The Wizard of Oz

 

「ぶりきのきこり・・・・」

「？　なんだ、それは」

突然、なにやら不気味な呪文を唱えた永泉に、泰明はむっつりと問い掛けた。

いつも忙しい泰明と、いつも誰かが側にいる永泉。せっかく隙を見て２人きり、春を楽しみに将軍塚まで出かけたのに、抱きしめた恋人が自分と関係ないことを言っていれば、機嫌も悪くなろうというものだ。

「ずっと前に、神子が教えて下さった物語の中の人物です。何でも、体が軽い鉄のようなものでできているきこりなのだそうです」

そして永泉が語ったのは、いわゆる『オズの魔法使い』。

あかねが上手く説明できないことを、適当にごまかしたせいで少々歪んではいるものの、本筋は変わっていない。元気な少女と小さな犬と、麦わらのかかしと、金属製のきこりと、臆病な獅子の冒険物語。

心地よい永泉の声で、異世界の物語を語られて、泰明はそれに夢中になった。

「誰よりも優しい心をもった『ぶりきのきこり』に、あなたが似ていると思ったのです」

めでたしめでたし、のあとにそう付け加えられ、泰明は上機嫌に永泉の前髪をかき上げた。

「それならば、お前は『おくびょうらいおん』だな」

額に口付けると、永泉は獅子というよりも猫のように、泰明に身をすり寄せる。

「では、『むぎわらのかかし』は・・・・」

「・・・・・・・」

恋人たちは同時に、2人の間を取り持った(かきまわした？)挙句、彼らの『どろしー』と共に彼女の世界へ行ってしまった、飄々とした知恵者のことを思い出した。

「あれは、そんな謙虚なものではない」

最後までからかわれ続けた泰明は憮然としてそう言い、密かに感謝している永泉は、

「では、鷹通殿でしょう」

とはぐらかす。

 

何となしに言葉を失い、２人は眼下の景色に目を向けた。そこには昨年皆で歩いた『黄色い道』が広がっている。

「・・・・帰るぞ」

「はい」

『ぶりきのきこり』と、『おくびょうらいおん』は、手をつないで歩き出す。

彼らの前には、夕日にきらきらと輝く、黄色い道が続いていた。