おめでとう C.E.84
胸にちゅうちゅうと吸い付いている黒髪をかき混ぜて、アスランは、はぁ、と吐息をついた。
慣れた青年の愛撫は、未だにどこか拙いところまで含めて、とても、とても気持ちがいいのだけれど。
「おまえ、さ」
その声は思ったよりも上擦っていて、少しだけ声を出したことを後悔したけれど。
キョトリと見上げた赤い瞳が、単純に疑問を浮かべていて。
アスランが感じていることを知ればもっと喜ぶはずのシンが、それに気づいていないことがわかって。
「３０近い男の胸吸い付いて、楽しいのか？」
そう、続けて聞いた。
「何言ってんですかアンタ」
しかしシンは、むう、とモンゴロイド特有の童顔を、更に幼くむくれさせて。
「めちゃめちゃ楽しいに決まってるじゃないですか」
そう言うと、ぺろり、と唾液の絡んだ胸の赤みをこれ見よがしに舐めて見せた。
「・・・っ」
赤い舌が、自分の胸を舐め取るのは、視覚的になんだかいたたまれなくて。
アスランが息を詰めたのは、きっと、そのせいに違いなかった。
しかしシンは、視線を落とすと、はぁっ、と熱い息を吐いて。
「こっちも」
するり、と少し堅い指先を、胸から下腹まで撫で下ろし。
「すっげー、たのしい」
にこりと笑んだ唇で、白い内股にちゅ、と口付けると、すぐさま頭を持ち上げかけていたものに、吸い付いた。
「ん・・・・っ」
シンの口の中で、アスランのものがひくんと跳ねる。
口の中がアスランの味でいっぱいになって、でも、もっと、もっと欲しくなる。
これ、俺の。
俺の、アスランさん。
そう思うと、もっともっと楽しくて、嬉しくて。
シンは、口の中のものを、ぺちゃぺちゃと音を立てて愛撫した。
とたん、べちんと頭を叩かれて、弾みで当たったシンの犬歯に、アスランはびくんと脚をひきつらせて。
そうして今度こそ、シンにもわかるひっくり返った声で、がなった。
「犬か！おまえは！？」
もう、何回聞いたかもわからない罵倒に、当然シンは慣れっこだ。
「犬じゃねーって言ってんだろ！」
がう、とまさに犬のように吠えて、そうして、がふっとキスをする。
ベッドに上がってすぐにした、甘いだけのキスよりも。
たぶん、ちょっと気持ちのいいキス。
互いに遠慮のない舌が、互いに気持ちよくなろうと動くものだから。
それはもう、気持ちが良くて、よくて。
「・・・っ！て、準備！準備しないと！」
「準備言うな馬鹿！」
なんかもうすぐにでもシたくなって、シンは、ぷは、と口を離して。
そうしてすぐさま、殴られた。
「アンタのために言ってんでしょうが！」
「入れるのおまえなんだからそのくらい当然だろう！」
ベッドの上での喧嘩は、続けると気持ちいいのがどっかに行って、それに、いつもの倍悲しい。
だから、シンは口をつぐんで。
そうして、再びアスランの脚の間にがばっと頭を突っ込んだ。
勢い余ってそうしたけれど、それじゃあちょっと足りなかったので。
開いた膝裏をがっしと掴み、うわやばいやっぱこの人の肌きもちいー、とか思いながら、それをぐいと掴み上げた。
「・・・っ！こらシン！」
「だから、犬みたいに叱るなっての」
そうして現れた、未だにピンク色したシンを受け入れてくれる場所に、ぺろり、と舌を這わせて。
そのまま唇を尖らせて、ちゅう、と吸い付いた。
「〜〜〜〜〜っ！」
アスランさんが、ここ舐められるの凄く嫌いで。
すごく悦いって、ちゃんと知ってる。
ちゅぱちゅぱと、音を立てて舐めしゃぶれば、不思議と声は聞こえなくなった。
でも不思議じゃない。
シンは知ってる。見なくってもわかる。
アスランさん、今、自分の両手で口を押さえて、声を出すのをガマンしてる。
そんなの、きゅうきゅう口をつぐんだそこから、みんな、ぜんぶわかってしまう。
それくらい、一緒にいて。
それくらい、セックスしてきたんだから。
「アスランさん、力抜いて」
「・・・・・・」
「わかったから、もう舐めないから」
舌でもっていっぱい舐めて、それで入れてもいいけれど、それはとても時間がかかる。
