淫らなひと
くちくちと、いやらしい音が響いている。
「ン・・・んっ・・・・ふ・・・・・」
甘やかに濡れた喘ぎ、熱い、吐息。
シンはそれをこぼす人の唇に、精一杯伸びをして口付けた。
立ったまま、部屋の壁に背を付けさせての行為だから、身長の足りないシンには、少し厄介だ。しかしそれは同時に、少年のチャレンジ精神を掻き立てていた。
慣れた舌が妖しくシンを迎え、くちゅ、と、粘ついた水音が、増す。
シンの指は、既にその人の最奥へと沈んでいる。
絡みつく熱い粘膜。やわやわと喰らいつく入り口。
上の口も下の口も許しながら、そのくせ強情に立ったまま膝を崩そうとしない人に焦れて、シンは蹂躙する指を増やした。
膝上まで下ろされていた軍服が、びくりと震えた脚を伝って、膝まで落ちる。
硬い生地に肌を擦られるのにも感じて、アスランはシンの口腔に甘い吐息を吹き込んだ。
シンはそれも全部飲み込んで、やっと離した唇で、しっとりと汗を含んだ髪をかき分けた。
「アスランさん、ここ、凄い」
探し当てた耳朶に、歯を立てて。
「すっごい熱くて、ぐちぐちしてる」
ナカの指を、ぐい、と曲げ、感じる場所を、きつく抉って。
なかなか限界を訴えようとしないアスランに、シンは意地悪く囁いた。
「どうして、欲しいですか？」
いつも、一段上からシンを見下ろして。
組み敷き、刺し貫いている時でさえ、優位を手放さない人に、懇願の言葉を吐かせたくて。
「ねえ、どうして欲しいですか？言ってくださいよ」
ひく、と、滑らかな喉が震える。
シンが、思わず笑みをこぼしたとき。
「・・・・どけ」
ぐい、と。シンの肩に縋っていた指が、襟首を掴んで引き剥がした。
ずるりと指が抜け落ちて、びくんと揺れた腰を、ベルトごと引きずりあげられた、赤い軍服が隠す。
シンは恨みがまし気に、体内を犯していた指をさし上げて見せた。
「そこ、こんなになってるのに。いいんですか？」
それは、彼の体液に濡れて。そっけない艦内灯の下でも、淫靡に光っている。
アスランは、きつくシンを睨みつけた。
翡翠色の瞳がぎらりと光って、見惚れるほどきれいだ。
このきれいな人を、一時でいいから、支配したい。
跪かせて屈服させて、シンだけのために泣かせたい。
「ひとりでするんですか？自分で、そこ弄るの？」
あんたのそのイヤラシイ体、ひとりでどうやって慰めるの？
腰を抱いて、にっと笑って。
しかしアスランは、シンの瞳を覗き込むと、低く、吐き捨てる。
「この艦に、男はお前ひとりじゃない」
気持ちよければ誰でもいい。と、それがはったりに聞こえないのが、この人の怖いところだ。
「大人の男、っていうのも好きだしな」
エイブス整備班長、ヤードバース操舵長、ああ、副長なんかいいカモだ。
艦にいる大人を数人思い浮かべたところで、シンは情けない声を出した。
「・・・・そんなこと、言わないでくださいよ」
あっという間にしおらしくなったシンの頭を軽く小突き、アスランは初めて壁から背を浮かせる。
「するのかしないのか、どっちだ」
「・・・・・します」
頷くしかないシンは、アスランの手を取ってベッドに引いた。
敵わないけど、悔しいけど。
でも、今このひとを、他の男に持っていかれるよりは、玩ばれた方が100倍マシだ。
白いブーツから脚を抜き取り、赤い軍服を、下着ごと引き下ろす。
しっとりと濡れた下着が足首をくぐり、きれいな脚が、あらわになる。
長くて白くてしなやかで。
しかし、その気になれば、シンを蹴り殺せるほどの力を秘めていて。
その強さも相まって、シンの欲情を誘う。
かかと、くるぶし、ふくらはぎ。
柔かい膝裏、張りのある腿。
全部大好き。
「こ、ら」
喘ぎに紛れた声と共に、きれいなつま先が、下腹に溜まった熱に触れた。
さっさとしろ、と。
高飛車な瞳が命令する。
それにむくれながら、シンは上着の裾を引き上げた。
後ろを弄っただけで、すっかり硬くなったモノに唇を寄せる。
「んぁ・・・・」
シンの髪にしなやかな指が差し込まれ、きゅ、と引く。
嫌がるのではなく、もっと、と催促する動き。
それに従い、シンは大きく口を開けてそれを含み、舌を絡め、吸う。
初めて教えられた時には、できないと本気で思ったけれど、やってみればそれはとても楽しくて。
「あ・・・っ、く、ふぅっ」
だって、イク時のこの人、すっごくキレイで色っぽくてイヤラシくて。
出されたものを呑み込むのさえ、もう何の抵抗もない。
「アスランさん、そんなに悦かった？」
