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かちゃ、かちゃ、と、ベルトのバックルがかすかな音を立てていた。
それよりもずっと忙しない吐息を殺しながら、アスランは下肢より突き上げる快感に、必死になって耐えていた。
明るい、隊長の執務室。
こんなところで下肢を曝しているだけでも恥ずかしいというのに。
「我慢することはない。…気持ちいいのは、悪いことではないのだからね」
そう、犯す者に囁かれ。
「っあ！」
より深みを抉られて、声を上げたアスランは、次の瞬間また小さく呻いて、腕を付いていたデスクの上に突っ伏した。
自分の中が、いやらしく、隊長のものに絡みついているのがわかる。
もっと、もっとと締め付けて、まるで、しゃぶりつくすようにうごめいているのが、わかる。
それが、たまらなく恥ずかしい。
もちろんそれは、犯す者にも伝わっているのだろう。
熱く火照った耳元に、ふい、と、熱い息がかかって。
「・・・フッ」
何も言わず、嘲笑めいた笑みだけを吹き込んで、離れた。
とたんに、きゅうきゅうと締め付けてしまうアスランの中。
羞恥が、最もこの少年を感じさせることを、ラウ・ル・クルーゼは熟知していた。
しかし、それは、ほんの偶然だったのだ。
デスクに据え付けられたインターフォンが、場違いに明るい音を立てた。
アスランがくっと息を詰める。
そんな少年の様子など意にも介さずクルーゼは、ごくごく事務的にスイッチを入れて誰何した。
「誰だ？」
「はっ、イザーク・ジュールであります。先程提出した報告書に整備部の追加が生じましたので、お届けに参りました」
「そうか、入りたまえ」
アスランはびくりと身をすくませて、伏せていた上体を無理やりに持ち上げた。
どうしようと思ったわけでもない、それは反射のようなものだったのだ。
しかし、クルーゼはくつりと笑うと、その勢いのまま、アスランの腰を抱いて、デスクチェアに腰を下ろしてしまった。
自らの重みで深く楔を飲み込んでしまい、アスランは高く声を上げた。
「ん、あ・・・・っ！」
知らず腰が揺れる。
クルーゼのそこに、もっともっとと擦り付けるように。
頭の中が白くなって、他の事はどうでもよくなってしまうような快感。
でも、駄目。
駄目だ。
だって。
だって…・
開いたドアの前には、ファイルを持ったイザークが、呆然と立ち尽くしていたのだから。
イザークは、自分の見ているものが信じられなかった。
アスランが、まるで子供のように仮面の上司の膝に座り込んでいた。
それだけならば、隊長の戯れで済ませられたかも知れない。
生真面目なアスランを、もしくは自分を、からかっているのだと。
しかし。
アスランの赤服のスラックスは脱がされて、デスク越しにも、白い脚が見て取れた。
そうして、まるで女のような声を上げて。
腰を振って。
そんなアスランの喉元を、まるで自分の所有物のように撫でながら、クルーゼは、イザークを促した。
「気にすることはない。・・・報告書は」
「は・・・はっ！」
他に何も言えないまま、イザークはぎくしゃくとした動きでデスクへと歩み寄った。
一歩進むごとに、体感気温が上がる感覚。
背筋には、脂汗が流れて。
なんとか腕を上げ、無造作に伸ばされたクルーゼの手に報告書を渡したとき、うつむいていたアスランが、ふ、と、顔を上げた。
涙に濡れた緑の瞳。
いつになく乱れた青い髪。
長い上着に隠れて見えない腰は、見えない分だけ、淫靡さを増していて。
そうして白く長い足が、ひくひくと震えて、揺れている。
自分はそれを、一体どんな目をして見ていたのだろう。
アスランは、きゅ、と目を閉じて、すぐに顔を背けた。
こんな奴。
軽蔑すればいい。
体で、隊長に取り入ったのかと。
そんな奴だったのかと、幻滅すればいい。
そう、すればいい。
それなのに。
見るなと拒絶するような、助けを求めるような、・・・・しかしどこか、誘うような。
揺れる緑の眼差しの残光が、イザークを釘付けにした。
