足りない
がったん、と、部屋自体が揺れる勢いでドアが開いた。
ああ、帰ってきたなと思う間もなく、熱い体温が、びったん！と、アスランの背中に貼り付いた。
「ただいま！アスランさん！」
「おいこら、刃物使ってるんだ後ろからつつくな危ないだろう！」
「だって！」
叱りつつ、包丁をまな板の上に置いて振り向くと、すぐそばに、シンの真っ赤な瞳があった。
瞳だけでなく、顔も真っ赤で。
なんだか必死の形相で。
「１か月ぶりのアスランさんですよ！」
「・・・・意味が分からないぞ・・・・・・」
わからないなりに、アスランは。
貼り付かれたままでは食事の支度どころではなくなることは、経験上わかっていたので。
また何かわめこうとしたシンの口を、自分の唇でちょっとだけふさいで。
それから、硬直したシンの肩を、とん、と押した。
「汗臭いぞお前。とにかくシャワー浴びてこい。その間に食事はつくっておくから」
「えっ、あ、はい！」
反射で返事をしたシンは、しかしすぐに我に返ってアスランの瞳を見返した。
「ああでも、シャワーしたらしぐシたい！」
まるで子供のようにあけすけな言いように、アスランはシンの頭をがっしと掴んで浴室の方を向かせた。
「これ以上余計なこと言うな！食わせないぞ！」
「いっ、痛い痛い痛い！わかりましたよ！わかったから離っ！」
わめく頭をぽいと放ると、シンは恨めしげにアスランを見てから、それでもものすごい勢いで浴室へと駆けて行った。
この様子だと、ざっと浴びるだけですぐに戻ってくるだろう。
さっさと支度を済まさないと間に合わないと、アスランはまた、包丁を取り上げる。
「おかえりぐらい言わせろ、このバカ」
悪態は、浴室で何かをひっくり返す音に紛れて、消えた。
戦艦勤務のMS乗りは、１、２ヶ月帰らないということもざらにある。
その仕事を選んだのはシンだったし、アスランがもうその道を選ばないことも、わかりきっていたことだった。
それでも。
「でもやっぱり、さびしーです」
ぎゅーっとアスランにしがみついて、一ヶ月ぶりの恋人の抱き心地を堪能しながら、シンは言う。
「なんか、途中でアスランさん足りなくってどうしようかと思いました」
「俺が足りないって、何だそれは」
苦笑いをしながら、すり付けられた黒髪を撫でる。
見た目よりも柔らかなその撫で心地が、アスランはとてもとても好きだった。
「わかんないですか？アスランさん切れですよ」
「わからない」
「ひっでー」
むー、とむくれたシンは、いったん気持ちのいい体を離して、それを覆うシャツを引き剥がしにかかった。
「たまには本物に触んないと、ゲージがゼロになるんです！」
「何のゲージだ、何の」
言いながらも、アスランはようやく、シンの言っていることがわかったような気がしてきた。
シンの触れた場所から、何かが満ちてくるような気がする。
シンだけに、感じるもの。
シンにしか、満たせないもの。
これをシンも感じていて、それを「アスラン」と言っているのなら。
それならば、アスランにも、わかる。
でも。
「はーっ、アスランさんだ・・・・」
「・・・どこ見て言ってるんだ」
部屋着のズボンを引きずり下ろし、しみじみと言われたその意味は、たぶん、やっぱりわからない。
というか、わかりたくない。
「えーだってやっぱり確認したいじゃないですか」
する、と、いきなり直接ソレに触れられる。
びくん、とアスランの背中がしなる。
「こら、急に」
「あ、すいません」
さすがに急ぎすぎた自覚があるのか、慌ててソレから手を離したシンは、それでも名残惜しげに下腹のあたりを撫で回しながら、ちゅ、ちゅ、と肩口と胸元にキスをした。
「乳首勃ってる」
「大声で言うな」
ぱかんと殴った手を捕まえて。
シンをがつがつ殴るとは、とても思えない綺麗な指にもキスをする。
機械をいじって、細かい意作業をする手だから、爪はきれいに切りそろえられて。
その先にかぷんと噛みつくと、ひく、と、のし掛かった体全部が震えた。
これくらいでも気持ちいいんだ。
そう思うと嬉しくて。
指を一本一本甘咬みしながら、ぺろぺろと舐めていけば、その指を伝って涎が落ちて、アスランの胸に落ちた。
「・・・っ！」
それが丁度、赤く色づいて勃った場所だったので。
「あ、すいません」
イタズラ半分に舐め取れば、ぎゅむ、と取られていない方の手で髪を掴まれた。
「こ、ら」
「えへ」
にっと笑う赤い瞳。
アスランの、大好きな。
そうしてそれが近づいて、ちいさく口を開けてやれば、案の定、はくはくとむさぼるようなキスが落ちてきた。
唇に噛みつく歯先に。
絡みつく舌に、酔う。
「・・・ねえ、足りないでしょ？」
名残惜しく離れた唇で問われれば、ちょっとぽうっとしてきた頭を回すことなく、アスランはこくりと頷いた。
確かに、足りない。
シンが足りない。
もっと、欲しい。
