PASSIONATE
「では、失礼いたします」
敬礼し、ドアを閉める。
黒髪の最高権力者の姿が見えなくなると、アスランはそこが廊下なのにも関わらず、深く、深くため息をついた。
それは、ため息というには、熱く、切なく。
それでも近くに人の気配を感じて、背筋を伸ばし、そこを立ち去るために足を動かす。
途中、数人の議員に呼び止められ、夕食に誘われそうになってなんとか逃げ出し、乗せてきてもらった車までたどり着けば、白服の軍人に声を掛けられ、仕方なく仕事の話をした。
エアカーの振動すら辛くて、正直フラフラになりつつも、悟られないようにと常と変わらぬ態度を崩さないのは、もう、意地のためだけだ。
実際、部屋にたどり着いた時、アスランは半泣きだった。
何を入れたあの変態！
らしくない悪態を心中吐き捨て、ベッドに転がる。
議長に面会した時に、勧められた飲み物に何かが入っていたのは明白だった。
飲む前に、何か嫌な気配を感じはしたのだが、殺しはしないだろうと思い切って飲んだ。
全部飲んだのはやり過ぎだったと、今になっては思うのだけれど、また同じことがあっても、意地になってまた飲んでしまうことは明らかで、その辺は自分の性格を呪うしかない。
飲まされたのは、恐らく即効性の媚薬の類だ。
薬への耐性は随分ついているはずだが、それでもこれだけ効くということは、たぶん新薬・・・議長手ずから調合していたらどうしよう。
報告書を手渡し、補足の説明をしつつ、彼が自分を見ていた目は忘れられない。
正直このまま帰すとは思わなかったのだが、彼は懸命にそれをこらえて仕事をするアスランを眺めることで満足したらしかった。
好事家のすることはわからない。
これなら、年下の恋人のように、いきなり押し倒してくる方が、殴り飛ばせるだけまだマシだ。・・・・いや、議長を殴れるかどうかは別として。
「んっ・・・・」
自分のテリトリーに戻ってきて、気が緩んだのだろう。下肢から突き上げる感覚が、酷くなってきたような気がする。
服が肌に擦れる感触。思わず袖を掴み締めると、走った快感に肩が抜けそうになる。
効き目、長すぎるぞ・・・
恐らく彼は、ひとり悶えるアスランを想像して笑っていることだろう。
そう考えると、自分で慰めるのも癪で、アスランは服のまま、毛布を被って丸くなった。
絶対このまま我慢してやる。
そう決意して、目を閉じたその時、ふしゅ、と、ドアの開く音がして、能天気な声がした。
「アスランさーん」
ぞく、と、背筋を何かが駆け上がった。
「え、あ、もう寝ちゃいました？」
声変わりも済んだろうに、まだ、少し高い。強がってはいるくせに、甘えた響きの濃やかな。
シンの、声。
「い、や・・・」
もそもそと毛布を除けてあらわれた恋人に、シンはにこりと笑って抱きついた。
「お帰りなさい。議長んとこ行ってたんですか？てかあんた軍服のまんま？ズボラにもほどがありますよ」
鼻先に触れるシンの髪。シャワーを浴びたばかりなのだろう。混じりけのない、シンの匂い。
押し付けられた体温、細いくせに力強い腕。
この腕に翻弄される快感を、体全部で思い出し、アスランはふるりと身を震わせた。
我慢する、という決意が、思い切り激しく揺らぐ。
「うわ、ブーツまで履いてる。何やってんですか」
ひょい、と覗き込んできた赤い瞳に、体の奥を焼かれる心地がする。
「あ、あ。議長に、ちょっと」
そう、議長に。
「一服盛られた」
「一服って、何を！？」
掴みかかった少年の指、喉元に触れて、感じる。
「んっ・・・・」
思わず洩れた声に、言われずとも何を盛られたかわかってしまい、シンは天井に向かって激しく吠えた。
「あんのエロオヤジ！俺のアスランさんになんてこと！！」
「いや、何かされたわけじゃ、ないから・・・・」
「ほんとですか！？」
やたらと響く声に、甘い息を洩らす。
議長の声もかなりキたが、シンの声はもっとクる。
欲情、する。
俺、実は相当、この子のこと好きだったんだな・・・・
「ほんとうだよ」
アスランはシンを抱き寄せて、自分よりも少し小さな体が、腕の中に納まる感覚を愉しんだ。
そう。無駄な意地を張るのもばかばかしい。
「確かめて、みるか？」
