闇の中
闇の中で、腕を伸ばす。
すぐにそれはあたたかなものに触れ、アスランはそれを、そっと、抱きしめた。
愛しい熱が、腕の中に収まるのが嬉しくて。
ふ、と笑ったそのとき。
「・・・・何、足んないの？アンタ」
少し眠そうなシンの声に、なんだ、起きていたのかと呟いて。
墨を流したような闇の中、ただふたつ、光って見える赤い瞳に目を細め。
アスランは当たりをつけて、愛する少年に口付けた。
「んっ・・・」
すぐさま舌を絡めるやり方は、アスランの教えたもの。
こんなところばかり優秀な生徒だったシンは、アスランの好きなやり方をすぐに覚えて。
たっぷりと口腔を舐られて、満足の吐息と共に唇を離すと、シンはアスランの上に乗り上がり、もう一度キスを仕掛けてきた。
深い、深い。
気持ちのいい、キス。
「・・・・・足りないのか？お前」
息継ぎの合間にそう問うと、赤い光がきつくなった。
への字に曲がった唇の輪郭が、わずかに、わかる。
「アンタが誘ったんだろ」
「そう、か？」
アスランが首を傾げれば、闇に溶けた闇色の髪が、シーツに擦れて、さら、と音を立てた。
「誘いました。だから責任取ってください」
そうか？と、再び問おうとした唇は、わずかに開いて、舌を押し込みやすかった。
誘ったかどうか、彼自身でもよくわかっていない体は、それでもシンに開かれていて。
下肢に指を這わせれば、そこは難なく二本の指を飲み込んで。
「・・・んくっ・・・・・・・」
喉の奥と、肌と。
そうして熱い襞を震わせて、アスランが悶える。
淫らな淫らなその肢体に、シンは強引な愛撫を加える。
「んっ、んっ、んっ・・・・ん、あ、はぁっ！」
内を抉りつつ唇を離せば、難なく高い声を聞くことができた。
恐らく今、明かりをつければ、快感に溶け崩れた表情と、良い色に染まった肌を見ることができるのだろう。
それでもシンは、闇の中。
緑の瞳が潤んで、光を増していくのを頼りに、アスランの中を、容赦なく蹂躙していく。
「っ、あ、んっ、シン、シ、ン。もう・・・・」
「やっぱり、足りなかったんだ」
いたずらっぽく笑う声に、アスランは緑の瞳を細めて。
きゅう、と中を締めながら、喉を鳴らして腰を振った。
「足りる訳、ない、だろう・・・っ」
そう。
幾度体を重ねても。
幾度、精を注がれても。
アスランが、シンに充足することはない。
いつでも足りない。
いつでも、欲しい。
この、少年が。
欲しい。
赤い瞳が、きらきらと煌めいて。
今度は確かに、少年の口角が、にっと上がった。
「アスランさんって、インランですよね」
「んっ・・・・・」
特にその言葉を否定せず、アスランはシンの腕を掴んで無言で先を促し。
シンは、その訴えをわずかな瑕疵もなく理解して。
闇の中でもほの白く浮かび上がって見える脚を、ことさら乱暴に掴み上げ。
たっぷりと熱をはらんだ滑らかな肌を、手のひらいっぱいに感じ取る。
そうしてシンは、散々弄り倒したその場所に、己のものを押しつけた。
暗く陰ったそこは、今はよく見えないけれど。
ひくひくと淫らにうごめいて、シンを待ちわびている様子は、よく、わかる。
大好きな。
大好きな。
大好きな、アスラン。
どうしたら、この人を俺のものにできるんだろう。
どうしたら。
「シ、ンっ・・・・」
焦れたアスランが腰を突き上げて、ぬ、と、わずかに先端が入り込み。
その生み出す快に逆らわず、シンはひと息に根本まで、アスランの中に侵入っていった。
「あ、あ・・・・・・・っ」
上がった声はかすかだったが、激しく痙攣する肢体と、腹に散った熱いもの。
それから、ちぎれそうなほどに締め付けてくるナカが、アスランの得た快楽を、容易にシンに知らしめて。
たったのひと突きで大好きな人をイかせた悦びに、若い雄はいっそう己を猛らせる。
「もうイっちゃったんですか？・・・俺、まだなんですけど」
「ふっ、あ、ああっ」
ぐいと腰を押しつけて、それから勢いよく引けば、纏いつくアスランの襞が、たまらなく気持ちよかった。
動く度に上がるのは、もう、意味をなさない嬌声ばかり。
闇の中、白い脚が、びくんびくんと跳ね上がり。
そうして、緑の瞳が。
快楽の涙に濡れて、ちかりと光って、閉じられた。
獣のように睦み合う二人を、闇はただ。
ただ、包み込んで、揺らめいた。