夜の風 −シン−
ひやり、と。
冷たい空気に、目が覚めた。
開け放しの窓から、昼間とは打って変わった冷えた風が入り込んで。
剥きだしのシンの腕を撫でて、消えた。
目を開ければ、部屋は青い夜の色。
月は無いはずなのに、窓からは冷気と共に、どこか冴えた光が差し込んでいた。
窓、閉めたほうがいいかな。
でも、きっと閉めたら暑いんだ。
だからシンは、腹にだけ引っかかっていた薄い毛布を、寝転がったまま器用に広げて。
肩まで被ると、ころりと転がって、隣のぬくもりにすり寄った。
半袖のパジャマから伸びた腕に頬を付けると、心地良い温度が伝わって、かすかな汗と、肌の甘い匂いがシンの鼻先をくすぐる。
一緒に暮らすようになってすぐは、毎晩のように、この甘い肌を求めていた。
この人が、側にいること。
それを、体ぜんぶで確かめないと、不安で不安で仕方がなかった。
でも、今はこうして。
ただ、隣で眠ることが、できる。
それは、安心じゃなくて。
あんしんじゃ、なくて。
「・・・・どうした？」
不意に、とろりと眠たげな、緑の瞳が、開いた。
青い闇にも沈まない、不思議な緑。
「・・・・ちょっと、寒くて」
「窓、閉めるか？」
耳を通して、首の裏まで。
じん、と響くような、深い声。
「でも、閉めたらきっと暑いよ」
「そうだな」
アスランはそう呟くと、するり、と、腕を伸ばして。
シンの体を、そっと、抱いて。
そうして、また。
目を閉じて、すうすうと、気持ち良さそうに眠ってしまった。
シンを包んだ、あたたかな腕は。
心地良い温度と共に。
ほっとする、何かをくれる。
大切にたいせつに、シンを包むアスランの腕。
大切にされることは、涙が出そうに嬉しい。
でも。
大切にたいせつに、シンを包むアスランの腕。
これが、自分だけのものでないことを、シンは、知っている。
よく訪ねて行く孤児院で、同じように子供を抱くアスランを知っている。
愚痴をこぼしに来た国家元首に、同じように手を伸ばすアスランを知っている。
親友だ、という男に、同じような抱擁をするアスランを、知っている。
捨てられていた子犬を、同じ手で、拾い上げるアスランを知っている。
この人、は。
かわいそうな何かを見つけると、手を伸ばさずにはいられなくて。
抱きしめずには、いられなくて。
だから、すべてをなくした、「かわいそうな」シンを、こうして、やさしく抱きしめてくれる、ただ、それだけなのだ。
それでも、シンは。
するりと、そのあたたかな胸に頬を寄せて。
たいせつに抱いてくれる腕を、体いっぱいに、感じて。
つめたい風から、シンを守ってくれる、やさしい体に身を預けて。
そうして、眠る。
青い光の差す窓から、冷たい風が、舞い込んできた。
しかしそれはもう、シンには届かない。
ただ、愛おしそうに少年を抱きしめる、アスランの腕を撫でて。
気付かれることすらなく、消えた。