写真と君と、思い出と
「何なんですかアンタはーーーっ！」
シンの叫びが艦内にこだましたのは、もう、夜も更けた頃だった。
いつものように、恋人の部屋に転がり込んで、あわよくばベッドへ！と隙をうかがいつつも、その人と一緒にいられる幸せに、シンはとろけ切っていた。
きっと喜ぶだろうと、携帯の中の家族の写真を見せてみれば、アスランは想像どおり、いや、それよりずっとキレイな笑顔を見せてくれて。
「俺も、一枚だけ持ってるんだ」
そう言って、見せてくれた写真の中で、幼いアスランは、知らない少年と肩を組んで、見たこともないような、楽しそうな顔で笑っていた。
「前にも話したろう？親友のキラだよ。昔、大切にしていたものは、みんな戦争でなくなってしまったけれど、これだけは肌身離さず持っていたから、なくさないで済んだんだ」
アスランは、そう言って。
見せてくれた写真のように、幸せそうに笑ったのだった。
「あんたって人はーっ！」
次の瞬間、唐突に叫んだシンに掴みかかられ、アスランは思わず彼を殴り倒した。
「何をするんだ！」
「こっちのセリフです！」
見事にひっくり返ったシンは半泣きで、写真を庇うように立っているアスランを見上げた。
そんな。
他の男の写真を、大事そうに抱えているなんて。
そんな写真見て、あんな綺麗な顔で笑うなんて。
凄く、嫌だ。
「そんな写真捨ててください！」
しかしそのセリフは、アスランの逆鱗に触れてしまったのだ。
「ふざけるな！！」
とたん、飛んでくる手加減なしの蹴り。
シンとて赤服。もろに食らわずには済んだのだが、冷や汗が背筋を落ちていく。
頭に血が上っていても、アスランの動きは正確無比、更に、容赦がまったくない。
「殺す気ですか！？」
「うるさい！！」
シンは転がって逃げるけれど、とにかく無茶苦茶分が悪い。さっさと立って逃げ出さないと、冗談抜きで命に関わる。
「ぎゃっ、でーーっ！」
文字通り部屋を蹴り出され、廊下にへたり込んだシンは、時間も考えずに、渾身の力を込めて、冒頭の雄叫びを上げた。
「何なんですかアンタはーーーっ！」
そうしてその後、艦長に厳重注意を受けたのだった。
「はぁ？何、あんたそれから口もきいてないの？」
ルナに聞かれて、頷いて。
シンは、黙々とパンを口に突っ込んだ。
今日の食事は、シチューにサラダ。シンにとっては、ちょっと量が足りない。
こんな時、アスランさんと一緒なら、「しょうがないな」って、少し分けてくれるのに。
「さっさと謝った方がいいわよ。人の大事なもの、捨てろとか言ったあんたが悪いんだし」
「しかし、そこで暴力に訴える隊長にも非はあるだろう」
レイの言葉に、ルナマリアもしぶしぶ頷く。
「そりゃ、まあねぇ」
顔に似合わず武闘派な隊長の、鮮やかな動きを思い浮かべ、ルナマリアは、ほう、とため息をついた。
「だろ！？殺されるかと思った」
「しかし、先に手を出したのはお前だそうだな」
「ぐ」
喉に詰まりそうになったパンを、シンは無理やりに飲み込む。
「隊長が鈍いのは、あんたが一番よく知ってるでしょ？そんなんでいちいち殺されかけてたら、この先身が持たないわよ」
それだけ忠告すると、ルナマリアは食器を持って立ち上がった。
パンが半分残っている。
「あ・・・そのパン、食べないならくれよ」
「このお子様っ！」
ルナにパンを投げつけられ、シンはひょいと首を傾げた。
「なんだ？あいつ」
「鈍いのはお前も一緒ということだ」
ルナマリアがアスランに好意を持っていたということに、まったく思い至らないシンが悪い。
「どちらにしろ、その件はさっさと片付けろ。食事くらい、落ち着いてしたいからな」
「レイー」
席を立つ友人を見送って、シンはルナにもらったパンを手に、情けなさそうな声を上げた。
