シンは、アスランのいぬです。
シンは、アスランのいぬです。
アスランは、きれいでつよくてかっこうよくて、でもときどきおまぬけな、シンのごしゅじんです。
「シン、おいで」
よばれて、いっしょうけんめいはしっていくと、おおきくて、きもちのいいてが、たくさんなでてくれました。
「今日はイザークが帰って来るんだ。お前、大人しくしてろよ」
いざーく？
シンのみみが、ぴんとたちました。
ぱたぱたふっていたしっぽも、ぴたりととまって、ぴんとたって・・・いるつもりです。
シンのしっぽは、くるんとまるいのですけれど。
「おれ、あいつきらいですよ、アスランさん！」
わうわう！と、ちからいっぱいほえてやると、アスランはシンをなでながら、うーん、とこまったようにくびをかしげました。
「仕方ないな」
「わん！」
やった！
アスランは、ほんとうはものすごくつよいのです。
イザークなんか、おっぱらってくれるでしょう。
ぱたぱたと、うれしそうにしっぽをふるシンをだきあげて、あすらんは、ぼそりとつぶやきました。
「お前には、まだ少し早いと思ったんだがな」
なにがはやいのか、シンにはわかりません。
「なに？アスランさん」
あったかいうでのなか、ふんふんときもちのいいにおいをかいでいると、きゅうに、くびになにかがまきつきました。
「きゃん！」
なんだこれ！？
かたくて、いやなにおいがします。
もぞもぞして、きもちがわるいのです。
「ぅわん、あん、う、うぅーわん！」
くびをふってもころげまわっても、そのいやなものはとれません。
「とってください、あすらんさん！」
いっしょうけんめいアスランにしがみつきますが、アスランはこまったようなかおをして、シンのせなかをなでるばかりです。
「シン、ごめん。でもお前、この間、柵壊しただろう」
このあいだ、イザークがかえってきたときに、シンはとじこめられていたさくをこわして、イザークにいどみました。
あのときはまけたけれど、シンはまた、おおきくなったのです。
こんどはまけません。
「何で、お前はイザークに懐かないんだろうな・・・」
そんなこと、きまっています。
イザークがくると、アスランがイザークのほうばかりみて、シンのアスランが、はんぶんになってしまうのです。
そんなこと、がまんできません。
でも、アスランはそんなシンのきもちもわかってくれません。
「懐いてくれれば、家の中じゃ繋がなくてもいいんだぞ？」
「うー、わんわん！」
こんどは、ひもがでてきました。
それが、くびにまきついたものにつながって、シンは、アスランのへやから、でられなくなってしまいました。
「なにするんですか、アスランさん！」
わん！わん！わん！
いっしょうけんめいなきますが、アスランはとってくれません。
「水とトイレにはちゃんと届くな。・・・じゃあ、大人しくしてろよ」
そういって、アスランはちゅ、とシンのはなさきにキスをすると、ぱたんとドアをしめて、いってしまいました。
「わ・・・わんわんわんわんわん！」
ないて、ないて、たくさんないて。
あんまりたくさんないたので、シンはつかれてしまいました。
そうして、アスランのベッドにのぼると、いいにおいのするふとんにもぐりこんで、まるくなりました。
いいにおいは、アスランのにおいでした。
「アスランさぁん・・・」
シンは、べそべそとなきながら、ねむってしまいました。
いいにおいがします。
あったかいにおいです。
アスランの、においです。
シンは、そのにおいにあたまをおしつけて、ぎゅうぎゅうしました。
そうして、あったかいうでがくるんでくれたので、こんどはあしで、ぎゅうぎゅうしました。
とっても、きもちいいのです。
「・・・ほら、可愛いだろ、イザーク」
「貴様に抱かれてるのが気に食わん・・・」
「それ、シンと同レベルだぞ」
「犬と一緒にするな」
きもちいいこえもきこえます。
でも、いやなこえも、します。
シンは、みみをもぞもぞさせてから、んっ、と、おきあがりました。
めのまえには、アスランのきもちいいうでがありました。
それから・・・イザークの、だいきらいなかおがありました。
「わん！」
「こら、シン！」
とたん、かみつこうとしたシンを、あすらんのてが、ぐい、と、とめてしまいます。
「しつけくらいちゃんとしろ！」
「普段は大人しいんだ。お前、何かやったんじゃないか？」
「・・・・やってやる」
イザークはそういうと、シンのくびねっこをつかまえて、アスランのひざにおしつけました。
それから、かみつこうと、いっしょうけんめいのくちを、ばっ、とつかまえてしまいました。
「うー、ぐー、ぐるる・・・・」
くびをふっても、くちをあけようとしても、おさえつけられたあたまはびくともしません。
てあしをばたばたさせますが、アスランも、たすけてくれません。
ただ、おなかをなでてくれるばかりです。
「イザーク・・・ちょっと乱暴じゃないのか？」
「お前も、はじめは力ずくで大人しくさせたと言ってなかったか？」
「ちょっと興奮しやすいだけなんだよ、この子」
なにかいっていますが、たいへんになってしまったシンには、きこえません。
「ぐー、うーうー、うぅ・・・・」
シンがうなっていると、イザークの、みずいろのめが、ぎん！とシンをにらみました。
そうしてはじめて、シンはきがつきます。
イザークは、まだ、シンよりもつよいのです。
まだ、シンはイザークにはかなわないのです。
「きゅうぅ・・・う・・・くぅん」
シンは、イザークよりもよわいので、アスランをとられてしまうのです。
「きゅぅ・・・」
おとなしくなったシンを、イザークがやっとはなしてくれたので、シンはくんくんないて、アスランのひざにすりすりしました。
「馬鹿だよなぁ・・・お前も」
アスランは、おおきなてで、シンをたくさんなでてくれました。
「おい、大人しくなったところでもう一回付き合え」
「何回目だよ・・・」
ぼやいたアスランは、シンのせなかをぽんぽんしてから、ふとんのうえに、おろしました。
それから、おでこをシンにくっつけて。
「頼むから、大人しくしてろよ？」
「・・・・わん」
しかたなくうなずいたシンに、やさしくキスをしてくれました。
そのあと、イザークのしたで、アスランはシンのようなこえで、あんあんとないていました。
ああ、そうかと、シンはおもいます。
アスランは、イザークのシンだったのです。
でも、それもシンはきにいりません。
だって、シンはアスランがだいすきなのです。
なら、アスランは、イザークがだいすきなのかもしれません。
シンは、こころにきめました。
もっとつよくなって、アスランを、シンだけのものにするのです。
シンだけの、アスランになってもらうのです。
このよる、シンは、すこしだけ、おとなになりました。