すべては、この内から
自分の下に横たわる永泉を、泰明は不思議な思いで見つめていた。
体を繋ぐようになって一年。もう、この体で知らぬところなどない。
恥じらいにすり寄せられた膝が、どのように淫らに揺れるのか、きゅっ、と閉じられた唇が、花開いたあとにどのような声を溢すのか・・・この腹が、自分を飲み込んで、どんなふうに締め付けるのかも、すべて。
なのに、どうして触れるたびに、こんなにも胸が高鳴るのか。
いつもと変わらぬ永泉の部屋、水底のような碧い闇に、さらに深い色の髪が散る。
はじめは控えめに、唇や頬に口付けを落としながら、やがて白い小袖を開いて、胸の赤く色づいた場所、さらにその下へ。
「ん・・・」
柔らかな腹の、柔らかな皮膚をきゅうっと吸って、赤い跡をつける。これが自分のものであるという証。
一箇所、ちょこんと窪んだ臍に舌を入れ、存分に舐め尽くして、びくびくと震えたわき腹を、手のひらいっぱいに楽しむ。
「や・・・やす・・・」
細い指が泰明の髪をかき回し、結い紐が解けて翡翠色の髪が永泉の胸へ散った。
「・・・っ、は・・・」
「解くな。邪魔だ」
仕置きとばかりに、指に油を絡めて、手付かずだった奥の蕾へと突き入れる。
「あん・・・っ」
通い慣れたそこは、ほんの一瞬拒んだものの、すぐに誰の指かを知って受け入れた。
片足だけを抱え上げ、内腿に口付け、また唇だけを腹に戻して愛撫を続ける泰明に、永泉は腰をよじって甘い声を上げた。
「やすあ・・・っ、は・・・ぁん」
「達くか？」
すでに膨れ上がったそれは、もう腹につくほどで痛々しい印象さえあった。
その先端に、ちゅっ、と口付け、挿しいれたままの指で、永泉の感じる場所をつついてやると、ぴくんとふるえたそれは、すぐに蜜を吐き出した。
「は、ああ・・・・、あ、やん・・・」
白い腹に、白い蜜。その眺めが、さらに泰明を欲情させる。
「やすあきどの・・・やめて・・・・・」
蜜を舐め尽くすために舌を動かしていると、細い声が頭上から聞こえた。
「何故だ？」
何の気なしに口を開くと、蜜を含んだ唾液をたらりと腹に落としてしまった。
勿体ない。
「あんっ、き・・・汚いです・・・」
「汚くはない。何度も言わせるな」
「でも・・・んんっ」
永泉のもので濡れた唇を、永泉のそれに合わせて言葉を封じ、まだ物言いた気にうごめく舌を、じっくりと弄ぶ。
「ん・・・・・ふ」
とろけきったそこから唇を離し、いい匂いのする髪から、柔らかな耳朶を探し出して、ささやいた。
「お前も、私のものを美味いといって飲むではないか」
かあぁぁぁっ、と、上気していた永泉の頬がさらに赤く染まる。
闇色の瞳が潤み、碧く光る雫がこぼれそうになっていることに気がついて、これ以上は可哀想だと判断した泰明は、元の作業に戻ることにした。
挿し込んだままの指を動かし、腹に散った蜜を舐める。押し殺した喘ぎと、自分の髪をかき回す指の動きが、永泉の快楽を伝えてくる。
嬉しい。
永泉は、入り口でひどく感じるから、そこがほぐれるのも早い。恥ずかしがって自分からは言わないが、欲しくなれば、熱い襞がそれを伝えてくれる。
泰明は、やっと永泉の腹から顔を上げた。
解けた髪が顔にかかるのは可哀想なので、小袖から腕を抜かせて、細い体を返した。腹を引き上げ、柔らかなそこを確かめる。
「ん・・・や・・・」
永泉の嫌う体勢だが、髪を解いたのは永泉だ。泰明は遠慮なく、しかし注意深く、永泉の中へ押し入った。
「ああん・・・っ、ふ、ぅ・・・」
きつくて、熱い。何度交わってもそれは変わらない。
右手で腹を、左手で脚を押さえ、腰を固定せずに永泉も動けるようにしてやる。はじめは控えめに、やがて、我を忘れて揺らめくそこは、ひどく泰明を喜ばせた。
深く突き込めば、内臓が悲鳴を上げるのが右手に伝わる。それを無視して更に突けば、それに悦びが混じる。
この腹に、注ぎ込む。
それ以外の思考を、次々と切ってゆく。
この腹に、注ぎ込む。
もう、それしか考えられない。
やがて、永泉の極める声が聞こえ、泰明もその想いを遂げた。
気を失っていたらしい。
少し痛む頭がくらりと揺れて、それを支えてくれた腕の主は、後ろから抱きしめたままのかたちでささやいた。
「大事無いか？」
「はい・・・」
答えた声は、少しかすれていて。
それを恥じて閉じられた唇を、そっと指で慰撫される。思わず吐息がもれて、緩やかに動いた腹へ大きな手が添えられた。
「あ・・・」
ゆるゆると、そこを撫でられる。
柔らかな皮膚は、とても感じやすい。ひくんと仰け反った背を抱きとめながら、しかし泰明は撫でる手を止めない。
「ん・・・泰明殿、・・・だめ・・・」
切羽詰った声に、やっと引かれた指に、また唇を撫でられ、身の内の波をやり過ごした永泉は小さく笑った。
「泰明殿、お腹、好きですね・・・」
好きな人に、好きになってもらえるところがある。
それは、とっても嬉しいこと。
「ああ」
その答えに笑みを深くした永泉の、白い腹に手のひらを戻し、撫でることはせず、そこに置いて柔らかさとぬくもりを感じながら、泰明はさらに言った。
「人としての・・・心をもつ私は、この腹から生まれたのだ」
その言葉の意味を、永泉が正しく理解するまで、二呼吸ほど間が空いて。
そして、かあっ、と赤くなった永泉の腹に腕をまわし、ぎゅっ、と抱きしめて泰明は言う。
「お前のことはすべて好きだが、ここは、特別だ」
「はい・・・ありがとうございます・・・・・」
「泣くな」
「泰明殿こそ・・・・」
夜の中、碧く光をはじく永泉の涙を、泰明は唇で受けとめた。
母なる海、というものは、これと同じ味がするに違いなかった。