憎しみに燃える瞳。

刻まれた聖痕。

その、愛おしさ。

傷ついた花月は、本当に美しい。

地に落とされた鳥。

繋がれた獣。

ただ、その眼差しだけが、征服者を射る。

「私が憎いか？」

「あたりまえだ」

そう、生きるためなら。憎しみを成就させるためなら、己の体を差し出すことさえいとわない。その強さ。

そして、その強さの源は、すべて夜半への憎しみなのだ。

それは、忘れかけていた『喜び』を、少年にもたらした。

「そんなお前が好きだよ」

「・・・・好きにしろ」

もちろん、そのつもりだ。

一緒にいた、小さな女の巻いた包帯に手を掛けると、ヒトの影を残した黒瞳と、ヒトを捨てた瑕の瞳に焔が灯る。

それを心地良く思いながら、ただ無言で解いていけば、彼は何も言わずそれに従った。

あらわれた胸。ああ、酷い傷だ。

ぞくぞくと、さざ波のような感覚が、脊髄をゆっくりと上っていく。

いまだ乾かぬ、その傷跡に口付ける。

舐め取った体液は、わずかに苦かった。

「さっさと、しろ・・・」

「急かすことはない」

そう言いながらも、夜半は言われたとおりに、ずたずたに破れたジーンズを引きずりおろす。

白い脚にも赤い瑕。きれいだと、思う。

その瑕に口付け、大きく割り開いた。

歪む美貌とは、アンバランスな男性器。

異形だ。

自分と同じ、あってはならない者。

その先をぺちゃりと舐め、花月が息を詰めたところで、夜半はくい、と、曝した後孔に指を押し込んだ。

「っ！」

さすがに辛いのか、びくりと身を強張らせたが、花月のソコは、たちまちのうちにほころび始めた。

あの筧の息子にでも、可愛がられていたのだろう。

しかし、夜半は可愛がるために抱いているのではない。

自分が辛くない程度にソコを緩めると、夜半はすぐに自分のものを取り出した。

この体を、こんなにも抱きたいと思う。

それが、不思議だった。

自分に、まだそんな情動が残っていたのかと。

「っ、ああ・・・・・っ」

「痛むのか？」

相手を思いやらない、自然に反した性交だ。受け入れる者には、相応の苦痛が伴う。

その、苦痛ごと、花月が欲しかった。

「あクっ、・・・ああっ・・・・」

上がる悲鳴に誘われて、何度も何度も奥を突く。よほど慣れているのか、すぐに内肉は夜半に絡み付き、締め付け、搾り取ろうとうごめきだす。

「く、あっ・・・あ、あん・・・・」

花月の声も甘くなり、やがて自ずから腰を振る。

髪に括られた鈴が、ちりりと鳴る。

ここまで来ても、それを使おうとしない彼の、賢さ。

そして、愚かしさ。

夜半は、汗の浮いた額から黒髪を払い、己と同じ、聖痕の刻まれた瞳を覗きこんだ。

まるで、鏡合わせの。

禁断の瞳。

ただ違うのは、君のそれには、私への激しい憎悪が宿っている。

夜半は知らず、微笑んだ。

「あっ、あ、ああっ・・・・・」

己を犯す者を睨み据えたまま、花月の体は達し。

夜半もまた、愛しい者の中へと注ぎ込んだ。

「では、楽しみにしている」

「・・・・待っていろ」

その足運びに、危うげな様子など欠片も見せず。

ただ、端正な後姿だけを見せて、花月は去っていく。

不揃いに断ち切られた髪、その背より立ち上る憎しみのオーラを、夜半は心地良く眺めた。

ああ、君は。

こんなにも私を憎んでいる。

そう。

その、君の憎しみだけが、今、私を生かしている。

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