もちろん、レイは振り返らない。
食器を返すと、さっさと行ってしまった。
そりゃあ、悪かったと思わなくもない。
アスランが、親友と戦って、辛い目に遭ったという話は聞いているし、他に昔の写真がないのなら、それを大事にするだろう。
でも。
「肌身離さず・・・」
そこまで大事に、他の奴の写真を持っていられては、恋人として面白くないのは当然だ。
ただでさえ、アスランはキラキラ言ってムカつくのに。そんな奴と、あんなに楽しそうに映ってる写真、嬉しそうに見せてくれなくたって・・・
そりゃ、悪気がないのはわかってるけど。
天然だなんて知ってるけど。
そう。
本っ当―に、ただひたすらに鈍い人。
「・・・なんか、子供苛めたみたいな気がしてきた」
実際、痛かったのはシンの方なのだが。
仕方ない。惚れた弱みだ。
謝りに、行ってやるか。
普段ならば、絶対に自分の非など認めないシンだったが、アスランに対しては、どうにもそれを通しにくい。
そう、仕方ないのだ。
だって、先にたくさん好きになってしまったのは、シンの方なのだから。
しかし、意を決して謝りに行ったアスランの部屋はカラだった。
艦長に聞いてみれば、珍しく艦外へ外出中だという。
基地外へ出るための届けは出ていないというから、別に遠出をしているわけではないだろうが、シンはなんだか拍子抜けしてしまった。
ちぇ、せっかく謝ってやろうと思ってたのに。
しかし、いないものは仕方がない。シンだって仕事はあるのだし、アスランが帰ってきたら、謝ればいいや。
そうは思っていても、やっぱり夕食時に食堂へあらわれたアスランを見ると、緊張してしまう。
結局、また話しかけられずに、レイやルナと一緒に食べて。
さすがにアスランがいるところでは口には出さないが、酷く険のあるルナの視線に仕方なく（仕方なく！）食べ終わったシンは、一人でもそもそと食事をするアスランに、久しぶりに近づいた。
あ・・・やっぱりこの人、キレイ。
・・・・なんだか、大好き。
「今日、もう少ししたら、あんたの部屋に行くから・・・ってあんた、それ丸々残す気ですか！」
本題を済ませる暇もあればこそ、皿に残った主菜の魚に、思わず声を荒げてしまう。
「お前だって、俺が青魚ダメなの知ってるだろ。・・・食べるか？」
シンはあんなに悩んだというのに、アスランはまったくいつもどおりにそう言って、ぐい、と皿を押しやってくる。
それをもらえるのは嬉しいけれど、シンはちょっと泣きたくなった。
この人にとって、俺と口きかなかった数日間なんて、ほんと、どうでもいいことなんだ。
「っ、も、ばはあおーーぅ」
魚のグリルを丸ごと口に突っ込んで、シンは意味不明の叫びを残し、食堂を後にした。
「ばかやろう、か」
呟いたアスランは、スープにスプーンを突っ込んで、ひとつ、ため息をついた。
丸ごと飲み込んだ魚が骨付きだったので、喉に引っかかってちょっと大変だった。
それで、アスランの部屋へ行くのが、随分と遅くなってしまった。
怖気づいたわけじゃないぞ。
部屋の前でそう呟いてから、シンは思い切ってドアを開ける。
ふしゅ。
真っ暗。
「って、何で寝てんですか！？」
「・・・・ん？あ、シン？？」
ベッドのあたりでもぞもぞと何かが動いて、寝ぼけた声と共に、むっくりと起き上がってくる。
「いや・・・だって、お前、来ないから」
「ちょっと・・・いろいろ手こずってただけです！」
主に、魚の骨なんかに。
「仕事か？疲れてるなら、今日はもう・・・」
「それはあんただろ！」
怒鳴ってから。
「あ・・・もしかして、疲れてます？」
フェイスな上に、お人よしな彼だから、仕事の量はシンなどよりも、遙かに多い。
もしかして、喧嘩をしたあの時も、それで虫の居所が悪かったのだろうか。
