手錠
なんかヘンだ、と思った時には、もう手が出ていた。
シンが部屋に来ても、机に張り付いたままのその人の、手の動き。
袖口からちらりと見えた、ソレは何？
「アスランさん、それ、手」
掴んだ手首には、やっぱり見事な傷がついていた。両手首に、ぐるりと。
「・・・・ああ。ちょっとな」
「ちょっとって、それ、何？」
「うん、だから、ちょっと」
なんでこういう言い方しか出来ないかな、この人は。
「俺も本物見たことないですけど。手錠つけて暴れるとこんなんなりますよね」
ずばり言ってやると、アスランは観念したように、しかし相変わらず要領を得ないことを、目を合わせずに言った。
「ああ。だから、ちょっといつもと違ったことをと・・・」
この人意外とマヌケだけど、最近捕虜になったとかそんなことはない。
そういや昨日出かけてたみたいだし。いつもと違ったことって、それ。
「もしかして、議長？」
「まあな。・・・あんまり聞くなよ」
「えー、だって気になりますよ」
思い切り嘆息したアスランの手を捕まえたまま、しげしげとそれを眺めた。
「議長も、こういうことするんだ」
あー、でも、確かに前のアレはちょっとヘンタイっぽかったかも。
見てたもんなー。まあ感謝してるからいんだけどさ。
アスランと初めてした時のことを思い出して、ちょっと赤くなる。
「俺がうっかり暴れたから。大人しくしてれば、傷もつかないで済んだんだがな」
両手をシンに預けたまま、遠くを見たアスランに、シンは容赦なく突っ込んだ。
「あんたがうっかり暴れるようなことって、何されたんですか」
「・・・・・・」
アスランは、思い切り黙った。
かなり、言いたくないらしい。
ナニされたんだろ、ほんとに。
シンは、議長に抱かれていたアスランを思い出した。
唯一知ってる想像の材料は、アレだけだけど。
あん時のアスランさん、すっげー色っぽかったなー
当初の目的を忘れて、思わず、口元が緩む。
「ねえねえ、今度、俺たちも使ってみます？」
「嫌だ」
即答かよ。
「あんたがじゃなくて、俺がですよ？」
「絶対に嫌だ」
むー、とむくれたシンから腕を取り返し、アスランは立ち上がってぽんぽんとシンの頭を撫でた。
「頼むから、妙なことに興味持たないでくれよ」
「いいじゃないですか、あんただって俺くらいのとき、そういうのってすごく興味ありませんでした？」
「なかったな」
実地で経験していたから、興味も何もあったもんじゃなかったとは、流石に言えない。
「ちぇ」
むくれたシンの頬に、するりと指を滑らせて、アスランはそっと引き寄せて、キスをした。
やさしいキス。
シンの大好きな。
「俺は、こうして普通にするのがいいと思うんだがな」
するすると撫でてくる手のひらや、頬や額に繰り返し触れる唇。
その気持ちよさに、シンもなんだかどうでもよくなってくる。
「うん、そうかも」
「そうだろ」
また、頭を撫でてくれた手を捕まえて、かさぶたになった傷をぺろりと舐めた。
アスランはちょっと笑って、その手でまたシンの頬を撫でてくれて。
うん、こういうのがいいな。
そう思って、シンも笑った。
かちゃかちゃと、小さな金属の擦れる音。
時折悲鳴じみた声の混じる、苦しげな喘ぎ。
かすかな、水音。
「う、あ・・・ン」
アスランは、後ろ手に手錠を掛けられた両手をきつく握り締めた。
肩を付いて、うつ伏せに。
腰を高々と上げた、あられもない姿で。
レイの繊細な指に後ろを弄られ、時折前にも触れられて、いきそうになるたびに、きつく戒められて。
そんな責め苦を、どれほどの間耐えただろう。
手錠を掛けられているために、脱ぐことの出来ない上半身は、きちんと軍服を着込んだままだ。
硬い生地が、肌を擦る感覚さえ、辛い。
「あ、は・・・・」
弛緩した口元からは、啼き声と唾液がこぼれて、シーツと聞く者の耳を、しとどに濡らしていた。
つい、と指が引き抜かれ、代わりに、舌が潜り込む。
「くンッ」
「隊長」
両手で狭間を押し開いていたために、レイの反応が遅れた。
