永泉が、笑う。

そうすると、胸の辺りがふわふわとして、心地よい。

永泉が、泣く。

そうすると、胸の辺りがぎゅうっと痛んで、辛い。

もうすぐ壊れるのやも知れぬ、と、思ったこともあった。

しかし終わりは今だ訪れず。

どこか不具合が起こったのやも知れぬ、と、師匠に診せたこともあった。

しかし師は笑って取り合わなかった。

ならば、これは何なのだと問い詰めると、師は笑ったまま言ったのだった。

『自分で考えなさい』

考えることは嫌いではない。

陰陽の理、自然の理、術の発動とその仕組。

しかし。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・わからん」

考えても考えても答えの出ない問いは好きではないと、泰明は思った。

単純で透徹だった世界が、一時にわけのわからないものへと変じてしまったような不安。

そうか。

私は、不安になっているのか。

それは新鮮な経験で、その不安も忘れて驚いていると、泰明の住む離れ付きの、一つ目の式神がとことことやって来た。

「永泉様がお見えです」

不安のおおもとが、やって来た。

「あの、その、泰明殿が、ご興味が無ければ断って下さっても、あの、私・・・・」

余計な言葉が異様に多いが、法親王の言葉は要約すると、『野菊を見に参りませんか』で、泰明がそれを確認すると、永泉は小さく縮こまった。

「も、申し訳ありません。花など、泰明殿はお嫌いでしょうに。私、わたくし・・・」

泰明は、花は嫌いではない。

自然から生まれ出るものは、いつも美しいと思う。

だから、首を振った。

永泉が泣きそうで、それだけで胸が痛かったせいもあるのだが。

「いや。花は好きだ。今日は務めも終わっているから、行ってもかまわん」

すると、永泉はぱあっと笑って泰明を気持ちよくさせた。

隣を、永泉が歩いている。

道端には、野菊が咲いている。

「わ、私は、白い花が好きなのです。泰明殿は、何色の花がお好きですか？」

「紫だ」

言って、泰明は紫色の野菊を一輪摘み、永泉の髪に挿した。

美しい、と、思った。

「ありがとうございます・・・」

胸が、ふわふわする。

口の端が、むずむずとする。

考えても考えても答えなど出なかったが、それでもいいのだと、泰明は思った。

「行くぞ」

「はい」

隣を、永泉が歩いている。

道端には、野菊が咲いている。

空は青い。

風は程よく乾いている。

永泉が笑っている。

世界は、美しい。