ドアを開けると、喘ぎ混じりの荒い吐息が聞こえた。それから、かすかに振動音。

一歩踏み入れれば、ベッドの端に、背を丸めてちいさくなった体が見て取れる。

「どうだ？」

相手が満足に応えられないことを承知で、俊樹は声をかける。

その声にぴくりと反応し、オルフェウスは涙で真っ赤になった目をのろのろと上げた。

明かりのつけられていない部屋の中でも、はっきりと見て取れるほどの白い裸体は、下に咥えさせられたものの振動に感じてふるふると震えている。

恐らく、苦しい前を慰めるべく必死に身を捩ったのだろうが、ベッドの柵にまとめて括りつけられた両手には届かなかったのだろう。しかしそれは既に吐き出した精で濡れている。後ろだけでイった・・・ということだろう。

「・・・・・てくだ、さ・・・・・・・・」

「聞こえないな」

その体の苦しみようを知りつつ、俊樹は汗に濡れた髪を掴んで無理やり自分の方を向かせた。

「いかせ、て、くださ・・・・・」

やっと、という様子でそれだけを言ったオルフェウスに、嘲笑の眼差し向け、一言、

「淫乱め」

そう蔑むと、俊樹は自分のものを取り出した。

「舐めろ。上手にできたら、イかせてやらんでもない」

「ん・・・・」

従順に開かれる唇に、熱くなったものを押し付ける。

柔らかな口腔を、十分に張りつめたもので弄る。

苦しげに舌を使うその所作は、明らかに慣れていないもので、そのぎこちなさがまた、俊樹を熱くした。

あの男は、こちらはほとんど仕込んでいなかったのだ。

大きなものに喉奥まで犯され、涙をこぼすその瞳の美しさ。

それを知る者は・・・・

俊樹は、無理な姿勢に歪んだ肢体を、また、力づくで引き寄せた。

そしてその喉奥に、欲望の丈を放つ。

「ん・・・ぐ、ぅん・・・・」

苦しげに震えた顎を掴み、無理やりに飲み込ませる。白い粘液に濡れた唇は、簡単にまた、俊樹を欲情させた。

「ヘタクソ」

膝を乗り上げて、シーツに落ちる黒髪を掴み上げる。

ちいさな悲鳴を意にも介さず、俊樹は花月をベッドに繋いでいた縄を、ベッドのポールごと粉砕した。

「上の口は、また後でゆっくり仕込んでやる。今は・・・下を仕込み直さないとな」

あの男に慣らされた体を、そのまま愉しむつもりはない。

一度壊し、自分好みにつくり直さなければ気がすまない。

オルフェウスが、従順に精に濡れた唇を開く。

「は、い・・・・」

俊樹は掴んだ髪ごとちいさな頭を、甘い汗の匂いのするシーツに押し付けた。

「は、あぁ・・・・」

後ろに咥えたものを更に押し込むと、あえかな喘ぎを洩らして細い腰が震える。

とくとくと、はしたなく精をこぼしながらも更に腰を揺するオルフェウスに、俊樹は侮蔑の言葉を吐き続ける。

「随分と後ろがイイんだな。毎日、あの男とヤリまくってなのか？・・・ああ、それとも雷帝か？二人を一度に相手にしたのか？」

オルフェウスは答えない。いや、答えられないのかもしれなかった。

ただ、喘ぎとも苦鳴ともつかない声が、だらしなく開かれたままの唇から洩れるだけ。

「そんなにコレが好きなら、ルシファー様の命があるときの他は、ずっと入れておいてやろう。・・・それとも、こっちの方が、いいか？」

再び目の前に猛ったものを突きつければ、反射のように赤い唇が開いた。

あの男の知らない反応。俊樹の熱が一気に上がる。

「言っただろう？・・・下の口だ」

散々にオルフェウスを犯していた玩具を、ことさら乱暴に抜き取る。取られまいとするかのように、白い尻がつり上げられ、ぐじゅ、という生々しい音とともに崩れ落ちた。

「あ・・・・ぁ・・・・」

