Way
「ねえ十兵衛、僕らはどこまで行けるだろう」
ある日、天を見上げて花月が言った。
短く切り揃えられた髪に括り付けられた鈴がリィン、と鳴り、淀んだ空気を震わせる。
上にあるのは、いつか見た青い空ではなく、悪鬼どもの棲むベルトライン。そしてさらに上の、バビロンシティ。
裏の手掛かりのある場所。
「お前ならば、きっと行ける」
応えた十兵衛の言葉に、答えはない。
応えたその声に、感情は見えず。
花月は上を向いたまま、くすくすと笑った。
鈴がまた、リリン、と鳴る。
あの、日溜りの中にいた頃、ひとつ年上の少年は、花月にたくさんのことを教えてくれた。
花月に、たくさんの答えをくれた。
会うたびに違う顔をして、笑って、怒って、時には泣いた。
君は変わったね、十兵衛。
僕も、きっと変わったのだろうけど。
自分じゃ、ぜんぜんわからない。
それがおかしくて、花月はまた、くすくすと笑った。
十兵衛はそれを、黙って、見ていた。
「行こう、十兵衛」
ひとしきり笑った後、花月は十兵衛に手を伸ばした。
絃を操る、繊細な手。
人を殺める、残酷な手。
「ああ」
その手に、自分の硬い手を重ね。
十兵衛は、変わってしまった幼い主を見つめた。
『ねえ十兵衛、僕らはどこまで行けるだろう』
『お前ならば、きっと行ける』
お前ならば、きっと辿りつけるだろう。
お前の欲するところへと。
しかし、それはお前の望む場所なのだろうか。
記憶の中の、可憐な少年。
あの笑顔が、思い出せない。
大好きだったのに。
「そうだ、十兵衛」
花月は十兵衛の手を掴んだまま、もう片方の手を差し出した。
その指に、血の色をした絃が絡んでいる。
「いつか、僕が斃れた時のために、この〝紅い絃〟を君に託すよ」
白い指に、紅い絃。
つたい落ちる血のイメージ。
「その時は、君が僕の意思を受け継いでほしい」
言って笑う、花月の黒目がちな瞳。
「そして・・・いつか僕が道を違えた時は――――」
紅い唇が、見えない未来を紡いでいく。
「君が僕を斃してくれ」
僕もきっと変わったのだろうけど。
自分じゃぜんぜんわからない。
だから。
「約束だよ、十兵衛・・・」
『ねえ十兵衛、僕らはどこまで行けるだろう』
『お前ならば、きっと行ける』
ねえ十兵衛、僕はどこへだって行けるよ。
どんなふうにだってなれる。
血塗られた道も、茨の道も怖くない。
だって、君がこの絃を受け取ってくれるから。
「これがその、誓いの証だ―――」
花月の指に絡む、一筋の紅い絃を指に取り、俺は、ひとつ頷いた。
幼い記憶も、初恋の笑顔も、今だ愛してやまないけれど。
お前が行くというのなら、俺も行こう。
お前の行く道が、俺の行く道だから。
お前なら、きっと、行ける。
どこまでも。
僕たちは、手をつないで、走った。