Lotus
白い、滑らかな背中が自分の下でのたうつのを、シンは熱いまなざしで見下ろしていた。
「はぁっ・・・あっ、やっ！」
少し伸びをしてある一点を突けば、かろうじて立てていた肘を崩し、アスランはシーツに突っ伏して、むせび泣く。
「は・・・ぁん。あ、ああっ・・・・」
シンに貫かれた腰だけを抱え上げられ、シーツを掴んで身をくねらせるさまは、今まで見た、どんなＡＶよりもイヤラシイ。
そんなに、気持ちいいのかな。はじめに入れるときには、あんなに苦しそうな顔をしていたのに。
不思議になって。
深く繋がったまま、震える背中に胸を付ける。
角度が変わって、呻く声が聞こえて。
そこが、きゅうっと締まって。シンは、凄く気持ちいい。
その感覚に目を細めながら、汗を吸って張り付いた髪をかき除けて、真っ赤に染まった耳に、唇を寄せて。
「ねえ、そんなにキモチイイの？」
囁いたとたん。
「ち・・・がっ！ああっ！！」
大きく首を振ったアスランは、やっと搾り出した言葉とは裏腹に、びくびくと身を引きつらせて。
触れられてもいないものから、びゅくびゅくと体液を吐き出してしまった。
「うわ、待っ・・・」
シン自身を心地良く包んでいた襞も、引き絞るように硬直して。
若い体はたまらずに、熱くぬかるんだその中へ、精を注ぎ込んでしまっていた。
「アスランさん、凄過ぎ・・・」
それでも、まだ、心地いいこの人の体内から出たくなくて。
シンは萎えかけたものを、深くその奥へと含ませた。
「ねえ、まだ、いけますよね」
「ふぅ・・・っ」
いったばかりで酷く敏感になっているそこを刺激され、開放の余韻に、ぐったりと身を投げ出していたアスランの体が、ひくりと震える。
「い、け・・・っ、て・・・・はぅ・・・っ！」
「やっぱりアスランさん凄いや」
さざめく内襞に、緩く。痙攣する筋肉に、きつく。
刺激され続けたたシンは、ゆっくりとその大きさを回復し、アスランの中を押し開いていく。
「やっ・・・もう、や・・・・・」
その異様な感覚に、大きく首を振って見せた人の、泣き濡れた表情。
涙を吸った睫毛が重そうに光って、綺麗でキレイでイヤラシイ。
「いいって言ったの、アンタだろ」
そう。
半ば嫌がらせでヤりたいと言ったシンに、かまわないと言ったのはアスランなのだ。
今更、何を言うのだろう。
アスランの中で、シンの雄が育ち切る。
それを感じたアスランが、諦めの息を浅く飲む。
ゆっくりと抜き出せば、襞が絡んでずるずると、体の外まで付いてきた。
「すっげ、真っ赤・・・あのさ、感じてこうなってんの？」
少年の残酷な言葉に答えられず、シーツに縋ってひくひくと泣き出したアスラン。
無視されたようで、気に入らない。
「ねえ・・・俺の話聞いてる？」
付いてくる襞を、じっくりと鑑賞した後。先端の太くなったところまでを引き抜いていたシンは、それをまた、深々と突き刺した。
「ああっ・・・！」
「やっぱ、感じてんじゃん」
言って。
その気持ちのいい襞に、自分のものをこすり付け、もっと気持ち良くなろうと動き出す。
「あっ、あっ、ああっ、やっ、シンっ・・・！」
いつも、高いところから命令する声が、今は純粋な喘ぎと、シンに縋る言葉を、恥辱にまみれた響きで紡ぐ。
シンに犯されるためだけに、高く掲げられた小さな双丘。
その狭間に、自分のものが飲み込まれ、また、真っ赤な襞を連れてずるりと出てくる視覚の楽しさ。
何よりも、シンのためにあつらえられたかのような、丁度良い締まりと緩さの肉襞の良さ。
「あんた、サイコー・・・」
自分自身の快のため、せっせと腰を突き動かし、まるで道具のように、その人の腰を扱いながら。
シンは、初めてと言っていい快楽に、再びの精をたっぷりと、彼の中に吐き出していた。
「ああ・・・っ」
そうして、アスランも、また。
屈辱の吐精に身を震わせ、自分の吐いた精の上に、やっと開放された腰を投げ出して。
「あ・・・」
「あ、溢れてきちゃった」
シンに注がれたものをそこからこぼし、無邪気な指に開かれて、更に溢れさせて泣き声を上げる。
「や・・・やめ・・・・」
「なんで？出した方が良くないですか？」
「良く・・・な・・・・いやだ・・・・・」
本来、排泄に使う器官なのだ。
そこに指を差し込まれ、かき出される恥ずかしさを、しかし少年は理解しない。
「いいじゃないですか。散々使ったの俺だし。キレイにしてあげますよ」
「や、やっ、あ・・・んっ」
かき出すために奥を探った指が、また、アスランの感じる場所を突いてしまう。
「気持ちいい？あ・・・もしかして指でもイけるかも？」