今それやると、確実に。
確実に・・・時間になっちゃうよ。
だから、シンはそこから口を離して。
思ったとおり、両手で口をふさいで真っ赤になってる可愛い人の、その手を取って、キスをして。
「・・・・ええっと、ジェルどこだっけ」
アスランさんの大好きな、桃の匂いのジェルを確か。
べちん。
また、頭を叩かれたけど、気にしない。
そのまま続いてたしたしと、サイドボードを叩いた手のひらが、その在処を教えてくれたからイーブンだ。
そう思わなきゃやってられないじゃないか、こんな人と。
そう思いながら、引き出しを開けてジェルを出して。
思ったよりも香料たっぷりだったそれを、アスランのそこにたっぷりと落とした。
「うわ、凄い匂い」
「安物買って来るなって、あれほど・・・」
「安物じゃないですよ！結構高かったんだから！」
だって、だって今日は、特別な日なんだもの。
ちゃんといいやつ買ってきたよ！
そう主張すると、アスランは。
視線だけで、まったくしょうがないな、っていって。
そうして、はぁ、と息を吐いた。
ほの赤く染まった綺麗な肌が、桃の香料よりも、匂い立って。
シンのそれも、いきり勃った。
あああああああああああもう。
アンタって人は！
そこで、シンも深呼吸。
落ち着け、落ち着け。
そうして。
自分の指にもたっぷりと、桃のジェルをすくい取り。
アスランのそこへ、押し込んでいく。
ゆっくり、ゆっくり入って来るのは、慣れた恋人の、慣れた指。
しかし、未だそれに慣れないアスランは、はぁ、ふ、と息をつきながら、一生懸命に力を抜く。
この指に、気持ちよくされる罪悪感。
何故だかそれは、シンがもうすっかり大人になっても、消えてくれない。
視線を上げれば、見違えるように・・・とは不思議となっていないのに、それでもちゃんと精悍な、青年の、貌。
なのに。
アスランにとって、シンはやっぱり、可愛い子。
俺の、可愛い、シン。
もちろんそれを言えば、シンがぎゃあぎゃあ怒るのは、さすがのアスランもわかっているので。
もう三本も指を飲んでいるそこを、じいっとのぞき込む黒い頭をぐいと掴んで。
「うわ、何すんですか」
びっくり大きく見開かれた、真っ赤な瞳にくすりと笑って。
なんか、いろいろ濡れた唇に、ちゅぅ、とひとつ、キスをした。
とたん、ずるっとそこから指が抜けて。
がばっとシンが抱きついてきて。
ああもうちょっとは落ち着けよ。
くっついた口でもごもごと、そう言う間もあればこそ。
すぐに、ばっ、と体が離れて。
一生懸命、と大書きにされたような顔でもって、シンはアスランの脚を抱え上げた。
だから。
こういうところが可愛いんだよなぁ。
そうぼんやりと思いながら、アスランはシンを受け入れる。
シンはいつだって、熱くて硬くて一生懸命で。
それが、アスランは好きだった。
シンが、とっても好きだった。
ジリリリリ、と、唐突に、目覚まし時計が音を立てた。
何だなんだと目を上げると、シンがばちんと目覚まし止めて。
「誕生日おめでとうございます、アスランさん」
１０月２９日、午前０時ちょうどから、一秒、二秒と増えていくデジタル表示を、がこんとサイドボードに掴んで戻した。
「・・・うん」
その手を見ていたアスランが、ふっ、とシンに視線を戻し。
緑の瞳を潤ませて、囁くように、答えてくれた。
「ありがとう」
その時の気持ちを、一体、どう言ったらいいんだろう。
シンはまた、がばりとアスランに飛びついて。
「〜〜〜〜っ！いきなり動くな！」
色気のない声を上げたアスランに、また、べちんと叩かれた。
それでもシンはへこたれない。
だってもう、十年もこうやってきたんだもの。
そう。
あれからもう、十年も経って。
やっと、やっと、『おめでとう』を受け取ってくれるようになった人。
シンはその、大好きな人に、思いっ切りのキスをした。
アスランはそれに、ちゃんと応えてくれて。
それでも、照れ隠しにもう一遍だけ、べちんと派手に叩かれた。
