世界で一番面倒な
おめでとうって、した。
黒猫のカップで、コーヒーを飲んだ。
「一本だけだぞ」
ってもらったビールも、そのカップで飲んだ。
あんまりちゃんと洗わなかったから、ミルクの油が浮いて泡も立たなくて、それがおかしくて笑った。
それから、いっぱい、キスをした。
一緒にピザを食べたから、キスがピザ味で、やっぱり笑った。
服を脱がせたら、それにまでピザの臭いがしてて、やっぱりシャワー浴びる！と騒ぐアスランを、大人しくさせるのがタイヘンだった。
それでも今、アスランはシンの下。
大人しく感じて、喘いでいてくれる。
「ふ、あ、シン・・・・」
奥に指を差し込んで、ゆっくりゆっくりかき回す。
まとわりつく襞の感触が気持ちいい。
押し上げた脚の、しっとりと汗ばんだ感触も。
「あん、まり、見るな・・・っ」
「え・・・だってココ」
ぐいと突っ込むと、そこはきゅうっとシンの指を締め付けて。
ゆっくりと抜き出せば、行くなとばかりにまとわりついて。
しかもジェルでてらてらと濡れたその眺めは、とってもとってもいやらしくて、
「すっごく、可愛い」
「なに・・・・っあ！」
またぐだぐだと言い出す前にと、シンは指を増やして先を急いだ。
後ろの刺激だけで、もう随分立ち上がったものも揺れている。
それを舐めてあげようか、どうしようか考えて。
「アスランさん、前、どうします？一回舐めてイく？それとも後で一緒にイく？」
誕生日だから、好きな方にしてあげる、と嬉々として言うと、支えていなかった方の脚の、その踵を脳天に落とされた。
「いっ・・・・！」
「っの、バカ！」
緑の瞳が、ぎらぎら光って睨んでいる。
こういう時のアスランは、とってもキレイでとってもキケン。
「わかりましたよ・・・・」
結局、どっちにしたってアスランは怒らない。
先にイければ、気持ちいいから嬉しいし、後回しにされても、一緒にイければやっぱり嬉しいみたいだから。
要は、聞かれるのが恥ずかしくて怒っているだけだから。
じゃあ、どっちにしようかな、と考えて。
先にイかせてあげることに、決めた。
指をそこに入れたまま、ちゅ、と先端にキスをする。
とたん、腰ごと跳ねるのはわかっているから、ちょっと避けて。
それから、ぺろんと舐めて。
先をくわえて、ちょっと吸う。
「んっ・・・」
アスランの脚がびくんと強ばる。
入ったままの指がきゅっと食い締められて、気持ちいいんだなって、わかる。
「え、もしかしてもうイっちゃう？」
「な、わけ・・・」
思ったことが口に出て、そのまま、またぼくんと蹴られた。
でも、ぜんぜん力なんか入ってない。
気持ちよくって、力抜けてるんだ、良かった。
気を良くして、咥え直して。
ちょっと考えて、唇でぎゅーってしながら吐き出して。
ナカに入れたままの指で、襞ががゆるゆるうごめいて、きゅ、きゅって反応するのを確認しながら。
舌を全部使って、裏側舐めて、根本舐めて、横のも舐めて、それから・・・
また、先、と思いながら、舌先を伝わせて、いると。
「っあ！」
アスランのソレが可愛く跳ねて、あったかいものがぼったりと、シンの頬にかかって。
「アスランさ〜〜〜ん」
恨めしげな声を出せば、シンの恋人は、もっともっと恨めしげに睨んでいた。
でも、ぜんぜん怖くない。
すっごく、可愛い。
「もう、しょうがないな」
「何、がだよ・・・」
地を這うような、といきたいのだろうが、声はかすれて上ずって。
上より正直な下の口が、きゅんっ、っと、誘った。
「アスランさんがに決まってんじゃん」
言いながら、ずるりと指を引き抜く。
頬にかかったものを、ぐいとぬぐって、ぺろんと舐める。
「おめでとうって言われて落ち込むなんてしょーがないヒト、アンタくらいだ」
まったくもう、とつぶやくと。
「お前は・・・」
アスランは、何かを言いかけて、口をつぐんだ。
「俺が、なに？」
言いながら。
脚を抱えて開かせながら。
シンはいたずらっぽく笑って、アスランの顔をのぞき込む。
こうやって言いよどむってことは、きっと何か失言しかけたんだ。
つついてからかえば、きっと、可愛いカオして怒るんだ。
そう思った、のに。
