ふわり、ふわりと、白い雪が降りてくる。

永泉は、それを柔らかなまなざしで見つめていた。

永泉の立つ階に、ふわりと降りた雪は、ほんのひと時ためらってから、小さな雫に変わり。

それを繰り返すうち、やがて白いまま降り積もってゆく。

ふわり、ふわり。

つめたい、散華。

「永泉」

不意に、背後より声がかかった。

調べ物のため、永泉を待たせていた泰明が、簀を踏んでその背に立つ。

「何をしている」

明らかに機嫌の悪さを含ませた声に、永泉は身を竦ませる。

「あ、あの、申し訳ありません・・・」

「何をしている、と聞いている」

永泉の腕を掴み、庇のかかった簀の上へ引きずり上げた泰明は、髪や肩に降り積もった白片を、ばたりばたりと叩き落した。

「え、その、ゆ、雪を・・・・」

消え入りそうな、永泉の声。

「雪を、見て、おりました」

「何故だ」

「え、あ、あの・・・・」

永泉は、視線を上げて許しを請うが、泰明にそれは通じない。

「あの、その」

だから永泉は、一生懸命言葉をつむいだ。

「寺では、雪の日に、外に出ることなどできませんので」

「何故だ」

容赦のない泰明に、泣きそうになりながら。

「その、風邪などひかぬようにと・・・・」

「寺の者は正しい」

「あの、でも」

何かを、言わなければと、永泉は口を開く。

しかしそれが何かもわからぬ永泉の体を、泰明はその袖に包んだ。

「雪を見るなら、庇の下にしろ」

「泰明殿・・・？」

見上げた泰明の瞳は、雪舞い降りる空を向いていた。

「雪だな」

少し遅れて、泰明のぬくもりが永泉に届く。

「・・・・はい、雪です」

応えて、永泉はそっと泰明に身を寄せた。

ふわり、ふわり。

白く儚い雪のように、二人の間に降り積もるものがある。

そのまま、二人で雪を見ていた。

世界が、白に包まれるまで。

ずっと。