そんな少年の眼差しに、気づいてしまったのだろう。
「興味があるのかな。これに」
これ、と、膝の乗ったアスランの腰を抱きなおして、クルーゼは深く、アスランを穿った。
「ふ、は・・・・っ」
アスランはもう、言葉も出ない。
ただ、羞恥に震え、感じて喘いで身悶えるだけだ。
「い・・・いえ」
その媚態から目を逸らしたイザークは、ことさらきちんと敬礼をして、踵を返そうとした。
「失礼、します」
「イザーク」
しかし、そうする前に。
「せっかくだ。君も味わってみるといい」
表情の見えない上司はそう言うと、ずるり、とアスランの中から自分のものを引き出した。
震える体。
赤い、裾。
「少しだけ待ちたまえ。・・・・私の後になってしまうが、かまわないだろう」
そうして、アスランの体をデスクの上に、放るようにして返す。
翻った軍服の裾。
仰向けになった彼の下肢は、もう、隠すものなど何もなく。
しどけなく開かれたその間に、はしたなく立ち上がったものが見て取れて。
クルーゼの手が、ぐいとばかりにその白い脚を掴み上げると、蹂躙され、赤く染まったそこまでもがあらわになった。
そうして、イザークの視線に曝されたそこに。
クルーゼの、ものが。
「あ、ああ・・・・っ！」
今、自分のそこが、どんなに淫らに隊長のものを飲み込んでいるかと思うと。
それを、あの薄青色の瞳が映しているのかと思うと、羞恥で死んでしまうかと思った。
いや。
その羞恥心すら、快感に変換してしまう自分の体に。
絶望的な思いで、アスランは動かしたくて仕方のない腰を、必死になって押し留めた。
「・・・・我慢することはないと、言っているだろう、アスラン」
しかしそれも、クルーゼが動き出すまでのこと。
「あっ、は、あ、ぅ！・・・い、あん・・・っ！」
一度引き抜かれ、物足りなさにうごめいていたそこが、再び与えられた快感に、うねって揺れて、止まらない。
すっかり身に馴染んだ肉に、一突きされるごとに、いやらしい声が喉をついて。
上司のものを咥えて。
淫らに濡れて、悦んでいるそこに。
薄青色の視線が、突き刺さる。
きつく目を閉じても、わかってしまう苛烈な視線。
あ・・・あ。
やめてくれ。
見ないで。
・・・・・・・・感じて、しまうから。
「はっ、あっ、やんっ！も・・・う、たい、ちょぅ・・・・っ」
白い軍服にしがみ付き、その身に自身をこすり付けるようにして、ようやく解放の時を迎え。
そうして、とろりと開いた緑の瞳。
快楽の涙にたっぷりと潤み、そうして見る者を責めるような、縋るような艶を含んだそれを。
魅入られたように凝視していたイザークは、同じく濡れた赤い唇が、かすかに動くさまを見た。
『イ、 ザーク』
と。
それは、声にならない、声。
「イザーク」
上司の声が、同じように彼を呼ぶ。
しかしそれは、少年の耳には届かなかった。
ただ、聞こえなかった声が。
その、瞳が。
「・・・し、失礼します！！」
イザークは、敬礼もそこそこに床を蹴った。
廊下に飛び出し、背後のドアが閉じることも確認せずに、走り出す。
これ以上あそこにいると、おかしくなってしまうと思った。
・・・・・いや。
既に、遅い。
赤い軍服の裾から伸びた、白い脚。
その間、卑猥に男を飲んだ場所。
とろりと蕩けた緑の瞳。
あまりに淫らに、自分の名を呼ぶ赤い唇。
それらはもう、イザークの脳裏に、深く、深く刻まれてしまったのだから。
「残念だったな、アスラン」
本当にほんとうに残念そうにそう言う上司の胸元に、火照った頬を押し付けて。
零れ落ちた涙を、アスランはその軍服で拭い取った。
「ふ・・・・っく」
洩れた声は、嗚咽か、それとも中で脈打つ男のものに、感じただけのものだったのか。
それさえも、実際どうでもいいと思っているクルーゼは、仮面の奥で、くつりと、笑った。
それから。
再び、可愛い部下を啼かせるために動き出す。
そう。
どうせこれも刹那のこと。
いずれ、すべてが壊れて消える。
壊して、消してしまうものなのだから。
狂った男の腕の中で、赤い翼の小さな鳥が、一声高く、啼いた。