花月を担いできた柾に、十兵衛は無言でベッドを示した。

花月の潤んだ瞳や、シャワーを浴びていない肌の匂いで二人が何をしていたかわかるだろうに。

幼いながらもオトコマエじゃないかと、柾は少し感心した。

「来栖さん、ありがと」

ベッドに下ろされて、笑って手を振る花月の頭を撫でてやると、十兵衛の睨む瞳が強くなる。可愛いじゃないか。

「じゃあな」

花月ではなく十兵衛に言って、去っていく柾の背中を見送ると、花月はちょっと気合を入れて、十兵衛を上目遣いに覗き込んだ。

「十兵衛、怒った？」

「・・・あきれて物も言えんだけだ・・・・・」

「なんだ、やっぱり怒ってるんじゃないか」

「貴様な・・・」

本気で怒ってる。

仕方ないけど。

ここは素直に謝るべきだと、花月は大人しく口を開いた。

「ごめん」

「・・・・・」

送ってもらいながら、なんで十兵衛がそんなもの買ってきたのか、オトナの推測を聞かせてもらった。

『あいつの気持ちも考えてやれよ。お前のこと考えてるんじゃなきゃ、わざわざそんなもの買って来るわけないだろう』

なるほどそうかと思うと、あてつけに他人のベッドへ逃げた自分の方が悪いような気もしてくる。

もとより、浮気は悪いのだけれど。

喧嘩の原因とは、また別の話だ。

「今謝ったのは、柾のトコ、行ったことだから。それはほんとにごめん。お詫びに、何したっていいよ」

「・・・・・・・」

十兵衛は答えない。自分を見つめる瞳に傷ついた光を認め、花月はひどく後悔した。

でも。

「でもね、ゴムはね、使わないからね」

「・・・・・・・・・・・」

「僕は、十兵衛と直接繋がりたいんだよ？そんなの間に挟むのは嫌だ。十兵衛の、ぜんぶ僕の中に出してよ。ね？」

言葉にすると、少し恥ずかしい。

でもこれは、本気の本音で譲れないから。

十兵衛とは、そういうセックスしかしたくない。

「・・・・来栖とは」

地を這うような低い声が、花月の背筋を粟立てる。

怖い。

でも、それは嫉妬してくれてるってことだよね。

「うん。ちゃんとゴムしたよ。中で出してないし・・・確かめるかい？」

途中、意識を失ったりもしたけれど、少し痛む体の奥に、あの濡れた独特の感触はない。

十兵衛以外の人に抱かれたのは、一方的に花月が悪い。

ここで償いをしておかなければ、後が怖い。

「来い」

「うん」

今度は、十兵衛に抱き上げられて浴室へ運ばれる。

しかも柾にはさせなかった、いわゆるお姫様抱っこだ。

それを言ってやろうかと思ったけれど、もっと怒らせそうな気もしたから、やめた。

「ん、ん・・・・」

服を剥がれて丸裸にされて、シャワーで汗を流す間もなく壁に手を付かされ、そこに指を突っ込まれた。

中に出されてはいないけれど、ジェルに濡らされ散々広げられていたそこは、簡単に十兵衛の指を二本も飲み込み、締め付ける。

「ね、・・・・出されて、ないだろう？」

軽く身をよじって甘えるように言うと、十兵衛は更に指を増やした。

「ゆるいな」

「あんっ」

三本・・・もしかして、四本？

大きく広げられたそこは、甘く熱を持ったまま、度重なる快楽に悲鳴を上げている。

「もう、しないよ・・・・」

「信用できんな」

「しない・・・・十兵衛だけ・・・・」

「中で出すのは、か？」

「ううん。ぜんぶ。もう、僕のここいじるの、十兵衛だけだよ。だから許して」

腰を突き出し、服従の意を見せる。

十兵衛が、とても独占欲が強いことを、花月は知っている。

だから、喧嘩の腹いせに浮気を選んだのだ。

こんな結果に・・・なるような気もしていたけれど、でもだから、これで許して欲しい。

「あ・・・あぁ・・・・」

十兵衛の熱いものが、ずるりと花月の中に入ってくる。

それよりも大きいものを、無理やり入れられていたせいか、その大きさは花月を安心させた。

「あ・・・あ・・・あぁん・・・・」

怒っているはずなのに、ちゃんと花月を気持ちよくさせる動きで、十兵衛は花月の中を行き来する。

壁に爪を立てると、やめろと指を取られて、その手を自分のモノまで持っていかれた。

「んんっ・・・・」

さっきまで、柾の部屋で何度イったかわからないのに。

それは、慣れた刺激に兆しはじめていて、花月は促されるまま、それに指を絡めた。

「花月・・・」

背にかかる髪を払われ、敏感な肌に口付けられる。イイところを吸われながら突き上げられ、花月はあられもなく身悶えた。

「あ、あっ、あんっ・・・・ああっ・・・・」

十兵衛のものに腰を押し付け、張り詰めたものの限界を感じ取る。

あ、十兵衛、イク。

そう思うと、花月の体も上り詰めた。

中を濡らす、熱い体液。

十兵衛、の。

「まだ、欲しいのか」

もう、限界のはずなのに、花月のそこは十兵衛をきつく咥えて離さない。

「うん。欲しいよ、十兵衛・・・・」

口元に艶やかな笑みを刷き、淫らな吐息で十兵衛を誘う。

だから、そんな貴様が心配なんだと、呟く十兵衛の声は花月の唇に消えた。

目が覚めると、十兵衛のベッドだった。

あのまま、浴室でやってやってやりまくって。

そのまま気を失ってしまったから覚えていないけれど、十兵衛は体も綺麗にしてくれたらしい。

きっと、しつこく丁寧に洗われたんだろうなと思うと、眠っていて良かったような悪かったような・・・・

「え、と。ごめん、ね」

ベッドの足元、視界の外の気配は、間違いなく十兵衛だ。

体がだるくて起き上がれないけれど、とにかくまた謝る。

「・・・・いや。俺も、お前の話を聞かなくてすまなかった」

ぼそぼそと言う十兵衛が可愛い。

「しかしな・・・」

「うん、もうしないから」

浮気なんかもうしない。

他の人になんか抱かれない。

「だから十兵衛も、中で出してよね」

「・・・・・・・・わかった」

見えないけれど、きっと十兵衛は真っ赤になっているんだろう。

花月はクスクスと笑って、それを確かめることにした。

「じゃ、仲直りのキスしようよ」

立ち上がった少年の、赤い頬と乾いた唇に、花月はありったけの気持ちを込めてキスをした。

大好き。

---