無限城、城下町。

マクベスの使いに出てきた十兵衛と、その呼び出しに応えた花月と。

古いビルの中。

ただ、椅子とテーブルだけがある空間に、ふたりで向かい合っていた。

 

「わかった。そのことは僕も気に留めておくよ。何かわかったら連絡する」

「頼む」

 

 

 

ちょっとした連絡事項と情報交換。

それが済むと、ふたりは言葉を失った。

ILの一件以来、初めてふたりきりになった時間。

伝えたいことはたくさんある。

しかし、それを伝える言葉が、今、見つからない。

 

 

 

 

不意に、花月が椅子から立ち上がった。

ちりん、と、鈴の音が空気を震わせる。

そして花月は、間に挟んでいたテーブルを迂回して十兵衛の側へと立った。

 

 

「十兵衛」

細い指が伸びて、布に覆われた目蓋をなぞる。

「目、どう？」

「これは天罰だ。お前が気にすることではない」

「・・・・罰、か」

言った花月は、そうっと十兵衛の頭を抱き寄せる。

 

花月の胸に、額を押し付けるかたちになった十兵衛は、口を開こうとして止め、代わりにその腰に腕をまわした。

 

伝わる、ぬくもりと手ごたえ。

今、確かに互いが生きているという証し。

 

「十兵衛」

身を折った花月の唇が、十兵衛の髪に触れる。

 

彼に触れた場所から。

花月独特の、柔らかな波動が伝わってくる。

 

「花月」

グローブ越しにもあたたかな手のひらが、背を伝って緩く束ねられた髪へと差し込まれた。

その手に導かれるまま、花月は渇いた十兵衛の唇に、自らのそれを重ね。

 

キスで、伝わる。

 

今は、それだけで。

 

それだけで、十分だから。

 

 

「十兵衛、じゃあ、MAKUBEXのことを頼むよ」

「ああ。わかった」

離れた唇が、ひどく事務的な言葉を紡ぎ。

そうして、十兵衛も立ち上がる。

 

 

絡む視線も、触れ合ったままの指も。

もっと、と。叫ぶのだけれど。

笑い合って、ふたりは別々の場所へと帰っていく。

 

それでも、伝わる。

伝わっている。

 

今は、それだけで。

それだけで、十分だから。

 

 

たとえ、「次」があるという保障など、

どこにも、無いのだとしても。