錯誤
なんでコイツは俺なんかが好きなのかなぁ、と、アスランはぼんやりと考えた。
胸元には、シンがふごふごと吸い付いている。はっきり言って、くすぐったい。
細い腕が、ぎゅうっと背を抱いて、その圧迫感は心地良い。そう思う自分が、実はただ、寂しいだけと知っている。
気がつくといつも一人ぼっちで、でも自業自得だから仕方がなくて。
それでも、こうして誰かが触れてくれれば嬉しくて。
それを突き放せない自分は、卑怯なのだと、思う。
アスランは、シンを大事な後輩だとは思うけれど、こういった意味で好きなわけではない。
それでも、触れてくる指は心地良い。それだけだ。
「っ、はっ・・・」
シンの手が、アスランの核心に触れて、思わず声が洩れた。
触れられれば、感じる。
感じれば、勃って、吐き出してしまう。
男の生理だ、他に意味はない。
「アスランさん、かわいー」
それが、何故『可愛い』になるのかは、わからないけれど。
「舐めるなよ・・・」
アスランの精を手のひらに受け、ぺろりとそれを舐め取ったシンを見て、心底嫌そうな声が出た。
「汚いだろ」
「汚くなんかないですよ」
すかさず言い返されて言葉につまり。
「だって、アンタのですよ？」
言い募られて、落ち込んだ。
アスランだって、シンのものを飲んだりもするけれど、慣れが感覚を麻痺させているだけだ。シンだから、ということはない。
アスランは、別に、誰だってかまわない。
「何、また景気の悪いカオしてんですか・・・」
ぶつぶつと呟いたシンは、しかし急に思い立ったように顔を輝かせ、アスランの足を掴み上げた。
「うわ」
そうしてバランスを崩してベッドに倒れ込んだアスランの上に、のしのしと圧し掛かってくる。
「何をするんだ、いきなり」
そうぼやいたアスランに、シンはまるで宣言するように言った。
「ヘンなこと考えらんないくらい、キモチヨくしてあげます」
その、シンの表情。
赤い瞳がキラキラと輝いて。
少年らしい甘さ持った頬が、実に楽しそうなラインを描いて。
熱い吐息を吐く唇が、生意気な角度で釣り上がって。
笑う。
その笑顔に、ほうっと見とれたアスランは。
すぐさま仕掛けられた深いキスに、飲まれた。
何だ、アレ。
何、コレ。
「ん、んっ・・・」
少年のつたないキスだけで、背筋を何かが駆け上がる。
今、口の中にあるのがシンの舌だと思うと、それだけで喉が震えて唾液があふれた。
シンの歯がアスランの舌に噛み付いて、それが体の中心に、直接響く。
「ぅんっ・・・・んぁふ・・・・」
気持ちの良いキスがほどけて、惜しむ声が濡れた唇から洩れた。
「え？あれ？」
しかしシンは、アスランの顔を見ないまま、下肢の方へと目を向けて、赤い瞳を瞬かせる。
「アスランさん、またイっちゃいました？」
「？・・・・！！」
驚いたアスランは、びくりと身を竦ませて、しかし嬉しそうにはしゃぐシンに、自分の羞恥などどうでもよくなって力を抜いた。
「すっげ、俺、キス上手くなりました？よかった？ねえヨかった？」
本当に本当に嬉しそうなシン。
アスランの心も、何故か、浮き立つ。
「・・・ああ」
「やったぁ！」
ただ、シンが喜ぶのが、嬉しい。
「頑張ってこっちも上手くなりますね！」
そう言ったシンが、するりと指を後ろへと触れさせた。
「ん、あ」
その指を、いつもよりリアルに感じる。
シンの指。
あの、細くて、しかししっかりとした、シンの、指。
「あ、そっか。濡らさないと」
やばいやばい、と、ベッドサイドをさぐるため、体を離したシンを、ふと伸ばされた、アスランの手が掴んで止めた。
「何？アスランさん」
