十兵衛は、夢を見ていた。

もちろん、花月の夢である。

 

新生VOLTSの立ち上げのドサクサで、花月が「外」へ帰っていくまでの間にできたことといえば、結局キスひとつきり。

だからその夢も、花月とキスをする夢だった。

 

愛しいひとの体を抱きしめ、何度も何度もキスをする。

息継ぎの合い間の、艶やかなため息まで感じ取れる、リアルな夢。

やがて、触れ合っていた柔らかな唇が下へと下りてきて・・・

 

十兵衛は、やっとこれが夢でないことに気がついた。

 

「おはよう。十兵衛。やっと目が覚めたのかい？」

「かづき・・・」

十兵衛は、起き抜けには似合わない、深い、ふかいため息を吐いた。

 

いつ何時、「上」からの襲撃があってもいいように、十兵衛はいつもの服を着たまま眠っている。

その服が腹の辺りまでたくし上げられ、ジーンズの前は開けられて、下着は引きずり下ろされている。

それだけでもかなり情けない姿だというのに、さっきうっかり反応してしまったものは、花月にもう一度キスされて、更に大きくなっている。

情けない。

そして、更に情けないことは。

 

相手が花月とはいえ、ここまでされるまで、気づかないとは・・・

 

それも、今回が初めてではない。

前にもこんなことがあった。

「だって、十兵衛寝てるんだモノ」

そのとき花月は、まったく同じことを言っていた。

そして見えなくてもわかる。きっと、同じ拗ねたような顔をしているのだ。

お互いまったく進歩がない。

 

 

 

 

初めて花月の体を開いたのは、十兵衛だった。

初めての痛みに泣きながら、それでも自分を抱きしめたままだった、あの腕に込められた力を、十兵衛は生涯忘れることはないだろう。

 

しかし無限城という特殊な環境の中で、この花は思いもかけぬほど淫らに花開いてしまったのだ。

 

花月の体なのだから、十兵衛がどうこう言うべきことではないが、もう少し、こう・・・

と姉にこぼしたら怒られた。

何故だかはよくわからない。

 

 

 

 

「放してくれ、花月」

とりあえず、あんまり情けないので言ってはみたが。

「うﾞ―」

頼む。咥えたまま首を振らないでくれ。

 

こうなったら、絶対引かないことは知っているから、十兵衛はもう一度ため息をついてから、そうっと花月の髪を撫でてやった。

すると、嬉しそうに吸い付いてきて。

無邪気な天使の、淫らな唇。

十兵衛はすぐに、その中へと、熱を放つ。

 

 

「ごめん。十兵衛だーって思ったら、止まらなくなって」

えへへ、と笑う花月は、間違いなく確信犯だ。

その証拠に、細身のジーンズを脱がせると、下にはなにもつけていなかった。

しかも後ろは、内股まで滴るほど、何かに濡れていて。

「濡らしてきたのか？」

「まさか。十兵衛が寝ていてつまらないから、さっきやったんだよ」

そこは、濡らしてはあったが、それ以上の準備はなされていなかった。

花月は、十兵衛が自分のそこをいじって慣らす作業が好きなことを知っていたし、何より花月自身、そうされるのが大好きだったから。

「あ・・・んっ」

そこに、十兵衛はゆっくりと指を押し込む。

熱くて狭いその場所は、しかしもう淫らに蠢いていた。

「気持ちいいか？」

「うん・・・うん、十兵衛・・・」

花月の持ってきたらしいローションを足しながら、目の前に膝立ちになった花月のそこを、丹念に愛撫する。

艶かしく揺れる腰の奥は、十兵衛の指を感じて柔らかくほどけていく。

「あぁ・・・あ・・・ねえ、もう・・・」

膝を立てていられなくなり、十兵衛は自分の上に座り込んだ花月の脚を、膝を使って押し広げ、指での遊びを続ける。その動きに焦れた花月は、目の前の肩にかぷりと噛み付いた。

「・・・・・傷の上はやめてくれ」

本当に痛いから。

「ん・・・ごめ、ん・・・・」

頬をすり寄せるようにしながら、自分が付けた、古い傷も新しい傷も一緒くたに癒そうと、花月は逞しい筋肉の上を一心に舐めだした。

「ん・・・っふ・・・・」

熱い舌のがぬめるさまに、ぞくぞくする。

 

