New Year Kiss
ぬくぬくと、暖かい場所で目が覚めた。
ここがどこだか、シンは知っている。
自分たちのベッド。
アスランの、腕の中だ。
頬に乗った二の腕からは、パジャマに包まれていてもはっきりわかる、いい匂いがする。
まだ、少しだけアスランの方が大きいから、気がつくといつも、シンの方が抱きしめられるかたちになってしまうけれど。
でも、それも気持ちいい。
悔しいから、絶対に言わないけど。
少し重たいことだけが、少々難なその腕の中から、少し惜しむ思いと共に抜け出すと、さすがに寝汚いアスランも目を覚まし、ほやんと笑って。
「Happy New Year」
そう呟いて、キスをしてくれた。
「はい。Happy・・・」
と、そこまで答えかけて。
シンは、がきりと固まった。
え？
え？？
Happy New Year・・・って・・・・！！
昨日の夜は、二人で蕎麦を食べて、なんとなくくっつきながら、年明けを待った。
テレビは、何故かどのチャンネルでも、ラクス・クラインが映っていたのでとっとと消した。
ヤりたい盛りのシンは、ベッドでいちゃいちゃしたいなぁと思ったけれど、そうすると絶対時間なんか忘れてしまうから、そこはぐっと我慢して。
ガマンして・・・
それで？
頼みすぎた蕎麦を、意地で食べ切ったからお腹はいっぱいだった。
二人で飲んだ熱燗は、熱かったぶん、余計にまわった。
隣にくっついたアスランの体温が、とってもとっても心地良かった。
それで、ほつり、ほつりとしていた他愛のない話が、なんとなく途切れて。
最後に覚えているのは、額に降りた、やさしいキスの感触。
それを思い出し、思わずほやんとして。
それから。
「アンタ、なんで起こしてくれなかったんですかーー！！」
シンは、盛大にブチ切れた。
「え？・・・ええ？？」
今度は、アスランが目を白黒させる番だ。
「いや、だって。凄く気持ちよさそうに寝てたんだぞ、お前」
ただでさえ口の立たないアスランは、寝起きで更にボケている。
「寝顔、可愛かったし・・・・」
余計なことまで付け加え、シンの怒りに油を注いだ。
「可愛いって何なんですか！寝てても普通起こすだろ！おめでとうって言って、キスとかするだろ！そのあとセックスとかしたいだろーーーっ！！」
大きく叫んでベッドの上、ほとんど仁王立ちになったシンは、昨夜、アスランが着替えさせようとして途中で眠くなって放り出したせいで、ランニングにトランクス。
頭は寝癖でぐちゃぐちゃで。
そんな様子を、可愛いなぁと思ってぼんやり見上げたアスランは、さすがにそれは口にせず。
「年明けにキスならしたぞ？お前、寝てたけど」
「俺寝てたら意味ないじゃん！」
「んー、だってな」
その時の、自分にもたれかかって眠るシンの、額にかかった前髪やら、閉じた睫の長さやら、お酒のせいで、ちょっとピンクだった頬っぺたやら。無駄に優秀なコーディネイターの視力で観察してしまった、その頬の産毛やら、寝息と一緒にこぼれたヨダレやら、そこにキスをしたときの、やわらかい感触やら。
そんなものを思い出したアスランは、寝起きの気の緩みもあって、締まりのない笑みをこぼしてしまって。
「何ヘラヘラしてんですかーーー！！」
シンに、盛大に怒られた。
更に、枕でばふばふと景気良く叩かれて、それでも笑いは止まらずに。
「いや、うん。わる・・・こら！悪かった！！悪かったって言ってるだろ、シン！！」
「それが人に謝る態度かよ！」
ばふばぶばふ。
前に、同じことをして壊したので、今度の枕は丈夫さで選んだ。
頑丈な生地は、ちょっと、痛い。
「だから悪かったって・・・・シン？」
枕攻撃が唐突に止み、不審に思ったアスランは、顔の上に乗った枕を押しやって、シンを見上げてぎょっとする。
赤い瞳をもっと真っ赤に充血させて、ベッドに膝立ち、仁王立ちの少年は。
情けない下着姿のままで、うぐうぐと泣き出してしまっていたのだった。
「俺、せっかく、アンタと・・・っ」
何なんだそれは、泣くほどのものなのか！？
アスランも、一瞬腹が立ちかけて、奪い取った枕をシンに叩きつけようとして。
その寸前で、深く深くため息をつき、ばたんと腕ごとそれを落とした。
だって、シンとの価値観の違いは、既に諦めるしかないレベルだと、もう知っているから。
「だから、悪かったよ、シン」
もうここは、自分が折れてやるしかないと、知っているから。
「ほら、おめでとうってキスするんだろ？」
枕を床に放り出し、ほら、と両手を伸べてやる。
「うっく・・・遅いですよ、今更・・・・っ」
「遅くないだろ。・・・・・仕方ないな」
本当に仕方なさそうに、アスランはむくりと起き上がり、ふるふる震える少年の、噛み締められた唇に、やさしくキスをしてやった。
「おめでとう、シン」
「おめでとう、ございます・・・・アンタなんて格好してんですか」
起き上がったアスランは、これも丈夫が取り柄でまだ使えるらしい、軍支給だった妙にぴったりしたパンツに、パジャマの上だけを引っ掛けている。
いろいろヤバイ・・・・ぶっちゃけ、エロい格好だ。
「お前着替えさせるの、途中で諦めたからな。自分だけ着替えてたら、お前凄く怒るだろ」
「何でそんなトコだけ気が回るんですか・・・・」
しかも、回りきってないし。
がくりと脱力したシンは、ばふりとアスランの膝に突っ伏した。
あ、ぬくい。
気持ちいい。
そんなシンのぐしゃぐしゃの髪を、くしゃくしゃと撫でたアスランは、恨みがまし気に見上げた少年の、紅潮した頬に、また、キスをして。
「で？キスして、その後は何をするんだった？」
ちょっと意地悪く笑いながら、答えのわかりきったことを言い出して。
「ヤります」
だからシンは、むくれながらも素直に答える。
「仕方ないな、お前は」
「アンタでしょ、それアンタだから！」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ少年に、そのままがばりと押し倒されて。
くすりと笑ったアスランは、少年の熱い背中を抱きしめた。
「ことしも、よろしくな」
小さな呟きは、熱いキスに飲み込まれ。
新しい光の中で、抱き合う二人は、幸せだった。