怒りに赤く染まった耳元に、そうやって甘く囁くと、少年はこくこくと頷いた。
「もちろんです！」
ブーツだけは自分で脱いだアスランの、緩められた襟元に、シンの指がかかってくる。
喉元にキスされながら、緩められていく軍服。
解放される感覚に、思わず息をつく。
「跡、ついてない」
「当たり前だ」
言って、緩く脚を開くと、すかさずその間に滑り込んでくるシン。
こういうところは抜け目ない、と、少し、笑う。
「何笑ってんですか・・・」
上着の袖を引っこ抜き、する、とアンダーの下に手を突っ込まれ、手のひらでざっと胸を撫でられた。
既にしこっていた場所が、それを敏感に感じ取り、腰が揺れる。
「ん・・・お前、可愛いなって」
「可愛いってなんですか。可愛いって」
そのまま抱き寄せられ、シンは尖らせた唇で、たくし上げたアンダーの下に触れた。
上気したピンク色の肌。
甘い香りのするそこここにキスをして、ただでさえ感じやすい肌が、そのたびに震えるのを愉しむ。
クスリのせいなのは気に食わないけれど、でも、今、アスランさんを気持ちよくさせてあげるのは俺だもんね。
そう笑って、もっとピンクな胸の先を、舌先で愛撫する。
「あっ、ん・・・・」
髪をくしゃくしゃにされて、それがなんだか気持ちよくて。
夢中で胸を吸うシンに、アスランは焦れ、強く髪を引いて引き剥がした。
「シ、ン。早く・・・・」
とろりと甘い、しゃぶり尽くしたアメ玉のような瞳で見上げられて、シンはごくりと生唾を飲んだ。
クスリのせいなのは、わかってるけど。
でも、めったにこんなこと、言ってなんかくれないから。
「こっちも、確かめていいですか？」
シンを迎え入れるかたちで開かれた脚。
その間に、性急に触れていく。
そこはもう、穿いたままの軍服を、きつくきつく押し上げていて。
「あ・・・ぁ」
答えた声は、喘ぎに紛れて、シンの雄を刺激した。
しっかりと掛けられたままだったベルトを外し、あらわれたものは、既に先に透明な液さえ滲ませていて。
「すごい、もうこんなになっちゃってる・・・ねえ、これクスリのせい？」
そっと手の中に握り込むと、びくんと跳ねる熱。
感じているこの人は、色っぽくてこんなとこまでキレイだけれど、でも、クスリのせいだと思うと、ちょっと悔しい。
しかしアスランは、シンの首を抱き寄せて、甘く濡れた舌先で、シンの頬に触れた。
「い・・・や。お前のせい、だ」
少年の手のひら。
声。
匂い。
体温。
どきどきと、伝わる鼓動。
存在全部が、アスランを欲情させて。
「だから、早くしろ・・・・」
シンの腰を、アスランの膝が擦る。
熱い吐息が頬を濡らす。
誘う言葉と、仕草。
たまらない。
なめらかな胸を半ば隠し、色めいた風情を見せていたアンダーを引き上げて脱がせ、スラックスを下着ごと掴む。そうすると、アスランは軽く腰を上げて、引き下ろすのを手伝ってくれた。
剥き出しの脚が、軽くシーツを蹴る。それを捕まえて、もう一度開かせて。
押し上げた膝の裏、手のひらいっぱいに感じた熱く滑らかな肌と、淫らな眺めが気持ちいい。
ちゅ、と、立ち上がったものの先端に口付けて、それから手を滑らせた双丘の、片方をぎゅっとわし掴む。
「んっ」
それだけで、感じてしまったのだろう。
指に吸い付く肌が熱く震え、その奥に触れれば、そこは期待に染まり、ほのかに濡れてさえいて。
軽くなぞり、焦れたアスランが腰を浮かせるのを見計らって、不意を突くように、押し込む。
「あっ・・・」
女の子みたいな声、可愛い。
それに。
「ほんとにしてないんですか？ここ、こんなに柔かいけど」
そこは、柔らかく潤い、シンの指を飲み込んで、きつく、緩く、締め付ける。
「し・・・てな。もっと、奥、確かめろ・・・」
潤んだままに睨む瞳の、赤らんだ目元。
震える肌に、根元まで食んだ、指に絡む奥。
でも。
「もっと奥？」
「おく・・・」
これ以上、指なんか入らない。
だから。
シンは、そのぬかるみから指を引き抜き、手早く自分のものを引っ張り出した。
いつもだったら、もっと濡らしてあげるのだけれど、これだけ柔かくて、欲しがっているのだ。大丈夫。
それに。
自分の下で、ふるふる震えて自分を待っている恋人。