アスランは、なんだかどーんと落ち込んだ顔をしていた。
快感に濡れた緑の瞳が、深い闇を映して沈み込んでいた。
「え・・・何？」
何か俺、地雷踏んだ？
「いや・・・・」
アスランは更に言葉を濁して、それからぎゅうっとシンにしがみついた。
「するん、だろ？」
「うん、するけど」
ぴったりとくっついた、熱い体。
どきどきと、せわしない鼓動。
少し汗の浮いた、なめらかで気持ちのいい肌。
するけど。
もちろんするけど。
早くしたくて、仕方ないけど。
でも、それよりも。
「何、また落ち込んでんの、アンタ」
ぐいぐいと引き寄せる腕に一生懸命逆らって、顔を上げて、額を合わせる。
お互いの髪が挟まって、さりさりと額を擦るのが、気持ちいい。
のぞき込んだ緑の瞳が。
瞬いて、伏せられた。
「さっき、何言おうとしたんですか？」
「・・・言えない」
「どうしてもですか」
「どうしてもだ」
押し問答は意味がない。
意固地になったアスランは絶対に引かない。
「言わないと、やめちゃいますよ」
それでも頑張って食い下がるも。
「やめられるもんなら、やめてみろ」
顔を上げたアスランに、ぎん、とばかりに睨まれて。
挙げ句、腰に脚を巻かれて、ヤル気満々のソレに、ぐいとばかりに腰を押しつけられた。
「う・・・」
そう。
やめられないのは、シンの方だって、同じ。
「もう！アンタって人は！」
こうなったらもう、降参しかない。
それでも腹いせとばかりに、ぐいぐい腰を押しつければ。
「ふ、あ・・・・」
淫らなそこは、ただ、悦んでソレを迎え入れた。
熱くとろけているくせに、きゅうきゅう締め付けるアスランさんのナカ、きもちいい。
シンの腰を挟んで、びくびく震える脚がきもちいい。
触れた肌の、熱と質感が、きもちいい。
伏せられた瞼が震えて、小さく開いた唇が喘ぐ。
「あ・・・シ、ン・・・・・っ」
そんな声で、名前なんか呼ばれたら。
「アンタ、ひっでえ・・・・」
呻きながら、シンはずるりとソレを引き抜いて、また深々と、気持ちいい肉の中へと突っ込んだ。
「あっ、あ・・・うんっ」
「アスラン、さんっ・・・」
シンはもう、夢中になるしかないのだ。
「・・・アスランさん、さっきの」
「さっき・・・？」
つかれた肢体を投げ出して、渇いた喉に、水をもらって。
ぼんやりと、半分眠ったような声を返されて、シンはああもう、と自分の意志薄弱を呪った。
この人に、こんな上手くとぼけるなんて芸当ができるわけない。
完全に記憶トんじゃってるよ。
そんなことを思いながら。
少し、迷いながら。
それでもシンは、頬にかかった藍色の髪をゆっくりと払い、未だにたっぷりと熱の残るそこに、キスをして。
それから、今にもまどろみそうな瞳をのぞき込んだ。
「「お前は、そう思わないのか」って、言おうとしました？」
アスランの、ぼんやりとけぶった瞳が、急に大きくなって。
おろおろと、シンを外れてさまよった。
「・・・・・」
都合の悪いときの沈黙は、肯定。
この人のハツカネズミ回路が、ぐるぐる同じとこ回ってる証拠。
「・・・思いませんよ」
あうあうと、擬音にするならこんな感じだろう。
ごまかしたつもりですっかり忘れていた失言を蒸し返されて、この人が平静でいられるわけがない。
「シン、あれは・・・」
「俺がいなきゃ、誰がアンタみたいな面倒な人幸せにするんですか」
シーツの上に転がった体は、極上の娼婦で最高の戦士。
まともに使えばあちこちの研究室からひっぱりだこになる頭を、ぐるぐる無駄に巡らせて。
ろくでもないことばっかり考えて、勝手にオチたりドツボったり。
そのくせ。
「・・・面倒か、俺は」
ふ、と。
浮かんだ柔らかな笑みは、あきらめよりも、もっと、深くかなしくて、やさしくて、すがすがしくてきれいなもの。
「面倒です。もうすっごい面倒です」
面倒だと言うほどに、アスランの笑顔が甘くなる。
それは。
「でも、そゆとこも、好きです」
そう言われることを、確信したから。
ああもう、ホントに面倒な人。
大好き。
シンは、アスランを巻き込んで、派手にシーツにダイブした。
耳元で。
かすかに応える声がした。
「おれも、好きだよ」