夢を、見ていた
夢を、見ていた。
夢だとわかっていた。
何故なら、その人がそこにいたから。
死んだはずのアスランが、シンの側に、いたから。
死んだはずのアスランは、もうシンの上官ではなくて。
だから、厳しいことは何も言わなかった。
ただ、シンの側にいて。
手を差し伸べてくれて。
抱きしめてくれて。
優しくして、くれて。
ずっと、こうして欲しいと思っていた。
言えば、もしかしたら、してくれたかも知れなかった。
でも、シンは言い出せなくて。
そうして、その機会を永遠に逸してしまった。
でも、これは夢だから。
だから、シンはアスランの腕に甘えた。
キスをした。
その人を、がちがちに縛り付けていた軍服を脱がせて、抱いた。
シンの腕の中、甘やかに乱れる人は、綺麗で。
大好きだと思った。
だから、そう言った。
その人は優しく微笑んで。
『俺も、好きだよ』
そう言って、くれた。
目が覚めたときの辛さは、死にたいほどだったけれど。
それでも死なないのは、あの人の敵を取るためだ。
彼をたぶらかした、ロゴス。
あれを、この世から無くさなければならないのだから。
「やめるんだ、シン！」
その声。
もう、夢の中でしか聞けなかったはずの声。
夢の中では、もっと、優しかった声。
アスランの、声。
「アスラン・・・？だって、そんな」
夢中で。
無我夢中で。
彼は、生きていたのだと。そう気がついたのは、ミネルバに戻ってからだった。
生きていた。
生きていた。
生きていた。
でも、嬉しくは、ない。
あの人の乗ったグフを討った、あの感触を思い出す。
あれを、もう一度味あわなければいけないのだろうか。
味あわなければ、いけないのだ。
あの人は、敵だから。
倒すしかない。
あの人は、強かったから。
やれるのは、シンしかいない。
「シン」
レイに、背中を叩かれた。
「行くぞ、オーブが声明を出すらしい」
「・・・・わかった」
パイロットスーツのまま、シンは立ち上がる。
脳裏にちらつく、青い髪。
綺麗な綺麗な翠の瞳。
シンを、抱きしめてくれた腕。
もう、あの夢を見ることはできない。
ほんとうに、あの人を殺すまでは。