真の紅
最近。
不思議と、この少年に、「オトコ」を感じる時がある。
彼に言ったなら、「オトコじゃなかったら何だと思ってたんですか！」と盛大にキレられそうだが。
アスランの認識としては、まあ、精々仔犬か子供だ。
「オトコ」だと思ったことは、正直、今までなかった。
例え、その雄芯を体内に迎え入れても、だ。
なのに。
ふとした仕草。
時折見せる表情。
ごくたまに気付く、声の色。
そんなものが。
もしかして、こいつ、「オトコ」になっちまったのかなぁと。
アスランに、そう思わせた。
たっぷりと注がれる快感を、存分に味わった後。
しっとりと汗を含んだ黒い髪を撫でてやり。
「今日は、良かったぞ、シン」
そう、囁いてやって。
さて。
尻尾を振って喜ぶか。
「今日はってなんですか！」と、キャンキャン喚くか。
どっちかな。
そう思って、アスランはちいさく微笑んだ。
しかし。
「今日はって、嘘だ」
紅い瞳が。
深い、色をして。
「ここんとこ、ずっと良かったでしょ」
そう、小さな笑いを含んだ声でささやく。
ここんとこ。
アスランは思い返す。
一昨日・・・・・は、確かに良かった。
ゆったりとした愛撫に、正直、溺れた。
一週間前。
二度目にイったとき、ちょっと意識がトんだ。
悔しかったからつい殴ってしまったのは、正直、悪かったと思う。
１０日くらい前。
後ろからを許してやったら、後ろだけでイかされた。
良くあることだと笑って見せたが、ちょっとびっくりした。
それから・・・・
思い返しストップ。
シンが、ソコに指を突っ込みだしている。
「こら」
「だって、中で出しちゃったし」
「かまわないさ。どうせ、またするんだろう？」
「う・・・・はい」
素直に頷いたシンは。
仔犬の仕草でちょこんと首を傾げた。
「いいでしょ？」
「ああ」
「やった！」
にこりと笑う、少年の顔。
紅い瞳がキラキラして、とっても可愛い。
アスランの一番好きな、シンの顔。
もう少ししたら、こんな顔も見られなくなっちゃうのかな。
思わず手を伸ばしてぺたぺたと頬に触れると、その手を取られてキスされた。
そのまま、小指の先を吸われて。
ひくりと腕を震わせると、咥えた唇が笑った気がした。
文句を言おうと口を開き、しかし言葉にする前に。
その唇が、するりと手首まで下りてきて。
内側の、一番敏感な場所を、また、きつく吸った。
「そんなところに、跡、残すなよ」
「ここなら袖で隠れませんか？」
「手を上げたら見える」
「えー」
だって、と、シンはまだ、手を離さない。
「俺、ここ好きなんです。ぴくぴくって、脈わかって」
確かに、シンのつけた紅い跡は、アスランの脈のわかる場所だった。
一時落ちた体重はなかなか戻らず、痩せた腕は、薄い皮膚越しに脈打つさまが視認できる状態だった。
それを揶揄されたと思ってむっとしたアスランに、しかしシンは、真摯な声で言ったのだ。
「アンタ生きてるって思うから。ここ、好きなんです」
そう言われてしまえば、アスランは何も言うことができない。
アスランを撃ち落したことは、シンにとって、ひどい傷になって残っていて。
それは、アスランの中にも、深い後悔になって残っている。
自分の手首に落とされた、切なげな視線。
斜め上から見た、頬のライン。どこか、鋭さを増した。
アスランは、そこから無理やり目を離した。
「だから、ここも好き」
ちゅ、と、やはり脈のわかる首筋に吸い付かれ。
「ここも」
鼓動のわかる、胸・・・・の側の、紅い頂。
「っ！そこは、違うだろ！」
「あ、バレた」
「このバカ」
ぺちんと叩くと、胸元で笑う声。
あたたかな吐息と声に、感じてしまったのは、内緒だ。
「あと、ここ」
「っ！」
今度は、突っ込まれたままの指を、深くされた。
「熱くって、びくびくしてて、ぬるぬるしてて、きゅうきゅうしてて・・・・」
「だ、まれ・・・っあ！」
「イイ声・・・・」
「うるさ・・・い」
言いながら、アスランは胸の上にあったシンの頭をきゅうっと抱きしめた。
焦らさないでさっさとしろ、の、合図。
「うん」
それに、声を出して答えて。
「してあげる。だからさ」
不意に、真紅の瞳にのぞき込まれた。
深い深い、真の紅。
アスランの、大好きな。
でも、アスランの知らないほど。
深い、紅。
あ
と、アスランは思った。
やばい、な。
「俺を感じて、アスランさん」
強請るのではなく。
甘えるのでもなく。
半ば命ずるように。
半ば乞うように。
己の望みを、口にする。
オトナのオトコの、声。
「・・・・・ああ」
答えた声に混じった何かを感じ取ってしまったのか。
シンはそこで、ぴたりと手を止めた。
「・・・・・アスラン、さん？」
「するんだろ、どうした」
少年の頭をぽんぽんと叩くと、シンは大人しく叩かれながら、首を傾げて。
「なんで、がっかりしてるの・・・？」
そう、しょんぼりと聞いてきた。
なんでバレるんだろう。
オトコだからか、そうか。
アスランはひとつ、ため息をついた。
「お前、オトコになっちまったんだなと、思ってな」
「オトコに・・・なっちまったって何ですか！今まで俺のこと、何だと思ってたんですかーーーー！！」
あ、戻った。
可愛いシンだ。
なんだか、ほっとして。
想いのままに押さえ付ける、強い腕を、感じて。
でも。
それでも。
「俺ちゃんとオトコですよ！わかってくださいよもう！」
そう言いながら、アスランを見下ろす真紅の瞳。
アスランの大好きな、真の紅。
それは、さっきの大騒ぎなど微塵も感じさせない深さを取り戻していたけれど。
でも。
やっぱり大好きな。
シンの、紅。
「前言撤回だ」
「え、何？ちゃんとオトコだと思ってたって？」
不審気なシンの声に首を振り。
「なっちまった、じゃない」
アスランは、にこりと笑った。
シンの、紅い瞳。
強い腕。
ふとした仕草。
時折見せる表情。
心地良い、深い声。
「お前、男になったんだな」
なっちまった、じゃ、なくて。
うん。
オトナのオトコのお前でも。
俺は、やっぱり好きみたいだ。
「何にも変わんないじゃないですかーーーーっ！」
キレたシンが、アスランのその言葉に気付くまで。
オトナになるまでには、まだ少し、時間があるようだった。
それまでまだ、俺はコドモのお前を楽しめるけど。
たぶん、その後でも。
お前が一番、好きだよ。