暢気な男
笑師春樹は、運の悪い男だった。
「あっ・・・んっ、あんっ！じゅう、べ・・・・・」
逞しい男の上で、揺れる淫らな細い影。
「花月・・・」
ため息のような、同僚の声。しなやかな体が跳ね上がる。
笑師のいるところからは、丁度繋がっている場所は見えなくて、それが、余計に妄想をかきたてるというか、なんというか。
「あんっ、あんっ、や、あっ、ああっ・・・・」
極めた花月の高い声。直に、オトコを刺激する。
ああ、花月はん、キレイやなぁ・・・
笑師は、運は悪いが、それを上回る暢気な男だった。
何故にこういう事態に陥ったかといえば、別にたいしたことではない。
マクベスのコンピュータールームでうっかり寝こけて、目が覚めてみたら、マクベスの代わりに花月と十兵衛がいたという、ただそれだけのことで。
無意識に仲間だと思うとるから、気がつかなかったんやろなーと、冷静に分析してみても、別に事態が好転するわけでもない。
ついで言うなら、笑師の居眠りポイントから部屋を出るドアに向かうには、ふたりが熱烈に睦み合っている側を通らなくてはいけない。
そんな危険を冒してまで、ここを出て行く勇気もない。
てゆか、十兵衛はん、花月はん、あんたらが気づいてぇな。
・・・もしかして、わかっててはじめたんやないやろな。
余韻を楽しむように、身を震わせていた花月が、ゆっくりと十兵衛にしなだれかかり。
舌の絡まり合う音と、鼻に抜けるような、花月のイイ声が、また。
「んっ、んっ・・・は、あ・・・十兵衛・・・んふ」
「まだ、大丈夫だな？花月」
「ふふっ、・・・もちろん。もっと、だよ」
「わかった」
「あっ・・・大好き・・・十兵衛・・・」
「愛している、花月」
笑い合う、恋人同士の甘い声。
いいなぁ、十兵衛はん。あないキレイな恋人おって。
わいも彼女欲しいなーと、思ったところで、また、花月の体が淫らにうねり始める。
十兵衛の突き上げる律動に合わせ、甘やかな声が、喘いだ。
「ア・・・ああ・・・じゅうべえ・・・・・」
花月の腰が跳ねて、それを追うように十兵衛が腰をずらし、笑師のところからも、繋がっている場所がよく見えるようになった。
ごくり、と、生唾を飲む。
柔らかそうな尻に、太いものがしっかりと突き刺さっていて。
それが、ずる、と抜けたかと思うと、今度は、根元まで。
うわーーー
笑師は、思わず乗り出してしまう。
こないだ見た無修正ビデオだって、こないエロくはなかったわ。
痩身に絡む、男の節くれ立った指。太い腕にしなだれかかる、長い長い、黒い髪。
思わず見入った笑師の、その視線の先。
ふわり、と舞った、その、隙間から。
ケモノのように光る目が、ちらり、と、覗いた。
猫科の猛獣が、獲物を狙う鋭さと、オスを誘う艶やかさをもって、笑師の瞳を、サングラス越しに薙いで。
ふうっと、笑う。
「――――――――――――！！」
飛び上がった笑師は、一も二もなく駆け出して、二人の側を泣きながら駆け抜けると、ドアを蹴開けて逃げ出した。
は、はじめっからこうしとけばよかったわーーー！
「・・・どうした、花月」
「ううん。んっ、なんでも、ない。いたんだね、笑師」
「貴様も、はじめからわかっていただろう」
「うん」
くすりと笑って、キスをして。いっそう激しくなる恋人の動きに、愛情に。花月は体いっぱいに応えて喘ぐ。
なんで、逃げるんだろうね？僕が食べるのは、この男の甘い肉だけなのに。
笑師春樹は、運の悪い男だった。
しかし、それを上回る暢気な男だったので。
無限城の、暗い廊下を歩きながら、更に暗い天を仰いで、ニマニマ笑う。
「いやー、おっかなかったけど、ええモン見たわー」
そう。
彼は、まったく、懲りてはいなかった。