お詫びにね
いつもどおりシンをぶっ飛ばしたら、いつもよりもよく飛んだ。
やりすぎたかと慌てて抱き起こすと、少年は、完っ全に伸びてしまっていた。
「それでもお前、元赤服か？受け身くらい取れ」
「取れるワケないでしょう！殴られたって思ったトコから、もう何も覚えてないんですよ俺！」
念のためにと、アスランはシンを病院に引きずって行ったのだが、軽い脳震盪と打撲だと言われて、湿布だけを持たされただけだった。
打った肩は大アザだったが、ちょっとしたケンカでそれくらいのことは結構ある。
「だから、悪かったと言ってるだろ。今度はちゃんと手加減する」
「それなんかすげームカつく・・・」
言いながら頭を振ると、まだ少しくわくわした。
おっととと、とよろめくと、
「大丈夫か？」
アスランに支えられてしまった。
「そんなん言うんなら殴らないでくださいよ」
「・・・悪かった」
どうも、今回は本当に反省しているらしい。
それが手加減に関してだというのは、それはそれでかなりムカつくけれど、後悔はしても、反省はなかなかしないこの人にしては珍しい。
あ、そうだ。
シンは、いいことを思いついた。
「じゃあアスランさん、お詫びに俺の言うこと一個聞いてくださいよ」
その笑顔に、ああ、またろくでもないことを考えているなぁとアスランは思った。
舐めてとか乗ってとか、きっとそういうことだろうなぁと思った。
だから、まあ、それくらいはしてやってもいいかと、思ってしまって。
「いいぞ。何だ？」
「えっと・・・」
具体的には考えていなかったのだろう。シンは視線を空にさまよわせた。
そうして。
とある看板を見つけてしまったのだ。
「じゃあ、あそこ行きましょう！」
「・・・・」
アスランは、とりあえず頭と肩は避けることにして。
とりあえず、シンのお尻を蹴飛ばした。
シンが指さしたのは、いわゆるラブホテルの看板だった。
近道にと通りがかったそこは、丁度、オーブで【安全に遊べる繁華街】をうたって観光客を呼び込んでいる通りの裏あたりだ。
表ほどけばけばしい看板はないものの、少し寂れた感じがむしろいかがわしい。
いいと言ってしまったのだから、聞いてやらないわけにはいかないだろうと思いつつ、それでもアスランはぼそぼそと抵抗する。
「昼からか・・・？」
「アンタこないだ昼っから乗ってきましたよね！」
「ただの時差ボケだ。Ｌ２から戻ったばかりで体感時間が夜だったんだ」
「俺、アンタのせいでアタマん中夜になりましたけど」
「・・・・わかった！入ればいいんだろ！」
よし、勝った。
にっこり笑ったシンは、しかしすぐにアスランのセリフに眉間にシワを寄せた。
「でも、この辺は昔からのホテル街だから、建物も設備も古いんだよな」
「なんで知ってんですかそんなこと・・・」
そんなこと、オーブ生まれのシンだって知らなかった。
昔オーブにいた時何してたんだこのヒト！
しかもアスランは、更に路地ひとつ向こうの看板を指さして。
「確か・・・ああそうだ、あの店、あそこは結構良かったぞ」
「だからなんで知ってんですかそんなことー！」
「いや・・・」と、首を傾げる仕草は、答えるのが面倒になってる時だと知っている。
「説明すると長くなるんだが」
「いいです！もういいです！！」
聞かない方がいい、と、シンは本能的に思った。
聞いたら俺絶対落ち込む！
「行きましょう！」
だから、シンは、アスランの手首をひっ掴んで、ずんずんと歩きだした。
アスランの、指さした看板に向かって。
「すっげー」
部屋を見て、第一声がそれだった。
その前に、入り口やら無人のフロントやらで、シンはまったく同じことを言っている。
「何が凄いんだ」
いい加減呆れ気味にアスランが聞くと、シンはばたばたとあちこち指さしながら興奮気味に並べ立てた。
「なんかぜんぜんすっげーキレー、ベッドでかい！テレビすっげーでかい！あ、これもしかしてカラオケできる？！そっちフロですか？わ、わ、広い！」
「・・・・」
そうして、呆れているアスランを完全に置いて、バスルームのドアを開けっ放しにしたまま今度はベッドに駆け寄って。
ぐい、と天井を指さして言った。
「すっげー！上、鏡になってる！」
だから何なんだ。
そのセリフを、アスランはとりあえず飲み込んだ。
これで、よくケンカになるのだ。
できることなら、このままカラオケでもしていてくれれば有り難いのだが。
そう思ったが、ヤりたい盛りは当然、そんなわけにはいかない。
「アスランさん、俺、探検してますから、先にシャワー浴びちゃってくださいよ」
探検ってナニ。
思ったそばからつけられたテレビからは、ＡＶが流れ始めた。
少年はすぐに静かになり、アスランはため息をひとつついて、シャワーを浴びに行った。
まあ、こういうのも悪くはないかな、と思う自分は、たぶんシンにベタ惚れなのだと、アスランは自覚している。
ああやってはしゃぐ少年の姿を眺めているのは、結構楽しい。