長い間、淫らな玩具に蹂躙されていた場所は、赤い肉を覗かせたまま、閉じられずにひくひくと震えていた。

初めに体を検分したときに、あの男がこの体を宝物のように大事にしていたのはわかっていた。

恋人でなければ見せないような場所に、控えめに残された情の名残り。

ならば、自分は。

俊樹は、一度崩れた震える腰を掴み、獣の交わる姿勢を取らせてひと息に貫いた。

「は・・・・クッ」

熱く爛れたオルフェウスの内は、ことさら従順に俊樹の欲望を受け入れる。

たまらなく好い。

昔、俊樹の手の届かない高みから微笑みかけていた体を、今、自分がこうして貶めている。

あの男にだけ許された肢体を、あの男よりも好きに扱っている。

その快楽。

腕をまわして、懲りもせずに昂ぶりだした果実を弄る。しかし達する前に手を放し、体液で濡れた指で腹を撫で、胸の突起に爪を立てた。

俊樹の腰が穿つたび、俊樹の腕が動くたび、オルフェウスの体はびくりびくりと反応し、憐れなほどに淫らな呻きが上がる。

涙と、唾液と、俊樹の精液でぐちゃぐちゃに汚れたオルフェウスの顔を上げさせ、濡れた唇に噛み付いて、俊樹はひとり、悦に入る。

こんな彼を、あの男は、きっと知らない。

こんな、彼は・・・

「ふ、はぁ・・・」

再びイった腰を殴りつけ、力を失った膝を無理やり立たせる。

腹立たしいほどに吸い付く内側がきゅう、と締まり、俊樹は激しく腰を打ちつけた。

際限なく続く責めは、いつ果てるともなく、続く。

熱いシャワーを浴びた後、コックを捻り変え、冷水にして頭から被る。

さすがに、腰が重い。

ずっと欲しかった体を手に入れ、好きなだけ蹂躙し、俊樹の雄は満足していた。

しかし、何かが足りない。

いつの間にか、俊樹の中にぽっかりと存在していた空虚は埋まらない。

何故だ？

いいかげん、冷えた体に気がついて水を止める。

タオルを被ってドアを開け・・・

汚れて壊れたベッドの上に、放り出されたままのオルフェウスの肢体に釘付けになった。

貶めても、汚しても、美しい体。

美しい・・・

「か、づ・・・・」

その名を口にし掛け、俊樹はきつく唇を噛む。

「起きろ、オルフェウス」

名を呼び、細い手首を掴んで無理やりに引きずり起こす。

黒曜の瞳が空ろに開き、俊樹を認めて緩慢に瞬いた。

「シャワーを浴びて来い。汚い」

俊樹の言いように頷いたオルフェウスは、半ば吊り上げられたままベッドを下り・・・そのまま、力尽きてへたり込んだ。

「何をしている」

大きく波打つ脇腹を蹴りつけ、掴んだままの手首を引き上げる。

残された方の手のひらで上体を支えたオルフェウスは、何度も膝を震わせたが、結局立てないままだった。

「立て」

俊樹にも、無理を言っている自覚はあった。

しかし、止めることはできなかった。

腹を蹴り、胸を蹴り、ベッドに引きずり上げて殴りつけた。

苦痛の呻きに駆り立てられるように、その行為はエスカレートしていく。

髪を掴み、綺麗なカーブを描く頬を殴り、流れる赤に更に拳を叩き込む。

血に濡れた拳がすべり、姿勢を崩してオルフェウスの上に倒れこんだ。

下に敷いた体が熱い。

涙が出た。

「・・・・っ、ク・・・・・・・」

俊樹は、散々痛めつけた体を抱きしめた。

初めて、抱きしめた。

何故ならそれは、あの男の仕草を真似ることに他ならないから。

腕の中の体は熱く、柔らかく力なく頼りなく。

いとおしく、そして、憎らしく。

よそよそしく。

俊樹は、声を上げて、泣いた。

生まれて初めて。

声がかれるまで、泣きじゃくった。

そんな俊樹を。

オルフェウスはただ、空ろな瞳で、ぼんやりと見ていた。