こんな可愛いもの、すぐに食べちゃわなくちゃ、もったいない。
「ん、じゃ、もっと奥」
「あ、ぁ、シンっ・・・・」
緩やかにシンを飲み込んでいく肉襞は、熱くて、キツくて。
いつもより、淫らな蠢きで、シンを酔わせて。
「この、くらい？」
ずるずると根元まで押し込んで、甘い吐息をつく人に問う。
伏せられた睫の影、色めいたさまがたまらない。
「も・・・っと・・・・」
しかしアスランは、まだ足りないとばかりに恋人にしがみ付き、腰をすり寄せ。
熱い肌を、シンに添わせたかと思うと、いきなりベッドに肘を付き、無理やり体を起こしにかかった。
「もっと、って、うわぁっ」
もともと、無理な姿勢で繋がっているのだ。バランスを崩しかかったシンは、更にしなやかな指に肩を押されて、ベッドへと倒れ込んだ。
「く、ぅン」
急な動きに中を抉られて、苦しげにうめいたアスランは、しかしシンの腰に跨るかたちに落ち着き、深く息をついた。
「は、ぁ・・・・・」
自分の重さの分だけ、深くシンをくわえ込み、それでも満足しないのか、アスランは少年の胸に両手を付いて、自分で腰を揺らしだす。
「ああっ・・・ん、ク、ふ、あん・・・・」
自分の上で、一心に快楽を追うキレイな人。
色づいた肌に、甘い汗がほのかに光る。
藍色の髪の先が、動くたびに跳ねて、快楽に染まった頬を彩って。
耐えるように寄せられた眉、細められた翠玉の瞳。
そうして繋がった場所からは、ぐちぐちとイヤラシイ音。
絶景。
だけど。
キモチイイけど。
このまま乗られっぱなしはやっぱりシャクで、シンは夢中になっているアスランの、跳ねまわる腰を捕まえた。
滑らかな肌を濡らす汗に、指が滑りそうになり、負けじと、強く掴んで。
下から、力いっぱい突き上げる。
「や、シン・・・あ、くぅン」
一度だけ、嫌がるように首を振ったアスランは、しかしすぐに快楽に飲まれて高く喘いだ。
「気持ちイイ？」
聞けば、こくこくと涙をこぼして頷く。
シンも気持ちイイ。まるで搾り取ろうとするかのように、熱くうねる中。
「あ・・・あぁ・・・・」
あの、理性のカタマリのようなアスランが、我を忘れて溺れるさまに、もうシンもたまらなくなる。
一緒にイこう、と前に触れようと指を伸ばしたところで。
「ああ・・・ンっ！」
触れる前の、アスランが弾けて。
よじられた腰の、その締め付けに。
シンもその中に、たっぷりと注ぎ込んだ。
はぁはぁと、荒く息をついて倒れ込んできた人を抱きとめて。
シンは、頬に唇に、たくさんたくさんキスをした。
「ん・・・」
少し落ち着いたのか、脚に力を入れたアスランのそこから、シンのものがずるりと抜け落ちて。
それから、放ったものがトロトロとこぼれ落ちてくる。
うわー
そのイヤらしさに目を見張り、更に足の上に座り込まれて、制服を濡らされて。
それでも、手のひらに感じる恋人の肌は、熱いままで。
シンのものも、また、熱くなって。
「満足しました？」
「まさか」
貪欲に笑う赤い唇。
それに食らいついたシンは、愛しい体を抱いて、体の位置を入れ換える。
「なんかさっきの、乗っかってくれたの嬉しいけど、ヘタクソって言われた気がしてすげー傷ついたんですけど」
いつもよりも、敏感になった肌に口付けながら、少しむくれてシンは言う。
「ごめん。今度は、好きにしてかまわないから」
一度極めて余裕ができたのか、アスランはやさしくシンの頭をかき抱いた。
「ほんと？」
仔犬のような恋人の、キラキラとした赤い瞳に、一瞬、しまったと思う。
思う、けど。
「ほんとだよ」
笑ってキスを返してやれば。
「じゃ、後ろからしたい！」
「・・・いいよ」
自分で体を返し、腰を上げて。
いつもなら、恥ずかしがって絶対してくれない姿を自らさらして。
「シ、ン・・・」
誘う声、ヤらしい。
シンはすぐさま、その体にむしゃぶりついた。
「今度、議長にお礼言おっかな」
腰が痛い、と呟くアスランを抱いたまま、シンは名残惜しげにその背を撫でた。
「やめてくれ。面白がられて本当に食われたらどうする。・・・それにな」
やわらかく笑った唇に、甘い色香を滲ませて。
「俺は、お前だから欲情したんだぞ」
そう囁いた人に、シンがまた襲い掛かってしまったのは、仕方のないことだったろう。