空というものは、こんなにも広かったのだろうか。

花月は、呆然と上を見上げていた。

無限城を出た自分ができる仕事などたかが知れていて、必然的に裏稼業に手を染めることとなった。

食べていくだけならば、ウリでもしていればいいのだけれど、それだけでは絃の腕が鈍るから。

だから、引き受けた仕事。

その帰り。

無限城へ逃げ込んで、そして飛び出してから、初めて出た新宿、初めて出た東京。

風鳥院の屋敷も、だいぶ田舎だったのだと、今ならば思うのだけれど。

だってあそこは、近くに山が迫っていたのだし。

だから、その広い空は、とても衝撃的だった。

「広いね、十兵衛」

何故か出た名前を持つ親友は、もちろん側にはいない。

しかし花月は、他に語りかける相手を知らない。

「ひろい、ねぇ・・・」

そこは、大きな川の土手だった。

電車があまりなくて、時間が余って。

急ぐこともないので、乗り継ぎ先の、次の駅まで歩く、その途中で。

「広いねぇ、十兵衛・・・」

呟きながら、土手を歩く。

青い空には、当然のように白い雲。

遠くに山稜が霞んで、そう遠くないはずの鉄橋を、おそらく乗れたはずの電車が走っていった。

既に、花月は電車がどうとは考えていない。

だだ、広い空に打ちのめされていた。

風鳥院の、狭い箱庭に飼われていた自分。

無限城の、あの廃ビル群の中にしか居場所の無かった自分。

それが、酷く哀れに感じられる。

「十兵衛、君は、こんな空を知っていたのかい？」

おそらく、知っていたのだろう。

自分よりも、幾分かの自由を持っていた幼馴染だから。

たったひとつの年の差よりも、その差が自分と十兵衛の差だったのだと、今の花月ならばわかる。

「凄いね、十兵衛・・・」

とうとう座り込んでしまった花月は、周りに人のいないのをいいことに、大の字になって寝転んだ。

視界の端を、飛行機雲が横切っていった。

「すごい、ねぇ・・・・」

答える声など、もちろん無く。

花月はただ、声を上げる。

「世界って、本当に、広いね。十兵衛」

答える声など、もちろん、無く。

花月はただ、声を上げ続ける。

「広いねぇ、十兵衛・・・・」

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