大きなものに深く穿たれる感覚に､花月はきつく目を閉じて堪えた。

代わりに、勝手に口が開いていやらしい声をもらしてしまう。

「あんっ・・・ぅ・・・」

獣の姿勢で揺れる背中から、散る黒髪を払われて､あらわれた首筋に噛み付かれる。

きつい刺激に反射で後ろを締めてしまい､感じた質量に身悶えながら、まるで猫の交尾だ､と思う。

「士度、痛いよ・・・」

「でも感じるんだろうが。良く、締まってるぞ・・・・っ」

「んはぁ・・・」

激しく動かれて､頭の中が真っ白になる。

腰に溜まった快感が､一気に背筋を駆け上がる。

早すぎる、と思ったけれど､何が早いのかもわからなくなって､花月は高い声を上げて身を震わせた。

「お前、最近早いぜ。トシか？」

士度はシーツに突っ伏して､ぐったりとしている花月の髪を軽く引く。

野生の獣にはあまりない、しなやかで硬い質感が､実は割と気に入っていた。

「自分が大きすぎるの、棚に上げないでくれないか・・・」

視線も上げずにうめいた花月に、くつりと笑う。

「大きくて快かったろ。それにおめーの男も同じくらいじゃねぇのか？」

髪に飽きて､今度は白い背を撫でる。

こうしていると、花月は豹か山猫のようだ。

「あれはね、ジャストサイズっていうんだよ」

やっと首だけをまわした花月が睨む。

「そりゃ、ただ単にてめーのケツ仕込んだのが奴だったってだけの話だろが」

「そう。だからジャストサイズなんじゃないか」

やっと身を返した花月が、半分めくれたシーツを引き上げて、しどけなく濡れたままの腰を隠す。

その仕草はどんな女の媚態よりも艶かしい。

士度はひとつ舌打ちした。

サイズうんぬんはともかく、十兵衛仕込みのこの体が極上なのは、身をもって知っている。

その性悪さも、もちろん。

「だいたいさ、なんで僕のところに来るのかな。マドカちゃん鋭いよ？絶対ばれてるよ？」

君と三角関係なんて面倒なことしたくないー！と、かすれた声で叫んでみている花月の頭を押さえ込み、殴られる。

慣れたじゃれ合いだが、目測を誤ったらしく本当に顎に当たった。

とりあえず拳に噛み付いて報復はしておく。

「オマエが言うなよ」

「うちは三人で了承済み。それにみんな男だもの。女の子は大切にしなくちゃいけないよ、士度」

「・・・・」

思い切り黙った士度に、花月は深くため息をついた。

似てる。誰かに似てる。

そう、思春期の頃の十兵衛だ・・・

「・・・・大事にし過ぎるのも、たいがいにした方がいいと思うよ・・・・・・」

「うるせぇ」

花月の精一杯の助言を、士度は一言で蹴った。

そして、花月の長い足に蹴られた。

「最初に押し倒しやがったのはてめーだろーが」

「押し倒したんじゃなくて、乗っかったんじゃなかったかな。確か」

ＶＯＬＴＳ時代もしていたし、外に出たあとは、会うことは減ってもそちらの頻度は増えた。

最近はまた減っているから、たぶん、寂しかったのだろうと、今だから思う。

「十兵衛も鋭いだろ、そういうことは」

「うん。十兵衛は知ってる。たまーにちょっと怒るよ。シた次の日会ったりすると。俊樹は・・・知らないだろうなぁ」

「じゃあ、オレんとこ来んなよ」

「今日来たのは士度だろう・・・」

天井を見上げたままの花月はそれから、「おもたいんだよ」、と呟いた。

その声が小さかったこともあり、士度は意味を取るのが、少し、遅れた。

「フン、贅沢言ってんじゃねーよ」

自分を大事にする人間の想いが重いなど、贅沢にもほどがある。

想いが重い・・・そんなのは十兵衛のギャグくらいにしておけ・・・

そんなことを思う自分に、士度は慌ててブレーキをかけた。

どうも、無限城のお笑い芸人共に感化されている気がする。

「士度だから言うんだよ」

そう言って笑った花月は、マドカ一筋の士度から見ても、十分魅力的だった。

裏世界育ち独特の、少しの影と諦めと狂気とを含んだ柔らかな笑みは、マドカにはないもので。

もちろん、こんなのと恋愛する気はさらさらないけれど。

「テメーの贅沢な愚痴聞きなんざ、誰がするか」

まあ、それくらいならしてやらないこともない。

でも、それだけだ。

「次誘うんなら銀次あたりにしろ」

「銀次さん誘う勇気があったら、士度なんかに声かけない、よっ！」

がばりと起き上がった花月が投げた絃を、士度は何とか避けた。

パイプベッドの枠が、３センチほど削げ落ちた。危ない。

「ばかやろう」

また転がった花月の、形良く尖ったつま先が､士度の目線まで跳ね上がって落ちた。

銀次が望めば､花月は体だろうが命だろうが好きに差し出すだろう。

しかし銀次はそれを望まないし､だから二人とも銀次が好きだ。

なんだか微妙に方向性が違う気はするが。

「オマエは銀次を崇拝し過ぎだ」

「いいじゃないか、別に・・・」

男とは思えない体の柔らかさを発揮した花月が、変な角度から白くなめらかな脚を伸ばして、士度の太い腿を蹴りつけた。

「士度､ほんとに。マドカちゃん泣かせたら怒るからね」

「だからてめーが言うな」

「浮気なんてサイテーだよ」

浮気？浮気なのか！？と悩む士度をもう一度蹴りつけ、花月は床に滑り落ちていた毛布を、無理やり腕を伸ばして拾い上げた。

「浮気なわけないだろう。浮気っていうのはね、浮ついた気って書くんだよ。君、僕と会うとき何か浮ついてる？ただシたいだけじゃないか。カケラも浮いてないよね。ものすごく地に足ついてるよね。処理にお金使わなくて済むしね」

自分の言ったことを一気にまくし立てて否定し、毛布を被る。

「一眠りしてまだいたら、ご飯作ってあげるよ。おやすみ」

機嫌が悪いのかいいのかよくわからない。

「まあ、いいけどな」

もう遅いから、今から帰ると余計に恋人を心配させるだろう。

そう思い､士度もそのまま寝転んだ。

毛布もシーツも花月が取ったままだが、いつものことだから別に気にならない。

「ん・・・」

すぐに花月が転がって､士度にくっついた。

好きなだけ欲を満たした体は、すぐに眠りに落ちていこうとする。

「大事にし過ぎるのもたいがいに、か・・・」

とうに眠りこけた花月からの答えはもちろんなく、士度もそれ以上の言葉など、もちろん望まず。

だからこの友人たちは、朝が来るまでしっかりと休息を取ったのだった。