一瞬にしてしゅんとしたシンを見やり、どうやらやっと本格的に目が覚めてきたらしいアスランは、慌てた。
「いや、そうじゃない。・・・・とにかく座れよ。明かりつけろ」
「はい」
明かりをつけて、その人のベッドに座って。
いつものことなのに、改まると、なんだかちょっと恥ずかしい。
今まで眠っていたせいか、わずかな距離からいつもよりも幾分高い体温が伝わって、シンをドキドキさせた。
そうだ、俺、謝りに来たんだっけ。
「あの、ア・・・」
「ちょっと待ってろ、シン」
なのに、アスランはさっさと立ち上がり、机の引き出しで何やらごそごそとやり始めた。
つくづく人の話を聞かない人だ。
「なんなんですか」
つい、声に険がこもって、応えるアスランの声も、自然と尖る。
「だから、待ってろ」
そう言ったアスランは、小さな箱を開けていて、取り出されたものに、シンは首を傾げた。
「何それ？デジカメ？？」
「ああ。店員にどれがいいか聞いたら、延々説明されて・・・これ一つ買うのに、一日かかった。やっぱり自分で作った方が早かったかな」
「無茶苦茶ですねあんた」
そうか、今日はカメラなんか買いに行ってたんだ。
作った方が早いって、ああでも、この人ならありえるかも。
シンは、呆れ気味にカメラを片手に戻ってくる人を見上げた。
「ああ、三脚が要ったんだな・・・椅子でいいか」
また何か無茶なことを言いつつ、アスランは椅子の背にバランス悪くカメラを乗せ、セルフタイマーを起動させる。
「シン、ほら」
「え、え？」
すとん、とシンの隣に座り直し、アスランは、ひょい、とカメラを指で指した。
「あと３秒だ。シン、あっち向け」
「へ？」
ぱしゃ。
「・・・しまったな、俺が向いてなかった」
「アスランさん・・・？」
撮り直しだ、と、またカメラをセットしに立ったアスランに、シンはやっとまわってきた頭で問いかけた。
「もしかして、俺と写真・・・」
「ああ。キラとの写真を捨てるなんて出来ないからな。変わりに、お前との写真を持っていればいいだろう」
無駄に偉そうなアスランは、そう言うとまた、すとんとシンの側に腰を落ち着ける。
ぴ、ぴ、ぴぴぴぴ・・・・
「アスランさんっ！」
「うわっ」
ぱしゃ。
二枚目は、シンに飛びつかれたアスランの、ちょっと慌てた顔だった。
「シン・・・・」
「ごめんなさいっ」
勢いで謝ったシンの頭を、アスランはぽんぽんと撫でてやる。
「いや。俺も少し大人気なかった」
「そうですよ。殺されるかと思いました」
「お前、反省してないだろう・・・」
今度はゲンコで殴られた。
「痛てっ、やめてくださいよ！」
でも、なんか嬉しい。
「シン、もう一枚。こんどこそちゃんと」
「はいっ」
三枚目は、なんだか照れくさげに、ふたりで笑って。
「これがやっぱり一番かな・・・・」
画面を覗き込んで呟くアスランに、シンもこくりと同意した。
「そうですね。あ、これと、前の二枚も下さい。もー、全部宝物にします」
「ああ、いいよ」
「アスランさんも、肌身離さず持ってて下さいよ」
「わかってる」
ちゅ、と、キスをして。
「アスランさん、俺、仲直りに来たんですけど」
「もう、しただろ」
「もっと凄く、仲直り、したいです」
そう囁きながら、恋人の体を、とさりとベッドに押し倒す。
鈍い鈍いこの人も、それでやっとわかってくれた。
「もう遅いぞ・・・明日に響かないようにな」
「わかってますよ、もう」
シンは、アスランが持ったままだったカメラを取り上げて、代わりに深いキスをした。
喧嘩で数日、更に、その前も何度か押し倒し損ねていたから、結局半月近く。
触れていなかった恋人の肌は、やさしく、シンを迎えてくれた。
「っ、あ・・・・」
胸の先に触れただけで、可愛らしい声が上がって。