びくびくと震えながら、とくとくと吐き出し始めたそれの根元に、慌てて指をかける。
「やっ、やぁっ、ああーーっ」
恥も矜持もかなぐり捨てた、本物の悲鳴と共に腰が揺れ、かろうじて姿勢を保っていた膝が、崩れた。
「隊長、腰を上げてください」
やり辛いです、と、淡々と語るレイに、アスランは言葉を返す余裕もない。
ただ、背筋を引きつらせ、身をよじってその辛さに耐えるだけだ。
レイは、ひとつため息をつくと、戒めたものごと、下から腰を掴み上げた。
「――――っ！！」
声にもならない悲鳴、ぼろぼろと落ちた涙が、冷たい汗に混じってシーツに吸い込まれる。
それに頓着した様子もなく、レイは再び、アスランの後ろを舐め始める。
今度はいってしまわないよう、きちんと片手で押さえつけたまま。
「あっ、あっ、ああっ―――――」
鳴き声は、夜の帳を引き裂いて、落ちる。
「・・・そろそろ、いかせてあげようか、レイ」
少し離れたソファに身を沈め、少年たちの繰り広げる痴態を悠々と眺めていた男が、不意に声を上げた。
アスランは、その言葉すらもう理解できないようで、ただ、ひくひくと泣くだけだ。
「はい。ギル」
答えたレイは、ずっと束縛され続け、がちがちに硬くなったものから指を解いた。
そうして、根元から先まで、緩やかに撫でてやりながら、赤く充血した蕾の縁を、そっと、舌先でなぞる。
「あっ、うぁっ、うぅ・・・っ」
留められ過ぎていたものは、すぐにはすべてを吐き出せない。
どく、どく、と。
待ち焦がれた開放さえも苦しげに、幾度もつっかかりながらレイの手を濡らしたアスランは、今度こそ、自身がかき乱した、シーツの海に倒れこんだ。
「っ、あ、う・・・・」
ほの赤く染まった脚に、白い体液を飛び散らせ、はぁはぁと荒い息を紡ぐ唇は閉じられず。
戒められたままの両の手からは、鉄の輪を伝って血が滴っている。
弱りきった「獲物」の風情を醸し出すアスランに、ギルバートは満足げに目を細めた。
「本当に、君は可愛いね」
ひたすらに従順なレイも可愛いが、時折思わぬ反応をしてみせるアスランも、また、可愛い。
先日、シンを与えてやって。
今日呼べば、連れて来るのが道理だろうに。
彼のこういう反応は、天然か確信犯かいつも微妙なところだが、今回はわかっていてやったのだと、ギルバートは確信していた。
だから、ひとりでやってきた彼に、ちょっと遊ぼうと言いくるめて手錠を掛け、レイを使ってちょっとした『おしおき』をしてやったのだが。
自分でやれば、手加減してしまう予感があった。
レイを使ったのはそのためだが、想像以上のアスランの反応に、ギルバートは非常に満足していた。
「辛そうだね」
乱れた襟元を、直してやる。
下肢には何もつけていないのだ。襟だけ直しても何の意味もないのだが、それが余計に羞恥を煽り、アスランは耐え切れずに顔を伏せた。
「少し、休んでいなさい」
「は、い」
喘ぎ疲れてかすれた声に、少し、笑い。ギルバートは、傍らで見上げるレイの肩を抱いた。
「レイ」
「はい、ギル」
赤い軍服がするりと外され、水色のアンダーから白い肌があらわれる。
それを横目に見てしまい、アスランはきゅっと目を閉じた。
「あ、は・・・・」
聞こえてくる、レイの喘ぎ。
素肌がシーツを滑る音。
人の動く、振動。
すぐ側で行われている行為に、熱に犯されたアスランの体が、疼く。
半端に高められたままの、体の奥が辛い。
達することを許されても、男のものを咥え込み、感じるように仕込まれたそこは、まだ満足していない。
あんな、細い指の刺激では、足りない。
もっと熱いものを。もっと硬いものを。
「入れるよ、レイ」
「はい、ギル・・・っ、ああっ！」
レイ嬌声。
あんなふうに。
中、に。
何も食めない、寂しいそこがきゅうっと窄む。
いったばかりのものは、また辛いほどに立ち上がり、レイの声が聞こえるたびに、ひくひくと震えている。
あんなふうにされたい。
中に、欲しい。
