滾る血
血が滾る、というのは、こういうことかと。
シンは、理性を飛ばしつつある頭の隅で、そう思った。
組み敷いた、白い肢体。
シンの手によってたわめられた、長い脚。
その奥の、赤く色づいた場所に。
自分を埋めて。
揺さぶって。
そのたびに、淫らに濡れて熟れた襞に、きゅうきゅうと心地よく締め付けられて。
「あ・・・っ、ぅ、ふ・・・・っ」
快楽の声をかみ殺そうとする、恐ろしく官能的な声が聞こえて。
とってもとっても気持ちいいのに、もっと、もっと気持ちよくなりたくて。
のたうつ腰を掴み締め、熱くさざめく粘膜に、自分の熱く滾ったものを、めちゃくちゃに擦りつけ、シンは、深く深く、その身に自分自身を突き込んだ。
止まらない。
熱い。
全身を巡る血が、沸騰しそうで恐怖さえ感じる。
飛び散った汗が、アスランの胸に落ちて。
彼のそれに混ざって、ひどく、淫蕩な輝きを放つ。
もしかして、この人も。
俺みたいに、熱くてどうしようもなくなってんの？
「あっ、ああっ・・・・っく！」
「ふっ、ううっ・・・・」
堪えることができなくなったアスランの、高い淫声に混じって、自分の吐き出す、獣のような呻きが聞こえる。
アスランのそこが、乱暴な仕打ちに抗議するように、突然ぎゅうっときつく締まった。
「ひっ！い・・・・」
「くっ！」
幾度目かの射精は、それ以前の何回かと同じく、アスランの体内に放たれて。
びくびく震えてそれを甘受した襞は、ゆるゆるとその精を与えた肉を、労わるように包み込んだ。
「はっ、あ・・・・」
それでも、シンの熱は止まらない。
どくどくと、熱い血が全身を巡る音が、耳元で聞こえている。
「シ、ン．お前、まだ・・・・」
弛緩した肢体を押し開く肉塊を感じ、アスランがかすれきった声を上げた。
「っ、いいでしょ、ねえ・・・」
甘えたような自分の声に、何故だか酷く腹が立って。
しかしアスランは、その声にひくりと身を震わせた。
シンの声に、感じた、らしかった。
「明日、に、響く。今だって」
今だって、コンディションイエローが発令されたままなのだ。パイロットは自室にて待機。シンは、上官の部屋に怒られに来て、それで。
ほんの２時間ほど前の戦闘に滾った血に、負けた。
恐らく、アスランもそうなのだろう。
それとも、仕方のない部下を大人しくさせてやるために、隊長の責任として付き合ってうれているだけなのか。
そう思うと、一層血が沸いた気がした。
我慢できない。
「アンタだって、感じてんじゃん」
そう言いながら、震えて半勃ちになっていた彼のものを握り込んだ。
アスランの腰が、ゆるりと揺れる。
シンを飲んだそこが、心地よく締まって。
手の中のそれに、熱く血が通うのが、わかった。
「そういう、問題じゃ」
「じゃあコレ、どうすんの。俺のコレ、どうしてくれんの」
ぐい、と腰を押し付けると、アスランが甘い呻きを洩らした。
濡れた襞にやわやわと刺激されて、シンのものだって堅さを取り戻していく。
その感覚に、アスランがまた、低く呻いた。
「ん、ぅ・・・・」
疲れきった腰の奥に響いて、奮い立たせるような、声。
「動く、から」
「やっ、はぅ・・・っ！」
勢い良く引き出したそれを、もう一度深々と突き刺して。
引いた時に溢れた、どろどろとした体液が、筋ばった内腿に流れる様子に、また、血が熱くなるのを感じて。
「シ、ン。ばっ、この・・・っ」
「足、辛いですか、だったら・・・」
自分を中に含ませたまま、片足を深く押し上げる。
くんっ、と締められるのに歯を食いしばり、その足を逆に倒して、白い体を返させた。
「こっちの方が、アンタ、楽だよね？」
シーツに這わせるかたちを取らせ、力の抜けた腰を抱き上げて。
その人が、一番嫌うかたちを取らせてしまう。
獣の姿勢。
滾り狂う血のままに、貪り合う自分たちに相応しい。
「やっ、だ、これは・・・・っ！」
逃げようと、シーツを掴む指のかたちに、欲情した。
汗に濡れてぬらぬらと光り、まるでそれだけが、いやらしい生き物のようにうねる背中に血が騒いだ。
青い髪が乱れて、その先から汗の雫が滴るさまにたまらなくなって。
目の前に曝された、赤く熟れて自分を食み、白濁に濡れた淫らな場所に。
そこのかもし出す、強烈な快感に、血が滾り落ちた。
「だめ、です」
だめだ。
もう。
離さない。
絶対。
俺のだ。
これ。
俺の…
「やっ！はぁっ！やぁ！ああっ！・・・・」
高く高く、アスランを啼かせながら。
滾り切った血を、想いを、その体にぶつけながら。
シンは、その体を、精一杯抱きしめた。
汗に滑るその肢体は。
やっぱり、シンと同じくらいに、熱く滾る血が、通っていた。
「コンディションイエロー、解除されました。ただ今よりコンディショングリーンに移行します。コンディションイエロー、解除されました・・・・」
枕もとのスピーカーから流れる艦内放送に、アスランはほっとちいさく息をついた。
今、この腰で戦闘は・・・できないとは言わないが、あまり良い状態ではないのは確かだ。
こんなことが命取りになったら、笑い話にもならない。
「まったく、お前は・・・・」
散々好き放題した挙句に、アスランのベッドを占領して眠りこけてしまった少年の頭を、軽い力でべちんと叩く。
それで起きないのはわかっている。
だから、もう一発叩いて。
それからアスランは、その汗を含んだ黒髪を、ぐしゃぐしゃと乱暴に撫でてやった。
戦いに高揚した血と肉を、鎮める術さえ知らぬままに、戦場に放り出されていた子供。
彼を、可愛そうだと思ってしまったのが運の尽きだったのか。
それとも。
必死になってすがり付いてくる腕に、居場所を求めてしまった、己の咎か。
今更、そんなことを考えても、仕方のないことなのだけれど。
少年の、投げ出された細い腕、細い指。
この腕に抱かれて、安堵する自分がいる。
この指に人を殺させて、悲嘆に暮れる自分がいる。
シン、
シン。
指に絡んだ黒い髪。
投げだ出された細い四肢、尖った肘、薄い肩。
アスランと同じ。
滾る血を持つ幼い子。
お前の血は、俺が冷ましてあげるから。
だから。
だから・・・
アスランは、満足げな寝息をこぼす唇に、己のそれを、寄せかけて。
しかし、触れてしまう前に、一度それを止めて逡巡し。
わずかに首を傾けて、頬へとキスの場所を変え、唇を、離した。
シンの頬は。
今だ、滾る血の熱が残っていた。