「んっ、んぁぅ・・・」
前なんか弄ろうものなら、アスランはもう、泣き声を上げる。
「アスランさん、可愛い」
「何、が・・・・あんっ」
キスをする。いつも厚い軍服に隠された肌に、触れる。
それだけで、この人はもの凄く気持ちいいけど。
でもシンは、もっと気持ちよくなりたい。
「ってわぁっ」
後ろに指を伸ばしかけたその時、急にアスランが起き上がり、すっかり猛っていたシンのソレに、手をかけた。
「・・・・してやる」
「え、ええっ？いいんですか！？」
わーっ、わーっ、わぁーーっ
初めてのことに、動揺しているシンにかまわず、アスランは何度か長い指でするするとシン自身を刺激する。それだけでもすごく気持ちいいのに、彼は少しだけためらってから、すっ、とそこに顔を伏せた。
「うわっ」
あたたかい息がふっとかかったかと思うと、もっとあったかい粘膜がふわりとシンを包み込み、熱くぬめるものが、ためらいがちに絡み付いてきて。
「っ、やばっ、離して、くださ・・・・」
最後まで言えずに。
浅く含まれたまま、どくどくと吐き出してしまい、シンは激しく慌ててしまった。
「すいません！」
喧嘩で謝ったことなんかより、ずっとずっと平謝りの少年に、口からほとほとと白濁の液体をこぼしたアスランは、いや、いいよと軽く答えた。挙句に。
「気持ちよかったか？」
そんなふうに、可愛らしく首を傾げて聞かれてしまい、シンはぶんぶんと首をタテに振った。
「は、はいっ。すげーヨかったですっ！」
てか、気持ちよかったかどうかなんて、あまりの衝撃によくわからなかったんだけど。
でも、そう答えるとアスランはにこりと本当に嬉しそうに笑ってくれたし。
何より瞼に焼き付いたビジュアルに、シンはまた興奮してしまって。
「あ・・・」
まだ、それを手にしたままだったアスランは、また力を取り戻すソレに、思わず赤くなった。
さっき、あんたそれ咥えてただろ。
心中呟いたシンは、その光景を思い出して、同じように赤くなる。
「アスランさん・・・あの、いいですか？」
その声に、ぱっと手を離されてしまい、ちょっと残念だったけれど。
「えっと、後ろ向いてくれますか？今あんたの顔見ると、さっきの思い出してちょっとヤバ・・・」
「お前・・・」
アスランが、後ろからがあまり好きではないことは、シンも身をもって良く知っている。でも今は、アスランも分が悪いと思ったのか、こくりと頷いて後ろを向き、シーツの上に膝を付いた。
白くて綺麗なお尻が突き出されて、ちら、と、頬を染めたアスランが、シンをうかがって。これはこれで、すげーやばい。
うわーっ、アスランさんのお尻―っ。
禁欲の長かった少年に、恋人の体は、結局全部ヤバ過ぎる。
今すぐ突っ込んじゃいたいけど、でもそんなことしたら、また、しばらくさせてもらえなくなるから。
だからシンは、くらくらするほど魅力的なその双丘に、ちゅちゅっ、とキスをして。
落ち着くつもりが、その肌の匂いと感触に、もっと誘われてしまって。
どっと溢れてきた唾液を舌に乗せ、そこにちゅーっと吸い付いた。
「やっ、シ・・・ンっ」
可愛い声。
ぎゅうぎゅうと差し込んだ舌を、熱い粘膜がきゅうっと締め付けて。
「んんんーん、んーふっ、んーんーんーんー」
息吐いて、もーちょっと緩めてくださいよ。
言ったつもりでも、舌を使いながらではまるで通じない。
はずなのに。
「できな・・・あっ」
どうやらわかったらしいアスランは、涙声でそう訴えた。
ちょっとカンドー。
思ったシンは、すべらかな手触りの腰を掴むと、ぎゅーっと引き寄せ、舌をねじ込んだ。
「っあ、やっ、この、ばか・・・っ」
こういう時に、言われる馬鹿は可愛いな。
もっと、言って欲しい。
