煉獄
少年の指が、さらさらと頬を撫で、髪をくぐり、首筋を通って何もつけていない背中へと下りていく。
行為が終わっても、こうして触れたがるのは、彼が寂しいからと知っている。
それは、アスランも同じだから。
抱きしめてやろうかと、わずかに身を起こしたところで、脱ぎ散らされた服の合間に目を引かれた。
くしゃくしゃになったシーツの上、赤い軍服のポケットから、不似合いなピンク色が飛び出して、ベッドから落ちかけている。
それを、大切そうに握り締めるシンの姿を良く見かける。
詳しくは聞いたことがない。しかし、それが形見の類であることは容易に想像がついた。
大切なものなのだろうと、落ちないように拾い上げる。
火照った手のひらに、冷たいプラスチックの感触。わずかな重みに、だるい指が引かれる。
「シン、これ・・・」
何気なく、見上げたシンの赤い瞳。
そこに燃える、昏い焔。
「触るな！」
叩き落されるように、それをひったくられる。
突然の衝撃に痛む指を空に彷徨わせたまま、アスランは言葉を失った。
少年らしい明るさとは無縁の、只々昏い、深淵の炎。
底のない憎しみ、癒えることのない傷。
その、痛々しさ。
彼が、ただ寂しいだけの少年ではないことを突きつけられ、アスランは無理やりに、その瞳から目をそらした。
一体どれくらい、俺はこんな目をした人間を作ってしまったんだろう。
そして、父は。
俺たちもその一人だった、そんなことは言い訳にもならない。
「・・・・ごめん」
肘を突いて、体を起こし。
腕を伸ばして、可愛らしい携帯を握り締める少年の、震える肩を抱きしめた。
触れた肌から、彼の感情が伝わって、じりじりと焼かれるような気がする。
煉獄の炎は、きっとこんなものではないのだろうけれど。
「大事な、ものなんだな」
「・・・・・・・・」
シンは答えず、それでも片手を携帯から離して、アスランの背中を掴んだ。
哀れみと償いと、自己憐憫と復讐と。
自分たちの間には、そんなものしかないけれど。
それでも、このぬくもりは、互いの傷を埋めてくれるから。
傷を舐め合えれば、とりあえず今日を生きていけるから。
「シン」
名を呼んだ唇を、荒々しいキスでふさがれて、アスランは静かに目を閉じた。
圧し掛かる少年の熱に、焼かれる。
力なく投げ出されたアスランの腕の側から。
場違いに可愛らしいピンク色の物体が、音を立てて、ベッドから落ちた。