使命
無限城、ロウアータウンにしては小奇麗な一室。
見た目よりも清潔なシーツの上で、自分よりも小柄な体に圧し掛かられながら、祭蔵は焦ったような、それにしてはのんびりと明るい声を上げた。
「あのさ、なんかこう、凄く不敬なことしてる気がするんだけど」
「あのね、この僕が誘ってるんだよ？しない方が不敬だよ」
そう、主と定めた少年に言い返され、祭蔵はうーむとちいさく唸った。
それはそうだ。
それは、そうなのだけれど。
「往生際悪いかな、俺」
「うん、もの凄く悪い」
頷いた花月は、ええい焦れったい、とばかりに、祭蔵の服を、ばっさばっさと脱がし始めた。
「花月、さすがにそれは勘弁してくれよ」
「なら、どうするの？」
くるくると光る大きな瞳。
赤い唇、細く、柔らかな肢体。
この『宗主さま』は、自分の魅力をどこまでも知り尽くしている。
なんで、どうしてこうなったとか、考えるだけ無駄だろう。
この、幼い風鳥院家の跡取りは、こうしてコミュニケーションをとるのがお好みらしい。
初めて会ったときには、あんなにおしとやかな女の子に見えたのに・・・
そう思ってため息をついた祭蔵は、それでもにこりと笑って、細く、柔な線を描く肩を抱き寄せた。
「誠心誠意、勤めさせていただきますよ、我が主」
それは、嘘偽りない祭蔵の誓い。
それを、正しく察したのだろう。
花月は、ゆるりと瞳を細め。
「ああ、頼むよ」
そう応えると、その柔らかな唇で、祭蔵のそれに、口付けを落として、くれた。
花月の体は、うつくしい。
それは、まだ１０をわずかに越えたばかりの少年を表現するには、相応しくないことばかも知れないけれど。
この少年をあらわすには、そういう言葉しか、祭蔵は思いつかない。
滑らかな胸に口付ければ、ぴくんと跳ねる細い四肢。
この無限城では、このくらいの年の男娼など珍しくもないが、そんなプロの子たちでも、ここまで見事な体を持つ者はいないだろう。
何しろ、育ちが違うからね。
祭蔵がくすりと笑うと、その唇に、花月のそれが重なる。
しなやかな腕が、首に、絡む。
絃を遣い、森羅万象を操る風鳥院を継ぐ者の。
体。
「やっぱり柔らかいね、花月は。女の子みたいだ」
一糸纏わぬその肢体の、柔らかな内腿に口付けながらそう言うと、絃を扱う細い指が、祭蔵の髪を無造作に掴んだ。
「今度それ言ったら吊るすよ？」
「御意」
即座に返した言葉には、やはり、柔らかな笑いが含まれていて。
「なんかむかつく・・・」
呟いた花月の気持ちも、わからないでもないかな、と。
祭蔵は自分でそう思い。
「怒らないでよ。ほら」
ご機嫌取りにと性急に、山桃のように硬くて柔い、小さな双丘を割り開き。
あらわれたそこに、口付けを贈る。
「あんっ・・・」
ふる、と震える花月の快楽は、本物で。
確かな馴れを感じさせた。
「気持ちいいかい？」
「もっ・・・・と、してくれれば、イイよ」
「我侭だなぁ花月は」
「そうだよ」
ぴん、と、甘いままの空気が張り詰める。
まるで、絃を張ったように。
祭蔵を見下ろす花月の瞳。
その、視線ひとつで空気を変えた、少年の。
「僕は、我侭なんだ」
そう紡ぐ唇は、魔性の紅。
男を魅了してやまない、艶やかないろ。
その魅力に逆らわず、祭蔵は、たっぷりとそれを舐め、奥に隠された小さな舌までを、存分に舐り。
同時に、自らの唾液で濡れたそこに指を差し込めば、真珠の歯が、かりりと舌を食んできた。
その刺激さえ、計算され尽くしたかのように、極上の。
花月の、体。
ゆるゆると指を動かせば、それを許すように、襞は祭蔵の指に絡みつき。
一度抗議を示した口腔も、打って変わってねだるように、その舌を絡ませる。
淫らな、淫らな、俺の宗主。
花月。
君を。
あいしてるよ。
言葉にすることはないけれど。
生涯。
細い足を割り開く。
従順に開かれたそれは、すぐさま祭蔵の腰に絡みつき。
淫蕩な瞳が、少年から男に変わりかけの、東風院の跡継ぎ『だった』彼の、その瞳を、誘った。
「はやく」
「ああ」
掴んだ腰は、細く、しなやかで。
祭蔵は、己の使命を忘れる。
「あ、ぁ・・・・・」
侵入り込んだ内は熱く、上がる声は、甘く。
抱き込んだ体は、命あるもののあたたかさで、祭蔵の腕を迎え入れた。
「凄いな、花月は」
「ん・・・っ、たりまえ・・・・っ、あん！」
高慢な言葉を男の下で吐きながら、身をのたうたせて快楽を享受する。
俺を、筧を、そして風雅に皆を、こうして虜にする君を。
俺は。
君を守るのが、俺の、使命。