しかし、腕を後ろで拘束されて、自分で慰めることさえ出来ない。
「ふ、ク・・・・」
ちいさくうめいたアスランは、力の入らない脚を無理に動かし、横に倒れたままだった体を、うつ伏せにした。
シーツに擦りつけたものは、もう、先端からに蜜を滲ませている。
「あ、ああっ、ギルっ・・・・」
高くなっていくレイの声。
自分が犯されているような錯覚さえ、覚える。
「んっ、あ・・・」
「ああっ・・・！」
アスランがシーツを濡らすのとほぼ同時に、レイの達する声が聞こえた。
音を立ててのキス。
そして、抜き出す、音。
くちゅり。
「は、あ・・・・」
レイの満足そうなため息。
対してアスランは、体内の飢えに涙をこぼす。
いくら吐き出しても、足りない。
中に、欲しい。
「アスラン」
声を殺して泣くアスランに、ギルバートの声がかかった。
おそるおそる、目を、開く。
目の前に、あらわにされた、男の体。
それに、こんなにも欲情する自分は、もう完全におかしい。
「十分、休んだかね」
濡れたシーツも、汗みずくの体もわかっているのだろうに、そう問うてきたギルバートに、アスランはこくこくと頷いた。
ひく、と喉が鳴って、涙がこぼれる。
その様子に笑って、ギルバートはレイを促した。
「随分辛そうだね。レイ、続きをしてあげなさい」
「はい。あの、しかし、ギルは・・・？」
小首を傾げる可愛い仕草。
「可愛いレイ。君が、アスランとしているところが見たいのだよ」
「はい」
可愛い、と言われただけで、ぱっと顔を輝かせる、本当に可愛いレイ。
そう、可愛いレイに犯される、君が見たいな、アスラン。
二人にさせるのは初めてではないけれど、今日は殊更面白そうだ。
揃えていた膝をレイに割られ、しかし自ら望むように体を返したアスランは、体の下に敷かれた手のひらで、きつくシーツを掴んだ。
この飢えを満たしてくれるのなら、なんでもいい。
ずっと疼いていた場所を、レイの指先で確かめられ、思わず腰を揺らして、媚びるような眼差しで彼を見上げた。
「まだ、柔かいですね」
答えることも出来ず、ただ、震えるアスランを、ギルバートに向けるものとはまったく違う、感情の乏しい瞳で見下ろすと、レイはまるで荷物のように、組み敷いた体を引っくり返してしまう。
先ほどと同じ、うつ伏せに。アスランは、震える膝に精一杯の力を込めて、腰を上げた。ぱさりと落ちた赤い制服の裾をめくり上げられ、細い指に腰を掴まれて、期待に打ち震えるそこ。
さすがのレイも、その媚態に反応して、再び力を持っていた。
それを、押し込む。
「あ、ああっ・・・・ン」
ずっと飢えていた場所を満たされて、アスランは甘くすすり泣いた。
気持ちいい。頭の中が、真っ白になるほどの快楽。
体が勝手に動いて、手錠がかちゃかちゃと音を立てる。
レイはくっと息を詰めた。
アスランのそこは、待ち焦がれた楔を必死に喰い締めて、侵入さえ阻んでいる。
「隊長、欲しいなら締めないで下さい」
それに耐え、奥底まで貫いたと思ったとき、ぐっ、といっそうの締め付けがレイを襲った。
掴んだ肌に爪を立てて、なんとかやり過ごす。
「・・・・隊長」
「っは、あ・・・・」
堪え切れなかったアスランが、入れられただけでイってしまったのだ。
呆れたようなレイの声にさえ反応し、アスランはひくひくとそこを痙攣させた。
「いいじゃないか。ずいぶん我慢していたようだしね」
笑みを含んだギルバートの声にしぶしぶ頷き、レイは『隊長』の腰を抱えなおす。
そこは、いまだにレイのものに深々と貫かれ、更なる陵辱への期待に、打ち震えていた。
ちゅ、ちゅっ、と、珍しくアスランからたくさんのキスをくれて、シンは嬉しくなった。
「へへ、もっと、って言ったら、どうする？」
「・・・・いいよ」
「え、マジ？！」
ぴょい、と子ザルのように飛びついてきたシンを抱きとめて、アスランは思った。
ほんと、普通にするのがいいのにな。
この期に及んでそんな感想しか出ない彼は、ある意味、幸福なほど鈍感だった。