「イ・・・けなっ、もうっ・・・」
「ちぇ、そっか」
その声と共に指を抜き取られ、アスランはようやくまともに息をついた。
「でもアンタ、ちゃんとキレイにした方がいいですよ」
「わ・・・かって・・・・・」
いる。と言って。起き上がりかけて。
そのまま、めまいを起こして再びベッドに沈む。
それを呆れたように見ていたシンが、アスランを抱きかかえようとするけれど。
「・・・・いい。自分で・・・・・・」
「出来なさそうだから手伝ってやろうって言ってんのに」
「いい・・・・んだ。満足したなら、もう、戻れよ」
「・・・・はぁい」
どこか不満げに答えたシンは、しかし、立ち上がって赤い軍服を身に着けると、一度、しどけなく横たわったままのアスランを振り返ってから、部屋を出て行った。
それを、確認して。
アスランは、細く、長く、息をついた。
長く喘ぎ続けたせいで、喉が痛んで息が苦しい。
しかしそれよりも、胸が苦しい。
彼に体を与えることで、何かに、許されるような気がしたのだ。
そんな自分の浅はかさに、吐き気がする。
でも。
触れた肌の熱さ。
愛撫を施す手のひらの感触。
体の奥深くに穿たれた、少年の熱い楔。
それがもたらしたものは、罪悪感だけではなくて。
「シ、ン・・・・」
胸に湧いた、かすかなぬくもり。
それを、振り払い。
アスランは、痛む体を無理やりに起こし、這うようにしてシャワーへ向かった。
こんな想いは。
体の汚れごと、熱い湯にでも流してしまえばいい。
壁に縋って立ち上がったところで、脚の間を伝い、少年の体液が、ほたほたと床に落ちた。
彼が、かき出し切れなかった、彼の入っていた証拠。
見下ろしたそれに、はたはたと透明な何かが落ちて、混ざって。
それがなんだかキレイだなぁと思って。
それが、涙だと気付かないまま。
アスランの意識は落ちた。
なんで、あの人、抱かせてくれたのかな。
部屋へ戻り、シャワーを浴びて。
やっと冷えてきたアタマで、シンはつらつらと考えた。
潔癖に見えて、実はあんなカラダしてた人だから、別に誰に抱かれたって良かったのかな。
でも、部下に、しかも言うこと聞かない俺なんかに抱かれて、あの人全然嫌じゃないのかな。
そう思うと、何故だかちょっと嬉しくなって。
聞いてみようと、さっき後にしたばかりの部屋へと、また、足を運ぶ。
「アスランさーん」
呼んでも応えはなく、しかし鍵のかかっていなかった部屋は、スイッチ一つで簡単に開いた。
そうして、裸のまま床に蹲った人を見つけ、シンは仰天して駆け寄った。
「あ、アスランさん！？」
アスランの答えは、ない。
だから、慌てて抱き上げて。
覗きこんだ、その頬に。透明に光る雫を見て。
シンは、言葉を失った。
その涙は。
セックスの最中に、この人が流していたものと、本当に同じだろうか。
あれは、こんなにキレイだった？
「・・・・・んぅ」
「あ・・・・・」
重たげな睫毛がふるふると震えて。
翠色の瞳が、ふうっと現れて。
シンは、何か、見てはいけないものを見てしまったかのように、慌てふためいて。
「ア、 アンタ、こんなとこで寝ないで下さいよ！」
「あ・・・シン・・・・・」
「見に来て良かったです！ほら、立って！！」
無理やり立たせた体は軽く、この人は、こんなに軽かっただろうかと、ついさっきの記憶を掘り起こそうとする。
しかし、それはかなわなくて。
ざっと汗と精液を流し、どろどろのシーツを引っぺがし、マットレスの上に、直接放り出したその人は、一度、目を開いて。
「・・・・すまない」
そう言って、一度だけ、小さく笑った。
それが、小さいけれどもなんだか凄く、幸せそうな笑顔だったので。
「たいしたことじゃ、ないです」
酷く面食らったシンは、ぶっきらぼうにそう言うと、名残惜しく思いながら、振り返りながら部屋を出て行った。
なんなんだ、あの人。
部屋の前で、そう、心中つぶやいて。
でも、脳裏に浮かんだのは、さっき見た、小さな微笑み。
それは、今までシンが見たことのないもので。
見たことのない、その人の柔らかな表情で。
なんだか、酷く嬉しくなって、シンは先ほどそこを後にしたときとは、比べ物にならない軽い足取りで、自分の部屋へと向かった。
さっき、セックスしたときよりも。
あの快楽よりも、ちょっといい気分。
そっか。あの人、あんな顔もするんだ・・・・
その夜、蒔かれた想いの種は、ほんの小さなものだったけれど。
それでも、育てる手が、ちゃんと二組あるのなら。
きっと、いつか。
やわらかな、恋の花を咲かせるのだろう。