腕の中の体がふるりと震え、泰明は目を覚ました。

空気の匂いで時間を計る。

夜明け前、といったところか。一日の中で一番寒い時間だ。

互いの衣は、すべて掛けている。

部屋を暖めるために、火鉢まで行こうかと考えるが、そうすると泰明の腕を枕にしている永泉が目を覚ましてしまう。

泰明は、しばし考えた。

こういうときには、互いの熱を分け合えば良いのだと、知識の上では知っている。

抱きしめて、熱を逃がさないようにすれば良いのだ。

だが。

あたたかな永泉の体に、中途半端に腕をかけた形で泰明は固まってしまった。

永泉の体は、あたたかい。

自分がそう感じるということは、自分の体温が永泉よりも低いということだ。

これでは、永泉をあたためられない。

泰明は途方にくれた。

永泉の体を、これ以上冷やしてしまいたくない。

しかし、昨夜無理をさせてしまった永泉を、起こしてしまいたくない。

どうしたら良いのだ？

・・・泣きたい気持ち、というのはこういうものなのかもしれない。

そのとき。

泰明の胸にあたたかな指が触れた。

衣の間から覗く、藍色の髪がするりと後を引き、細い寝息が喉にかかる。

ぴたり、と泰明に寄り添って、永泉のあたたかな体がほうっと緩んだ。

「・・・・きどの・・・・・・・」

寝言が泰明の胸をくすぐり、続いて柔らかな唇が触れる。

永泉から伝わったぬくもりが、泰明をあたためる。

泰明は、そうっと腕をまわして永泉の体を包み込んだ。

互いの間に熱がこもる。

永泉の熱が泰明をあたため、その熱がそのまま、永泉をあたためる。

「ん、ふ・・・・・」

永泉の唇から、幸福そうな吐息が洩れた。

・・・・はじめからこうすれば良かったのか。

永泉は、自然の生き物がはじめから知っている、こういう些細なことを、たくさん教えてくれる。

目が覚めたらそう言ってやろう。

きっと。

顔を赤くして、おろおろとする姿が見られるだろう。

そしてひとしきりうろたえた後、可愛い声でこう言うだろう。

ありがとうございます、と。

それから、それから・・・・

妙にふわふわとした意識を、とろとろとぬくもり蕩かしながら、泰明は夢を見た。

夜明け前、ほんのひと時の。

しかし幸福な、夢だった。