シンアス10のお題Ａ

1.憧れ

シュミレーターに残った記録、教官の語る逸話、先の大戦を生き残った、兵士たちの噂。
正式な記録は改竄されても、そこここに残る痕跡。
その中のその人は、完璧なエリートで。
みんなの、憧れで。
だから、こんなふうに喘いで啼く人だなんて、思ってもみなかった。
「んっ、んっ、あっ、待っ、シン・・・・っ」
きつく、しかし甘やかに締め付けるそこを好き放題に犯しながら、シンは愉悦に浸る。
憧れの人を、抱いている。
その、たまらない快楽。

2.復讐

復讐のはずだった。
「俺も、あの場にいた」
そう言った、その人への、復讐。

家族を殺した、あの戦闘に加わっていたのだと、そう聞くなり飛びかかった。
自分には、復讐する権利があるはずだ。
そう叫ぶと、抵抗は止まった。
それから、何度も。
何度も、犯した。
復讐の、はずなんだ。
だから、抱きしめたこの人を、大切にしたいなんて。
今更、思ってはいけない。

3.邂逅

それは、一瞬の邂逅。
街を歩いていて、うっかりぶつかった作業着の少年。
「あ、ごめんなさい」
「・・・・すみません」
今の、誰？
水色のツナギ。
モルゲンレーテの技術者だろうか。
キレイな青い髪。コーディネイターだな・・・
「お兄ちゃん、早くー」
「ああ、悪い」
しかし、シンはすぐにそれを忘れてしまった。
運命の邂逅。
再びのそれは、二年後。
彼が、すべてを失った後のこととなる。

4.願い

願いは、ただひとつ。
世界中が、殺しあわずに済むこと。
「馬鹿みたいですよ、あんた」
嘲笑には慣れている。
「そんなの、叶うわけないじゃないですか」
でも、諦めたらそこで終わりだと思うから。
「だったら、・・・もし、そんな願いが叶ったら」
どうしようもない感情に、燃える瞳が、アスランを焼く。
「そんな世界に、たどり着けずに死んだ、オレの家族が馬鹿みたいじゃないですか！」
壁に叩きつけられた背中が痛かった。
だが、彼の憤りが、もっと、痛かった。

願いは、ただひとつ。
世界中が、殺しあわずに済むこと。
こんな子供を、もうこれ以上、つくらないこと。

5.紅

side S
青い髪に、緑の瞳。
なのに何故か、紅いイメージのつきまとっていた人。
はじめは不思議だったけれど。

紅い制服。
紅い機体。
紅く血に染まった手で、引き金を引いて。
魂にまで、染み付いた紅。
ああ、そうなんだ。
腹立たしいと共に、嬉しくなった。
「ねえ、あなたはどれくらい人を殺したんですか？」
見開かれた緑の瞳に、オレの目の紅が映って。
とても、愉快だった。

side A
「あなたはどれくらい人を殺したんですか？」
紅い瞳の問いに、愕然とした。

再び紅い制服をまとい。
再び紅い機体を駆り。
再び紅く、この手を血に染める。
自分の正体を暴き立てられ、アスランは立ちすくむ。
平和のため。
世界のため。
そうは言っても、自分がしていることは、結局は人殺しなのだから。
「ねえ、どれくらい？」
血を見すぎた、紅い瞳が。
血を流しすぎたアスランに。
答えられない問いを、叩きつける。

6.会いたい

「会いたい・・・・」
そう言って泣いた少年に、伸ばした手は打ち払われた。
『あんたになんか、わからない』
そんな目をして。
ああ、俺にはわからない。
お前が会いたい人を。
亡くした人を、俺は知らない。
でも。
「俺も・・・会いたい人が、いる」
見開かれた紅い瞳に、胸が痛んだ。
「死んだら会えるかな、と、たまに思う」
軽く言ったつもりだったが、その後の沈黙は重かった。
家族、友達、仲間といえた人たち・・・
会いたいと、思う。
その人たちは、既に、亡い。

7.笑顔

笑顔を見たいと、思った。
まるで、過去の自分を見ているかのような彼。
あの頃、自分もきっとこんな顔をしていたのだろう。
決して笑わない瞳。
「・・・・なんですか」
「いや」
まじまじと、顔を見てしまっていたらしい。
慌てて、目をそらす。
しかし、それを追うように覗き込まれ。
にいっ、と。
口の端だけが、笑みをつくり。
「欲しいんですか」
髪を掴まれ、口付けられる。

笑顔を、見たいと思った。
こんなのじゃない、本物の笑顔を。

8.すき

「すきです」
「すき、なんです」
そう言われて、言われまくって。
押し切られるかたちで関係を持った。
戦争の中で、家族を失ったけ経験のせいだろう。
歪んだこころが頑なに閉じて、時折、腹の立つことも、怖いこともあるけれど。
「アスランさん・・・だいすき、です・・・・」
ただ、その言葉だけは、まっすぐで。
「すき、だいすき・・・・」
これは、こんなに痛々しい言葉だっただろうか。
そう首を傾げながら。
「俺も、すきだよ」
そう言い返すことを、罪だと思う。
自分は、たぶんまだ、彼の言う『すき』を知らない。

9.言葉

言葉は、無意味だ。
殊に、この類の相手にとっては。
いつも、泣きそうな目をしている少年。
そして自分は、彼を慰める言葉を持たない。
「ん、あ・・・」
差し出された体にむしゃぶりつき、己を慰める行為に没頭する体を抱きしめ、アスランは思う。
言葉は、無意味だ。
憎しみが体を満たし、溢れて壊れるとき。
そこに、どんな言葉も意味を持たない。
そんなことは、よく、知っている。
だから。
アスランは、シンを抱きしめる。
あのとき、こうして抱きしめてくれる腕があったなら、自分も、過ちを重ねずに済んだのだろうか。
言葉でなく、何かを伝えるぬくもりがあったなら。
それも、もう、済んだことだけれど。

10.平和

平和って、なんですか？
平和のために働きたいと言う人に、聞いてみたいことがあった。
その人は、ちらりとシンを見て。
「俺にとっては、大切な人を殺されたり、殺したりしなくて済むことだな」
ひどく個人的な言いように、むっとしたシンに、アスランは無表情に続けた。
「結局は、そういうことだろ」
ああ、そうか、この人は。
たくさん殺しすぎて、殺されすぎて。
「オレ、違うと思います」
そう、きっと違う。
「殺したり、殺されたり・・・そういう心配を、しなくて済むことだと思います」
アスランは、驚いた顔をしてシンを見た。それから、ふわりと笑って。
「そうか、そうだな」
・・・・この人が、殺されたり、殺したり、そんなことを心配しなくて済むようになればいい。
それが平和なら、オレも、欲しい。

お題配布元

ものがたりしーどへ戻る