神の記述の件が片付いて､俊樹を病院に運び込んで。

そのまま自分たちも治療､入院させられてしまって。

物を壊しまくる大男に、他の男性患者と一緒にすると、何かありそうで怖い美人の二人は､そのまま二人部屋に放り込まれた。

これで銀次や俊樹と同じ病棟ならば、知り合いということで一緒くたにされていたのかもしれないが、診療科が別になってしまったので仕方がない。

仕方がない・・・長い、休暇。

「ねえ、十兵衛。そっちいってもいいかな」

病棟の消灯は早い。

静かな夜だった。

他の病室から聞こえる、苦しげな声も、楽しげな声も。車の音も電車の音も、全てが遠い夜だった。

「ああ、かまわないが」

花月は寝返りを打ち、応えた十兵衛の様子を少し窺うようにしてから、二つのベッドの間を、足音を立てずに渡ってきた。

十兵衛は、片手で毛布を持ち上げてそれを迎え入れる。

ぬくまった懐に、少し冷えた花月の体が滑り込み、毛布と十兵衛の腕に包まれて、深く、長い息を吐いた。

花月は十兵衛の背に片手をまわし、十兵衛もその華奢な体を抱きしめる。

花月が十兵衛の布団に入りたがるのは、よくあることだった。

一時はその度に十兵衛を求めた花月だったが、今はもうそれも止み、ただ、甘えるようにその身をすり寄せる。

「あったかい・・・・」

湿った温かい息が喉にかかり、それが欲しくなって、十兵衛は髪を梳く指に力を込めて仰のかせ、艶やかな唇にそっと口付けた。

触れるだけのキス。

それが嬉しかったのか、今度は花月から十兵衛の顎のあたりに唇を押し当て､「髭伸びてる・・・」と呟いて笑った。

このぬくもりを失う恐怖。

何度味わっても慣れないそれは、どちらかが先にいなくなるまで続くのだろうけれども。

「ごめんね、十兵衛」

花月の吐息が､十兵衛の襟元を湿らせる。

細く長い指が逞しい胸をたどり､固く巻かれた包帯の上で止まった。

幾重にも重ねられたガーゼ越しに、じんわりと伝わる熱。

「お前は自分で帰ってきた。俺はそれを手伝っただけだ」

故意に話をすり替えてみるが、不器用な十兵衛の詐術になど、花月が乗ってくれるわけもなく。

「うん・・・でも、前回も今回も、君に大怪我させたのって、僕なんだよね」

迷いのない花月の技。その冴え。

まぎれもない殺気・・・殺意。

竦まなかったと言えば、正直嘘になるけれど。

「貴様のせいではない」

応えはなく、ただ、腕の中で甘苦しいため息が聞こえた。

そのまま静かになった花月は、眠ってしまったわけでもなく、ただ、十兵衛の腕の中で丸くなり､十兵衛はその体を包むように抱いて､身を落ち着けた。

花月を守る､と。

いっそ稚拙なほどの誓いを新たにするのは、こんなときだ。

花月を守る・・・と。

この、ぬくもりを。

「十兵衛」

不意に､ほとんど吐息だけで花月が呼ぶ。

そして、十兵衛が答える間もなく。

「大好きだよ」

今度の声は､はっきりと。

十兵衛の胸をくすぐって､消えた。

後に続くのは､まぎれもない、穏やかな寝息。

それを、そっとすくい取り。

十兵衛は、花月の後を追って眠りについた。

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