静かな夜に
それは、静かな夜だった。
まるで、互いの鼓動と吐息だけが、世界のすべてのようだった。
完全防音の部屋は、時々、宇宙にたった二人きり、放り出されたような感覚を、シンとアスランにもたらす。
この、静かな宇宙に、二人きり。
そんな感覚に陥ったアスランは、腕の中の少年への愛おしさを増して、ずっと撫でていた髪の生え際へ、そっと唇を落とした。
見かけよりも、ずっと柔らかい髪、しっとりと熱い体温、少年らしく危なげな、成長途中の体。
もっとキスしたいな、と思えば、計ったかのように赤い瞳が物欲しげに見上げてきて。
アスランは思わず笑んで、少年の固く引き結ばれた唇にキスをした。
可愛い、かわいいシン。
こうして過ごす夜は初めてではなく、それどころか幾度も重ね合い、満たしあっている。
それでも想いは溢れて止まらず、もっと、と思うのは何故だろう。
シンの唇がほどけて、アスランの欲しかった、熱い舌が押し入ってくる。
シンのそれは、いつも欲深くて、それがとても、気持ちいい。
「ん、ふ・・・・」
思わず洩れた声も飲み込まれ、キスをもっと深く、抱き合った腕も、深く、される。
その必死な力を心地良く感じ、続いて解かれた腕を寂しく思ったとたんに、熱い手のひらが明確な欲望を伴って、まだ熱の残る肌を掴んだ。
まだするのか、と、驚きはしたけれど、それも決して嫌ではない。
むしろ、嬉しいから。
アスランも、ずっと撫でていたシンの髪をかき寄せて、口腔一杯に暴れまわっていた少年の舌を柔らかく噛んだ。
甘い愛呟。
その痛みに、激しく誘われて。
シンは、たっぷりと唾液の絡んだ舌をアスランの唇から抜き取り、赤く濡れたそこをぺろりと舐めて。
それから、闇にとろりと浮かぶような、翠の瞳を覗き込んだ。
「もっとしたい・・・いい？」
そう問うのは、口先だけのこと。
嫌だと言われれば、泣いて暴れるつもりだった。
しかしアスランは、ふぅっと笑い、その瞳を閉じて了解の意図を示してくれた。
だからシンは、その薄い瞼にまた、キスをして。
そうして、甘い熱を放つ肌に、同じようにまた、唇を落としていく。
意外にしっかりとした筋の上に、柔らかく、しなやかな皮膚が覆い、その上を、今は甘い汗が薄く包んでいる。
アスランがわずかに身を捩じらせて、皮膚の下の筋肉と骨の所在がありありとシンの目前に曝される。
この瞬間が、シンはことのほか好きだった。
だから、もっとそれが見たくて、感じたくて。
ゆるく息づく胸や、腹や。
髪を撫でてくれる優しい指や、シンの大好きな匂いの深い、脚の間。
一番顕著な反応を見せる、吐き出しきって、うなだれた風情のそこまで。
何度もなんども、キスをした。
「んっ・・・シン、もう、そこ・・・・」
やっと、口を開いたアスランに、妙な安堵を感じて。
それでもシンは、知らずに緩んでいた口を、無理やり作って尖らせる。
「まだ、イけるでしょ？」
「無茶言うな・・・・」
アスランは既に、シンの楔や唇で、数度にわたって吐精している。
気だるい仕草で首を振る恋人に見とれつつも、更に詰め寄ろうとしたシンは、アスランが自ら脚を開き、自分の腰にそれを絡めてきたので固まってしまった。
腿の内側、皮膚の一番柔らかいところが、シンの腰を心地良く包む。
翠の瞳がとろりと光り、それからゆっくりと瞬いて、閉じた。
同時に、くい、と腕を引かれて。
そっぽを向いた唇が、可愛らしい台詞を吐く。
「そっちは・・・お前みたいに、何度でもって訳にはいかないんだよ。だから」
こっちなら、と。
快感の名残でほのかに上気していた頬が、目に見えてもっと赤くなる。
時々、大胆に誘って見せるくせに、こんな台詞にも照れるアスランが可愛くて。
シンはこくんと頷くと、自分を何度も受け入れて、まだ、白いものに濡れたままのそこへと、激しくいきりたったものを押し付けた。
くちゅ・・・と。
いやらしい音を立てて、そこはシンのものを飲み込んでいく。
アスランはわずかに眉を寄せて、甘く吐息をつきながら、もう幾度目かもわからない挿入に、じっと、耐えていた。
「アスランさん、我慢しないで」
だからシンは、軽く腰を揺すって、絡みつく襞をかき回し、その心地良さに赤い目を細めながら。
「気持ちよくなっちゃってくださいよ」
そう、囁く。
「っあ・・・・」
とたん、腰をうねらせたアスランが、たまらない、というような声を上げた。
シンが悪戯をして止められた前は、緩く立ち上がりかけ、震えている。
そうして、シンを飲んだ後ろは。
きつく、そうして柔く、シンのものを締め付けて。
突けばいっぱいまで受け入れ、引けばきゅうっと絞り込み。
幾度目でも変わらずに、少年を虜にする。
「ぁ、あっ、シンっ、・・・・ああっ・・・・」
そのくせ、被害者づらした高い声が、静かだった部屋に響きわたった。
「アスラン、さんっ・・・・」
今、シンに聞こえるのは、組み敷いたアスランの嬌声と、どくどくと妙にうるさい自分の鼓動。
それから、くちゅくちゅという、自分のものと、アスランのそこが立てる、いやらしい音。ただ、それだけ。
やがて、アスランの体がびくりびくりと跳ね上がり、いっそう声を高まらせて。
シンは、その腰を押さえ付け、思うさま、そこへ注ぎ込んで。
荒い息の中、何度もなんどもキスをして。
もう、何度触れ合ったかわからない唇が、つ、と離れた時、アスランのそれが、ふうっと笑んで、呟いた。
「A Happy New Year」
「え？」
シンはぽかんと聞き返し、それから慌ててベッドサイドの時計に目をやった。
ゼロをよっつ、薄緑色に光らせたそれは、まったくいつも通りに時を刻んでいたけれど。
「なんでだろ」
「ん？」
焦れたアスランに引き寄せられ、もう一度キスをしたシンは、くちゅりとその中から自分を抜き取って、ぺたりとアスランに上に突っ伏しながら言う。
「なんか、年が変わると、何もかもがリセットされたような気がしませんか？」
何もかもが、もう、どうしようもないことだというのに。
自分たちの罪は、もう、どうしようもなく深いというのに。
なのに。
じっと自分を見上げるシンに、くすり、と、アスランは笑って。
「そうだな」
そう言って、体を入れ替え、今度は自分がシンに圧し掛かるようにして、キスをする。
「リセットされると、いいな」
応えた声の切なさに、シンはきゅっと唇を噛んだ。
無音の宇宙で、音もたてずに。
時だけが、確かに刻まれていく。
人の作った区切りなど、知らぬまま。
人の想いなど、知らぬまま。
それでも人は、ただ続くだけの時間など、耐えることができないから。
だから。
この、静かな夜に。
気休めばかりの区切りをつけて。
「Happy New Year シン」
「あけまして、おめでと・・・ございます」
幸せになれるキスをして、じっと、二人で時を過ごす。
A Happy New Year
今年こそ、幸せな時を。