コイツが喜ぶなら。
そう、こういうのも、悪くはない。
「浴びてきました！」
何でいちいち報告するのかわからないが、「そうか」と答えるとシンはにこりと笑った。
そうしてそのまま、がばりとアスランに抱きついて。
「髪、まだ濡れてるぞ」
「アンタもだろ」
いつもの会話を交わしてキスをする。
そのまま、ベッドにひっくり返って。
背中に感じる、シーツの触り心地は上々だ。
他にもいくつか、実はもっと綺麗で雰囲気のいい店は知っていたのだが、アスランはその一点で、ここが一番気に入っている。
顔を上げれば見える鏡は、趣味が悪いかなと思うけれど、これがない部屋は埋まっていたのだから仕方がない。
気にしなければ、まあ、いいか。
ちゅっ、ちゅっ、っとキスをして、細いけれど、しっかりとした指が、体中を這い回る。
まだ、その気になっていない体が、少しづつ、熱を持って。
シンに抱かれる、体になっていく。
この時間が、アスランは案外好きだった。
「・・・シン、くすぐったい」
「そのうちよくなるから黙っててください」
「ヒドイなお前」
「くすぐったいとか言うアンタがヒドイです！」
荒くなった言葉と共に、きゅむ、と前を捕まれて。
んっ、と喘いだアスランの視線が、なんとはなしに、上へ行って。
・・・・・あ
そのまま、ぱちくりと瞬きをした。
見えるのは、ちょっと間抜けな自分の顔と、一生懸命うごうごしている、なんだか可愛いシンのアタマ。
試しに、細い腰に足を絡めてみると、びびくん！と背中が跳ねて、その膝を捕まれた。
「何だ、アンタだってサカってんじゃん」
「いや」
お前が可愛いだけだから。
そのセリフを、アスランはとりあえず飲み込んだ。
これで、よく、ケンカになるのだ。
代わりに何て言ってやろうかと考えているうちに、シンはアスランの足の間に指を突っ込みだして。
「・・・・んっ」
アスランは、言おうとした何かを全部引っ込めた。
シンの指は、いつだって気持ちいい。
口では何だかんだと言っていても、とても、丁寧に、アスランに触れる。
調子に乗るから、言わないけれど。
「シン、もう」
いいぞ、と言ってやると、シンは飛び上がってキスをしてきた。
キスは気持ちいいけれど、可愛いアタマを見ていた視界をふさがれた。
少し不満だったので、髪を掴んでぐいぐいとアタマを押しやると。
「まったく、せかさないでくださいよ」
何かを誤解したようだった。
まあ、いいんだけれど。
「・・・頭、痛くないなら、何よりだ」
「まだイタイですよ！」
だから治して、と言いながら、シンはアスランの中へ入っていく。
「アンタのことで、いっぱいにしてよ」
「・・・もう、っ」
ずず、とまだ少しきつい襞を擦られる感覚に、きゅっと目を閉じてから。
「いっぱいだ、っと、思ってた、のに」
まだだったのかと、喘ぎ喘ぎ呟くと、可愛い頭がぶんぶんと振られ、それからふらーっと斜めになった。
「馬鹿・・・」
「ダレのせいですか！」
痛いかどうかはわからないが、本調子でないことは確からしい。
だからアスランは、
「悪かったよ」
と囁いて。
ぎゅ、とその頭を抱き込んでやると、少年もアスランの体をぎゅっと抱いて。
それからシンは、アスランの中で一生懸命動いてあげた。
この人が、どこをどうしたら気持ちよくなるかなんて、もうとっくに、たくさん知ってる。
だからホントに、一生懸命だった、のに。
あれ？と、シンは思った。
こういう時、アスランは、シンにしがみついてアタマにほっぺたすり付けて、耳元で可愛くあんあん啼いてくれるのに。
でも今日は、その声が、ちょっと遠いような・・・
少し顔を上げてみると、やっぱりアスランの顔がちょっと遠かった。
いつもなら、シンしか見てないはずの緑の瞳は、なぜだか虚空に投げられて。
「ねえ、アンタ、ドコ見てんの？」
ちょっと腰を一休みしてそう聞くと、アスランはやっとシンを見てくれた。
「いや・・・・」
頬を真っ赤に上気させ、緑の瞳を快楽に潤ませたアスランの、見ていた方をシンも見る。
そこには。
「あ、鏡だ！アンタ、自分のヤられてるとこみてコーフンしてる！？」
「いや」
鏡で見るアスランさんもキレー！と騒ぐ恋人に、アスランはふるる、と首を振って見せた。
「違う」
うん、まあそういう用途に使うものだけど、今日に限っては違うから。
思うと、アスランの頬が、自然と緩む。
それを思い出して、笑ってしまう。
アスランの中で、シンが一生懸命動くたび。
鏡を見ていたアスランには、見えてしまうものがあったのだ。
それは。
「お前、動く度、尻が動く、の、可愛いな、と」
気持ちよくて回らなくなってきた頭で、アスランは正直に答えてしまい。
「・・・・アンタって人はーーー！！」
叫んだシンは、もうなりふり構わず、アスランの中でせっせと動いて。
そのたびに、ぴょこぴょこ動くシンのお尻を、アスランは十分堪能した。
中でも、目でも。
それはもう、たっぷりと。