ざあっと、夜風が地を渡った。

泰明は、空を見上げる。

薄雲が、月をおぼろに包み、また、去っていくところだった。

揺。

地より湧き上がり、天より舞い降りる陽気。

また、風が髪を舞い上げる。

その匂いは、甘い。

梅に蝋梅、温まった大地。

生気の匂い。

・・・・春が近い。

地の玄武の名を預かる泰明の力が、衰えゆく季節。

しかしそれが、泰明は嫌いではなかった。

すべてが動き出す季節。

すべてが始まる季節。

四年前、泰明の運命が動き出した季節。

甘い風が、吹く。

髪を押さえた指は、造られたときよりも硬く関節が浮き、長すぎた髪は、この冬、恋人に甘蔦をかけられたのを機に、少し切った。

そう。

風の甘さに、恋人の肌の甘さを連想する。

あれも、冬を司る玄武の片割れ。

しかし冬の清冽なる気とともに、次の季節のための力を、その身に包む、永泉。

泰明は、足が浮き立つのを感じた。

旺気に当てられたのやも知れぬ。

しかし、足のおどらされるまま、一条通を西へと歩む。

今、泰明を人形のようだと言う者はいないだろう。

そこには、唯の恋する男がひとり。

恋人のもとへと、行く姿があるばかりだった。

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