「あ・・・あのっ、泰明殿、何か、欲しいものなどはございませんか？」

紫水晶の瞳が、おどおどと見上げてくる。

それを眺めながら、泰明は、くい、と首を傾げた。

「何の話だ」

珍しく、永泉の方から訪問があり、書物や道具で埋まった部屋の片隅を、適当に片付けてふたりで座った。

永泉のものよりも狭い部屋が、更に狭くなっているので、互いの体温がいつもより近くに感じてくすぐったい。

「あの、その・・・・・」

一度、うつむいてから、もう一度、顔を上げて。

「泰明殿が、以前、神子が、その、生まれたことを、感謝するような方がいるのなら、生まれた日に、祝い事をするものだと・・・・・」

言葉の使い方が少しおかしいが、それで泰明は了承した。

それは確かに神子が言っていたことで、文月に永泉に伝えたことだ。

それを確認して、一拍おいて。

泰明は、驚愕した。

「お前は・・・私が、生まれたことを感謝する、と・・・・？」

「は、はい。ご迷惑でしょうか・・・・・？」

おどおどで、うるうるの瞳。今にも泣き出しそうな。

「迷惑ではない」

そんなこと、あるわけがない。

「では、あの・・・・」

永泉の表情がぱあっと明るくなって、泰明はほっとした。

同時に、やっと、落ち着いた。

「欲しいものは、ございますか？」

「ある。お前が欲しい」

即答した泰明に、永泉の頬がみるみる赤くなった。

だって、だって、『お前が欲しい』なんて。

そんな、私、もちろん、泰明殿がご所望なら、でも、でも、心の準備が・・・・っ

「お前はだめか？」

再びうつむいてしまった永泉に、再び首を傾げる泰明。

永泉に、生まれたことを感謝されているという事実だけで、泰明には十分だったので、別にだめならば仕方がないのだけれど。

「いいえっ」

真っ赤な顔を上げて、永泉は一大決心を口にする。

「私を・・・差し上げます・・・・っ」

「そうか」

ちいさく笑って、泰明は、そうっと近くにあった永泉の体を抱き寄せた。

あたたかくて柔らかい体に感動しながら、いい匂いのする髪に鼻先を埋める。

気持ちいい。

そのまま動かない泰明に、永泉はやっと勘違いに気がついた。

私、わたくし、なんて淫らなことを勝手に・・・っ

ものすごく、恥ずかしい。

「どうした？嫌だったか？」

永泉の体が固くなってしまったので、不審に思った泰明は、少し体を離して永泉の顔をのぞき込んだ。

「いいえ・・・あの・・・・・」

顔が赤い。

動悸が激しい。

目が潤んでいる。

そういえば、体も熱い？

「風邪か」

「ち・・・違います・・・・」

力の抜けた永泉は、とさりと泰明の胸に倒れ込んだ。

すぐに長い腕が回って、肩を抱く。

そうしていると、本当に気持ちよくて、永泉は目を閉じる。

そういえば、泰明殿は、本当は幼い方でしたね。

いつもいつも、忘れてしまうのだけれど。

本当は、とても、可愛らしい方・・・・

「もうひとつ、いいか？」

そんなことを考えていたものだから、永泉はその問いにあっさりと答えていた。

「はい」

「そうか。では、もらう」

ちゅ。

「・・・・や、やすあきどの・・・・・」

ほんとは、どこまでしってるの？

初めての口付けをもらわれてしまった永泉は、でも、幸福そうな泰明にそれを問うことなんて、もちろんできず。

でもきっと、全部もらわれてしまうのも、時間の問題だと、なんとなく、思ったのだった。

Happy Birthday！

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