咥えてすぐにイってしまったことを揶揄すると、わずかに赤くなった目元を細め、アスランは艶やかに笑ってみせた。
「ああ。俺は誰でもいいような淫乱だからな」
そんなふうに、自分を貶めるようなこと言わないで欲しい。
・・・・しないで、欲しい。
シンだけのもので、いて欲しい。
まずはその一歩、とばかりに、キレイな脚を抱え上げ、その間に息づく場所に、もう一度、指を差し込む。
「ん・・・・」
キモチよさそうな声。
もっと、と、うごめいて喰らい付くナカ。
ほんとうに、この人は。
どうしようもなく、オトコを誘う。
「全然オッケーですよね」
「少しは濡らせ・・・っ」
いちいちうるさいその人に、むう、と膨れてみるけれど、痛くするのは本意ではないから。シンは、手触りのいい腿を両手でしっかりと割り開いて、そこに、舌を伸ばした。
体内はしっとりと濡れているけれど、入り口はほんの湿る程度で。
さっき飲んだの、少し掛けとけばよかったな、と、またひとつ学習し、今はとりあえず、唾液をたっぷりと乗せた舌で、じっくりとそこを潤す。
舌先に触れた縁が、ひくひくとうごめいて、早く早くとシンを誘っている。
ダメダメ。お前のご主人、もっと濡らしてからにしろってさ。
心中呟き、それでもそこを軽く歯先で引っ掛けて、その人の腰を震わせて。
すっかり解れているそのナカまで、しっかりと舐めて濡らしてから、シンはそこから顔を上げた。
「お待たせしました」
「遅い」
なんて我侭な人だ。
でもそんなところにまで、魅かれる自分を知っている。
「はいはい・・・・・っと」
それでも、汚れるから上も脱がせろと言い出さないということは、実はアスランも相当余裕がないのだろう。
それを知っているから、シンは機嫌よく、自分のものを取り出した。
目の前の痴態に、それはすっかり準備ができている。
「いきますよ」
返事を待たずに。
淫らにほころんだ蕾に、それを、押し付けた。
「あ、あは・・・・ん・・・・」
引っかかったのは、入り口だけ。
ずるずるとシンを誘い込んだそこは、熱く甘くとろけて最高に気持ちいい。
しかし感じ入る間もなく、焦らされ続けていたアスランが、腰を浮かせて早く動くようにとせっついてきた。
そんなこと、云われなくてもわかってる。
シンは、白い脚に口付けてから、深くそこを突き上げた。
根元までシンを呑み込んで、もっともっととねだるそこがイヤラシクて可愛らしい。
だから、望みどおり、もっと。
「あっ、はっ、んっ、ああっ、んあぁ・・・」
きつく緩く、絶妙なタイミングで締め付けてくる襞をかき分けて、すぐにでもそこにぶちまけたいのも我慢して。
悔しいから、もう絶対ココだけでイかせてやると心に決めて。
アスランのイイところは、全部教えられている。
そこばかり突きまわして。
時折外して、残念そうな声も、上げさせて。
ふと思いついて、上着のベルトも外す。
その下から手を突っ込んで、しっとりと汗を含んだ肌を、胸元まで撫で上げた。
「ふぁ・・・」
案の定、硬くしこっていた胸に爪を立て、摘み上げ、押しつぶして。
いっそう揺れる腰を、容赦なく掻き乱して。
この淫らな人に仕込まれたのだ。シンだって、そこそこイケルはずなのだ。
その辺の男に、負けないくらいに。
「ん、あっ、シンっ、はっ、あ、ああっ・・・・」
大きく腰を揺らして、強くシンに押し付けて。
びくびくと体を震わせて達した人に締め付けられ、たまらずシンも放ってしまう。
ああもったいない、と思うけれど、この人と一緒にイけたんならいいかとも、思う。
「は・・・あ・・・・・」
赤い軍服に、白い精をこぼして余韻に身を震わせる人。
まだシンを咥えたまま、ゆるゆるとうごめいているそこ。
当然、一回で済むはずもなくて。
「次は、前も弄ってあげますね」
いったん抜いて、びくんと震えた体を抱いて返す。
うつ伏せたアスランは、自分から膝を立てて腰を上げた。
どうしようもなく、淫らな姿。
ぞくぞくする。
「もう一回くらい・・・後ろでもいい・・・・・」
淫乱の名に恥じないセリフに、シンは苦笑いして、さらされたそこに突き込んだ。
「ああっ・・・・」
感じて揺れる腰、打ち乱される青い髪、喘いで濡れる唇、快楽に潤んだ瞳、シーツを掴んだ指は、ほの赤く染まって。
シンの、好きな人は。
悲しいほどに、いやらしい。
「アスラン、さん・・・・」
でも。
それでも、と、シンは思う。
この淫らな人を、俺のものだけにしてみせる。
心も体も俺でいっぱいにして、俺じゃなきゃダメだって言わせてみせる。
俺が、幸せにしてみせる。
俺が。
そう、
心に、誓う。