ついでじゃないよ
恋人が、不意に会いに来てくれたら、もの凄く嬉しい。
しかもそれが、他の市で仕事をしていて、なかなか会えない人ならなおさらだ。
会うなりキスをしようとして、問答無用で殴られる。
お決まりのやりとりを懲りずに繰り返し、シンは発着場の手荷物受け渡し場で、問答無用でアスランの鞄を奪い取った。
「今日は、うち泊まりますよね？」
「ああ、ホテルは取ってない」
やったーっ！
鞄はやたらと重いが、シンの足取りは軽かった。
「いつまでこっちにいます？」
「明日、かな」
「そんだけ！？」
「あのな、休暇取るの大変なんだぞ」
戦後のすったもんだの挙げ句、何故だか気がつけばザフトの開発局にいたというアスランは、今はそこで、太陽光エネルギーの研究をしている、らしい。
マイクロユニットにヴァルチュールリュミエールを搭載して、常時プラントを守るという構想のために、エネルギーが一番問題なんだ言って笑うアスランは、どうやらそのプロジェクトの中心人物になってしまっている、らしい。
機密だと言ってあまり詳しいことは教えてもらえないけれど、シンは知っているのだ。
マイクロユニット使うとか言ってる時点で、アスランさんが言い出したってわかるじゃん。
忙しいの、自分のせいじゃん。
このあいだ、それを言ったら怒られた。
それでも、言わずにはいられない。
「大人しく、飼い殺されてればいいのに・・・」
さすがにそれは、アスランもカチンと来たらしい。
「何か言ったか」
あー、また怒らせた。
そう思ったところで、シンも止まらない。
「そんな頑張ったって、どーせアンタの名前出ないんだろ！」
軍籍も、また偽名だと聞いた。
どんなに頑張っても、「アスラン・ザラ」が表に出ることは、もうないのだ。
「名前なんか関係ないだろ」
「だってさあ！」
涙目のシンの頭をばちんと叩き。
「で、俺はお前とケンカしに来たのか」
アスランは、その真っ赤な涙目をのぞき込んだ。
「・・・っ！」
シンは、ぐっと歯を食いしばった。
そんなわけないじゃん。
あー、もうこの人は！
「まずメシ、食いましょう」
ええっとそれから。
それから。
「お前、この間ベッド買い換えたって言ってたな」
そう言われて、こっくり頷く。
「はい！でっかいのにしたから、もう、ちょっと殴られたくらいじゃ落っこちませんよ！」
「・・・・・そうか」
それでいいのかなぁ、と。
思ったけれども、ケンカをしに来たわけではないので、アスランはそのまま、頷いた。
アスランの体は、綺麗だ。
長い手足の骨格に、しなやかな筋肉がついて。
その上に、滑らかな肌が乗っている。
その肌の上に、走る、いくつもの傷跡でさえ。
とっても、キレイだ。
「っ、は・・・・・」
その綺麗な体は、今、シンのもの。
シンを飲んで、綺麗なきれいな薄桃色に染まっている。
「アスランさん、気持ちいい？」
腰に絡みついてくる脚を押し上げて、繋がりを深くしながらシンが聞く。
「あ、あ。・・・お前は？」
ゆるりと一度首を振り、シーツに散った髪をうねらせて。
伏せていた目をとろりと上げて、アスランも聞き返す。
「イイに決まってます」
にこり、と笑ったシンは、とたんにきゅう、と締められて、ほとんど反射で歯を食いしばる。
「アンタ、急に締めないで下さいよ」
危うくイっちゃうとこだった。
そんな情けないことを、堂々と言ってのけるシンを見上げたアスランは、慌てたように声をうわずらせた。
「お・・・前、そんな顔、するなよ」
「そんな顔って」
どんな顔？
小首を傾げる無邪気な仕草。
さっきの笑顔ほどではないけれど、その小さな所作もかなりキた。
「どんな、って」
答えた声の高さは、もう、矯声と変わらない。
シン特有の、可愛らしさと男らしさのその狭間。
そんな顔見ただけでイきそうだなんて、なんだかちょっと言いたくない。
「どうでも、いいから」
だから、アスランは。
「もっと、動け・・・・っ」
ぐいぐいとシンの肩を引き寄せて、とっても偉そうに続きを強請った。
そんなことをしたら、もっと可愛く、格好良く笑ったシンは、
「はい！」
と威勢良く返事をして。
アスランの腰を抱き直し、たっぷりと自分を飲み込んで、熱くうねるその中を、思いのままに突き上げだしたからたまらない。
「あっ、あっ、あ、ああ・・・っ！」
そこまで思い至っていなかったアスランは、不意に重ねられた快楽に、たちまちのうちにイってしまい。
「もっと、気持ちよくしてあげますね！」
「や・・・っ！」
その後も、散々シンものに責められて、ひとしきり泣くことになったのだった。
翌日、休み取ったから送って行くというシンを引き連れて、アスランはシャトル発着場より先に、貨物用のポートへ行った。
「こんなとこ来て、どうするんですか？」
軍の基地以外の貨物港には、あまり馴染みのないシンは、あたりをきょときょとと見回している。
この様子なら、軍関係者だってバレなくていいなぁと、アスランは思った。
実は少し心配だったのだけれど、これなら荷物持ちだと言えば通るだろう。
「うん。まあ・・・・ああいた。すみません、遅れましたか？」
自分の問いに答えもせずに、見知らぬ男に声をかけたアスランに、シンはむっとしたのだけれど。
「いや、わざわざすまんな」
「とんでもないです」
アスランの顔が、なんだかちょっと仕事モードだったので、とりあえず口をつぐんでみた。
こういう時にちょっかいを出すと、ベッドでの、倍の痛さで殴られる。
「じゃ、これな」
「ありがとうございます」
「おい、中身確認しないのかい？」
「ギルドの紹介ですから。信頼しています」
「嬉しいね、そりゃ」
短いやりとりの後、すぐに立ち去った男の後ろ姿を見送って、シンは、アスランの手に渡された、ひと抱えほどの大きさの箱をのぞき込んだ。
「アスランさん、それ、何？」
「ああ、D.S.S.Dのトロヤステーション跡でサルベージされた、とある試作品の一部だ。早い物勝ちの出物だったけれど、物が物だけに、送ってもらえなくて」
物が物って、ナニ。
てゆか。
えっと。
シンが何かを言う前に、墓穴掘りのアスランは、にこりと笑って言ってのけた。
「お前に会うのはついででな。今回は、これを受け取りに来たんだ」
「・・・ついで」
シンの声が、低くなった。
それって。
俺に会うのも、エッチするのも、全部、ついでだったってこと？
「ああ。夕方の便しか取れなかったから、泊めてもらえて助かったしな」
ふるふるふる。
いつの間にか握りしめられた、シンの拳が震えているのに、鈍いアスランは気づかない。
「でも、休暇取ってきたって」
「仕事でジャンク屋に会いますじゃ、さすがにまずいだろう。どうせ有給が余っているんだし」
さて、帰りのシャトルは何時だろう。
そう言って時計を見たアスランに、シンは叫ばずにはいられなかった
「ア・・・アンタって人はーーー！！」
結局、この後もう一日休暇を取ってくれたアスランは。
シンが一体どこに怒っているのか、一晩かけて説明しても、やっぱりあんまりわかってはくれなくて。
シンをまた、ぎゃあぎゃあ泣かせたのだった。