シンは嬉々として、口を下に持っていって。
さっき離した、アスランのものに、キスをして。
でも、すぐに離して。
それから、ひくひくと震えていた、長い脚の、膝を掴んで持ち上げた。
「アスランさんだぁ・・・・」
「あの、な」
二度目のセリフに我に返り、アスランは踵をシンの背中にぶつけた。
それでも全く懲りないらしく、シンはそこをのぞき込んで、それからぱっと顔を上げて。
「ねえ、せっかく指濡らしたんだから、自分でイジったりしませんか？」
「するか！」
「えー、そしたらしっかり見て、思い出してオカズにすんのに」
「するな！」
騒ぐアスランの、頬が赤い。
潤んだ目元も赤く染めて、シンと目が合うと、きゅっと背けてシーツに片頬を埋めてしまった。
こんなカッコ、何回も何回もシンに見せているくせに、やっぱりまだ恥ずかしいんだ。
抱えた脚が震えている。
もぞりもぞりと腰が動いて、勃ちあがったソレが震えて。
それから、シンからよく見えるようになったソコも、目に見えて、蠢いた。
「じゃ、舐めてあげる」
ごく、と生唾を飲んで顔を近づけると、ぎゅうぎゅうとまた髪を掴まれた。
たまにシンは、このヒトより先に禿げるんじゃないかとちょっと思う。
「だ、から、するな！」
がこん、と、頭にローションのボトルが当たった。
顔を上げれば、ベッドサイドのローションや夜の諸々を入れていた物入れがひっくり返って、アスランの顔に、この前ふざけて買った、夜のオモチャが落ちて引っかかっていた。
「・・・使う？」
「ああ、さっさと・・・そっちじゃない！」
視界を通ったコードの色に、アスランが慌てて声を上げる。
「絶対捨てたと思ってた。ねえ、コレ使いました？」
「つ、使ってない！」
あ、今詰まった。
「使ったんだ」
「・・・・っ！」
ぐん、と。
凄い力で、脚が片方、引き寄せられた。
本気っぽい蹴りを慌てて避けて、逃げだそうとする体を必死に押さえて。
「わ、わ！わかりました！もう言わない！言いませんから！！」
やりすぎて謝り倒すのは、もうお約束に近い。
でも。
シンは、アスランに見えないように、こっそりと頬を緩めた。
これ、使ったってことはさ。
アスランさんも、俺が足りなかったってことなんじゃないかな。
「・・・なんだ」
「なんでもないです。ごめんなさい」
シンは素直に謝って、言われた通りにローションを手に取った。
べたべたと指に取って、アスランのそこになすりつけて。
「動かないでくださいよー」
「う、るさ、い。っ！」
アスランがうるさいので、シンはさっさとソコに指を突っ込んだ。
とたん、アスランが口をつぐむ。
次に口を開ければ、出てくるのは喘ぎばかりだと、二人ともよく、知っている。
「っ、ふ・・・・・ン」
いくらオモチャを使っていたとはいえ、アスランのことだから、そういつもしていたわけではないのだろう。
少し固いそこを、シンはローションを足した指で、ぐちゃぐちゃと緩めていく。
「アスランさんのナカ、すっごいあったかい」
「あ・・・っ、言う、な・・・っ」
きゅう、とシンの指を食い締めて、アスランは腰をよじってシンを見上げた。
緑の瞳がとろんととろけて、ものすごく、美味しそうだった。
会えない間は、いろいろ思い出して自分でシてたけど、本物見ちゃうとやっぱりぜんぜんかなわない。
この、眼差しひとつで。
ガマンを強いられていたシンは、なんだかもう、イきそうになってしまう。
でも、それはもったいな過ぎるから。
「もういい？アスランさん」
指が三本すっぽり入って、まだ余裕なカンジで吸いついて。
赤い肉見えて、ひくひくしてて。
もう大丈夫とわかっていても、それでもシンは、アスランに聞く。
聞かないと、怒られるっていうのもあるけれど。
「いい、から、もう」
とろけた瞳を切なげに細め、控えめなおねだりを聞かせてくれるアスランが、とってもとっても好きだから。
イヤラシくって、大好きだから。
「うん」
こくんこくんと頷いて。シンはゆっくりアスランに侵入る。
アスランのナカは、熱くてきつくて気持ちよくて。
「はー・・・アスランさん、だぁ」
今日何度めかのつぶやきをこぼすと、きゅう、とアスランの脚がシンの腰に絡み付けられた。
「ばかや、ろ」
睨む瞳に浮いた涙は、気持ち良過ぎるせいだと知っている。
「うん」
だって俺、アスランさんバカだし。
そうささやくと、正直な肉がきゅうきゅうと動く。
そのナカを、奥まで入ってゆっくり引くと、絡みつく襞にくらくらした。
やばい、もたない、もったいない。
久しぶりのアスランを、もっともっと感じていたくて。
きゅっと歯を食いしばり、シンは一生懸命腰を使った。
アスランも、それに応えて甘く喘ぎ。
シンは、アスランに。
アスランはシンに満たされて。
それでももっと、足りないと、互いを互いでいっぱいにする。
互いのゲージを、満タンにして。
明日ももっと、頑張るために。