隠されてはいるのだけれど。
見えない分、どうなってしまっているのか。
どんな様を見られているのかと思うと、恥ずかしさはいや増した。
「いつもより、感じているね」
更にそれを煽るギルバートの言葉が、アスランの体を辱める。
「そんなにいいかね？自分の淫らな姿は」
「ふ・・・・・っ」
ふるふると首を振り、弾みで目をつむってしまっても、今度はギルバートも、目を開けることを強要しなかった。
代わりに、その長い指をアスランにくわえさせ、熱くなった咥内を、たっぷりとねぶってから引き出した。
それが、どこで、何に使われるのか。
わかっているアスランは、思わずそこで、目を開けてしまう。
ず、と、ナカに入ってくる感触。
さっきまで、咥えていた、指。
それはもちろん、ギルバート自身の体で見えない。
見えない、けれど。
きゅむ、と、また目をつむる。
ずるずると、ナカをこすられる。
「すぐに馴染む・・・本当に君は、良い体をしているね」
その体を、自分で利用していることはわかっているのだけれど。
そう言われるのは、やはり、ぜんぜん嬉しくはない。
「っ、あ・・・・」
「しかも、とても感じやすい」
嬉しく、ない。
徹底的に体を利用するつもりなら、感じ易さはむしろ厭われるものだろう。
喘ぎ、腰をうねらせながら、アスランは一生懸命に快楽以外のことに頭を巡らせようとした。
ギルバートの指が、慣れた仕草で襞を擦り、肉を押し開き、濡れた音を立てて引き抜かれる。
そんな刺激から、意識を逸らせようとした。
「見てもいないのに、こうなのだから、ね」
しかし、ギルバートの言葉は巧みで。
アスランは思わず目を開き、そしてそれをとてもとても後悔した。
開かれた脚の、膝を高く引き上げて、その間に男を置き。
大きく上下する胸の先を、赤く勃たせて。
喘ぎを殺そうと、口元に添えられた指さえ淫らがましい。
快楽に潤んだ瞳で見上げている。
これから、犯されようとしている、自分の姿。
それに、目を奪われて。
「はっ、く、ぅ・・・・・ン」
目を閉じることができたのは、ギルバートがほとんど侵入ってしまってから、だった。
「あ、あ、あ、・・・・」
侵入ってすぐの性急な動きに、ギルバートがいつもよりも興奮していることがわかった。
彼は、ほとんど鏡を見ていない。
ということは、鏡を見たアスランの反応が、彼をここまで煽ったことになる。
「ふっ、う・・・・」
そのいたたまれなさが、アスランをより感じさせ。
「あ、んっ」
深く抉られたその一瞬、反射で開いてしまった瞳には。
男をくわえ、快楽にとろけきった、淫らな【雌】の姿が焼き付いて。
きつく閉じても、もう、離れることはなく。
「ぎ、ちょう、もう、・・・ね、がい・・・・」
「ふふ、鏡ひとつでこんなに泣いてしまうなんてね」
濡れた眦を、柔らかなキスで拭われる。
しかし目を開けると、離れていくとう色が幾ばくか映っただけで、見えてしまうのは天井に映った自分の姿なのだ。
「本当に、君は可愛いね」
「やっ・・・！」
熱く硬いものに、柔らかな内蔵を蹂躙される。
ほとんど着衣を乱していないギルバートの、シャツの裾が、肌を滑る。
そんなことにさえ、過敏になった肌は、感じて。
自分を犯す体を必死になって引き寄せて、早くこの時間が過ぎ去るよう、アスランは祈った。
のたうつ淫らな残像が、この先、自分の脳裏から消えないことは、もう、わかってしまっていたけれど。
「何かあった時に目を閉じていられないのは、優秀なパイロットである証だと思うのだがね」
ことが終わるともうベッドに寝ていられず、無理にでも這い出そうアスランを、仕方なくソファで抱いてやりながら。
ギルバートは、くつりくつりと笑いつつ、汗をたっぷりと含んだ髪をすいてやる。
シャワーを浴びに行ってもいいが、もうしばらく、そう、この少年の体の震えが治まるまでは、こうして愉しんでいたい。
「悪趣味、です」
「ふふ、ありがとう」
いまいち会話が成り立っていないのだが、それもまた、愉しい。
「そうだね、今度は姿見を用意してあげようか」
「やめてください・・・・」
心底嫌そうな、そして何より情けなさそうな、エースパイロットの声。
それ浮上に、ギルバートを満足させた。
そう。
手放すには、少々惜しいねと、思わせる程度には。