振り返ったシンの、肩から腕のライン。そんなものをほうっと見ていたアスランは、一拍遅れて、慌てて手を離した。
「い、や。何だろう」
「何ですかそれ」
何故だかは、アスランにもわからない。
ただ、シンの体が離れていくのが嫌だったのだ。
それでも、シンはまた首を傾げただけで、慣れた手つきでベッドサイドの引き出しを探り、ローションを見つけて引っ張り出す。
そうしてそれを手にとって、軽くあたためてからアスランのそこへと落としていく。
「あ・・・は・・・・」
そこを濡らすことも、ローションをあたためてから使うことも、全部、アスランが教えた。
そうしないと、勢いばかりの少年の相手は、危なくて仕方がなかったからだ。
そうして今、シンはアスランの一番好きなやり方で、アスランの体を抱きしめる。
まるで、愛してでもいるかのように。
「ん、あ・・・・ふ」
シンの指が、ゆるゆるとアスランの中を撫でていく。
感じる場所をかすめて、何度も、何度も。
「気持ちいいですか？アスランさん」
「んっ・・・あ、あ。上手くなったじゃないか」
本当は、今すぐ身を捩ってのたうって、もっと欲しいと訴えたい。
それを必死に我慢して、アスランはきゅう、と、シンの首にしがみ付いた
でないと、本当にみっともなく求めてしまいそうだった。
「アスランさん、今日、なんか凄い・・・」
シンの声も、上ずっている。
上ずって、かすれて。
そうして甘く、アスランの中を、とろとろに溶かしていく。
「シン、も、ぅ・・・・」
「もういい？」
喜び勇んだ少年に、こくこくと頷いて。
アスランは、はしたなく脚を開いてシンを待った。
与えられた衝撃は、今までで一番、アスランを幸せにした。
「んっ、あっ、あっ、あ・・・はぁっ・・・・」
シンのものが、激しく中を行き来する。
性急なそれが、今はとても心地良い。
時々、思い出したように動きが緩くなって。
アスランの様子をうかがいながら、そのうちにまた、激しくなっていく。
アスランはシンの背中に縋りながら、荒く息を付いて囁いた。
「シ・・・ン、お前の、好きに・・・・」
「ダメ、ですよ」
しかしシンは、ぶんぶんと首を振る。
汗の雫がつられて落ちて、アスランの胸を、はたはたと濡らす。
「俺ばっかりじゃなくて、アスランさんも、キモチヨくなってもらわなくちゃ・・・」
ああ、と、勝手に声が洩れた。
それは、思った以上に部屋に響いて。
シンはそれを、何故かひどく喜んで、大事に大事にアスランの体を抱いてくれた。
いつものように。
いつも以上に。
いつも以上に、アスランはシンを感じて。
シンを感じて。
感じて、果てた。
「アンタ今日すっげー可愛い・・・どうしたの？」
「可愛いのは、お前だろ？」
「俺のどこが可愛いんですかっ！」
上官の白い背中に、すりすりと懐いていたシンは、がばりと飛び上がってその背中の持ち主を睨んだ。
少年の、紅潮した頬。
輝く大きな瞳。
くるくると変わる表情。
うん。可愛い。
そう。
可愛い、んだな、きっと。
アスランはそう思った。
シンを見ていると、何故か、胸や頭の後ろがきゅうきゅうするのも、何故だか無性に抱きしめたくなるのも。
彼が、こんなに可愛いからだろう。
ぬいぐるみを大切にする女の子みたいだな。
そう思って、そんな自分に、笑って。
「笑わないでくださいよ！どこが可愛いんですか、どこが！」
「そこで怒るあたりかな。流せよ」
「流せませんよ！」
きゃんきゃんと噛み付く少年に、また、笑って。
幸せそうに目を閉じたアスランは、知らない。
自分の本当の感情を。
それは、『可愛い』ではなく。
『愛しい』のだと、いうことを。