花月のほうも、傷を舐めることで紛らわせてはいるが、腰は勝手に揺れ動き、せめて前だけでもと、十兵衛の腹に擦り付けている。

その腰を掴み上げ、自分の上へと導くと、十兵衛はゆっくりと支える力を抜いていった。

「ぁ・・・・あぁ・・・・・あんっ・・・・・」

とろとろに蕩けたそこへの侵入を、妨げるものなど何もない。

確かな熱感と質量に刺し貫かれる快楽を、精一杯に味わって、花月は十兵衛にしがみつく。

硬い髪に指を突っ込んで乱し、ついでにキスをもらおうと唇を近づけると、十兵衛はわざとそれを避けるようにして、つんと立った胸の飾りに口を付けた。

「あんっ・・・十兵衛・・ほんとに、見えてない、の・・・？」

「見えなくてもわかるさ。お前の体だからな」

胸元から首筋へ。丁寧に赤い花を散らしながら、十兵衛は腰の動きも忘れない。

「じゅうべえ・・・えっち・・・ぁはんっ」

花月も自ら腰を振りながら、いたずらを続ける十兵衛の髪を、がしがし引っ張ってキスをねだる。

「じゅうべえ・・・そっち、あとでいいから・・・ねえ、キスぅ・・・・」

貰えないとなれば、なおさら欲しくなる。そんな子供じみた欲求に、十兵衛は苦笑した。

「下の口だけでは、足りないのか？」

「うん・・・もっと・・・」

正直な唇にご褒美をやろうと、十兵衛が顔を上げると、花月はそれよりも早く、閉じられたままの目蓋に口づけた。

「じゅうべえ・・・」

「あまり、可愛らしいことをするな。押さえが利かなくなるだろう」

言った十兵衛は、今度こそ花月の唇を塞ぎ。

ふるふると震える背中を支え、とさりとベッドへと倒した。

「ん、んんっ・・・」

望みどおりのキスをもらい、更に激しく突き上げられ、ついでに前もいじってもらって。

花月はたまらない快楽を、体ぜんぶで十兵衛に伝える。

もちろん十兵衛もそれに答えて。

 

淫らな天使は、盲目の獣に堕とされた。

 

 

 

 

「やっぱり、十兵衛がいちばん気持ちいいな」

愛されたばかりの肢体を惜しげもなく曝し、ベッドに寝転ぶ花月を見下ろしながら、十兵衛は手早く身支度を整えた。

別に、いつまでに行かなければならないというわけではないが、新生VOLTSの幹部である十兵衛には、しなければならないことは多い。

「そうか？上手いとは思えんが」

仕上げにスクリーングラスをかけた恋人に、『やっぱり十兵衛かっこいいなぁ』と思いつつ、花月は言う。

「上手いんじゃなくて、気持ちいいんだよ」

「・・・・違うのか？」

真顔での問いに、花月はむっとした。

「違うよ。十兵衛は、僕とするより気持ちいい人、いたの？」

手が、無意識に鈴を握り締めている。

「お前よりもよかったことなどないが・・・お前よりも上手いやつとしたこともないからな・・・」

本気で考え込んでしまった十兵衛に、花月は鈴の代わりに握った枕を思い切り叩きつけた。

結構痛い。

「もう、いいよ。早く行って、早く帰ってきなよ・・・待ってるから」

最後の一言の、内容はもちろん、声のかすれ具合がたまらなく可愛いかった。

「帰らないのか」

「だってセックスしかしてないだろう」

それもそうだ。

しかし、それは花月が悪いのでは・・・

そう思ったが、言うと怒られるので十兵衛は代わりに言った。

「今日は休むと、マクベスに言ってくる」

「え・・・？」

待っていろ、と言って、部屋を出て行く十兵衛の後ろ姿を見送り、花月は今度は声に出して呟いた。

「やっぱり十兵衛、かっこいいなぁ」

それがなんだか嬉しくて、花月は笑いながら大きく伸びをした。

本当は、どうやって顔をあわせていいかわからなかったのだ。

だから、いきなり襲撃してうやむやにして。

十兵衛も、それをわかってくれたのだろう。

だから、あんなに・・・・

そこで思い出した先ほどの行為に、花月はちょっと、頬を緩める。

 

くすくすと笑って、もう一度、大きく伸びをして。

「十兵衛、早く帰って来ないかなー」

 

弾む声が、無限城の雑音(ノイズ)に紛れて、溶けた。