そう思いながら、ちゅくちゅくと舌を使っていると、アスランはもう罵倒する元気もないのか、シーツに突っ伏してひんひん泣き出した。
今日ちょっと早くないか？でも、こんなならもう平気かな。
ずる、と、舌を抜き出して、もう一度、ぺちゃぺちゃとまわりを舐めて。
「じゃ、アスランさんいいですか？」
「聞くな・・・っ」
「聞かないと怒るくせに」
「それはおまっ、ああ・・・っ」
ぼやきながらも余裕のないシンは、ぐいぐいとそこに腰を押し付けて。
久しぶりの感覚に、アスランはシーツにしがみ付いて、耐えた。
「うっわ・・・やっぱ、スゲェ・・・・」
さっき、一度イかせてもらっておいて良かった。危なく暴発するとこだった。
それくらい、アスランの中は気持ちいい。
後ろからの姿勢のせいで、いつもより深く繋がって、もうどうしようもなく気持ちいい。
アスランも、それは同じなのだろう。
「くっ、あ・・・ふぁ・・・・・」
荒く息をつきながら、ひくひく身を震わせながら。
閉じていた目を不意に開き、濡れた瞳でシンを見上げる。
「シ、ン・・・」
めったに聞けない、甘えたような声。
マジヤバイって。
「すいません、ちょっと・・・我慢できねー・・・・」
そう呟いたシンは、穿ったそこからずるりと引き抜き、絞られる感覚と、卑猥な眺めに目を細め、すかさず深く突き上げた。
「あ、ああっ」
いきなり激しく動かれて、たまらず身をよじったアスランは、すぐにまた引き抜かれる反動に、感じる自分を持て余す。
「いっ、あつ、あ、ああ・・・っ」
シーツを掻き毟るようにして悦ぶアスランに、シンも、たまらなくなって。
深く貫いたその一瞬、我慢しきれなくなって。
「―――――っ！」
たっぷりと注ぎ込んだ後、やっと体を硬直させたまま、ひくひくと震えるアスランに気が付いた。
「・・・あ、すいません」
そうして、抜き出してやる刺激と共に、いつの間にか涙を溢すほどに育っていたソレを、やさしく扱ってやった。
「っ、あ・・・」
やっと訪れた解放に、深く息をついたアスランの背に、シンは何度もキスをする。
「すいません、サカっちゃって・・・今度は、一緒にイきましょうね」
「いいよもう・・・お前下手なの、慣れてる・・・・・」
「下手だって言うなら、もっと練習させて下さいよ」
「誰が」
「あんたの他にダレとヤっていいんですかぁっ！？」
ぎゃあぎゃあと言い合いながら、第二ラウンド。
ぐったりとしてしまったアスランを、拝み倒して更にもう一回。
気力も体力も十分なはずの人なのに、こういうことには弱いのか、そこで力尽きて眠り込まれてしまい、シンはそれでも酷く満たされた思いでアスランの寝顔を覗きこんだ。
綺麗な、人。
大好きなアスラン。
時々、鈍くて無神経で困るけど、でもそんなところも愛してる。
「あ、そうだ」
シンは、ベッドサイドに置きっぱなしになっていたカメラを思い出し、それを手にとって電源を入れた。
ふたりで撮った写真がすぐにあらわれて、えへへ、と、笑って。
それから撮影モードに切り替えると、その人の寝顔に向けて、シャッターを切った。
ぱしゃ。
長い睫毛が落とす影、緩く開いて息づく唇。
上気した頬の赤みも、そこに、藍色の髪が散るさまも。
その人の、艶やかで穏やかな姿を、そのカメラは、それは忠実に写し取ってくれて。
「へへっ」
シンはその出来に満足して、眠る恋人の隣へ滑り込んだ。
そうして、あたたかな体を、ぎゅうっと抱きしめる。
そう。
どんなに良く撮れた写真も、このぬくもりは、写し撮れないから。
これだけは、ちゃんと自分で憶えていなくちゃと。
シンの撮った最後の写真は、翌朝、また、小さな喧嘩のもとになるのだけれど。
それでもその夜の思い出は、鮮やかな写真とともに、永く、二人の心に刻まれたのだった。