この白い手は、自分の中の箱を開ける鍵

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この白い手は、自分の中の箱を開ける鍵。

人ならぬ自分の本性、欺瞞と汚濁とを無理やりに押し込めていた箱を、この手は、

何のためらいもなく開けた。

だから私は、この手の持ち主にそれらをすべて・・・ぶちまける。

「・・・っ・・ふ・・・あ、やぁ・・・・ん」

手が、自分から離れる。離れて床に落ちた袈裟を握り締める。

その手で、この箱を開けたくせに。許せない。

手を手で追いかけ、握り締める。もう二度と離れぬように、指を絡める。

その手が握り返され、泰明はわずかに口許を歪めた。

そう、おまえは私を拒否してはならない。

師匠が、せっかく創ってくださった箱を、鍵を。すべて台無しにしたのはおまえなのだから。

これは、すべておまえに注がれなければならない。

「ぁ、あああああっっっ・・・・」

彼が、それを受け入れたことに満足して抜き取ると、しかしそれはどろりと溢れてこぼれ落ちようとした。慌てて指にすくい取り、薄く開かれた口許へ持ってゆく。

わずかに震える赤い舌がそれを受け取ったことを確認し、泰明は荒く息を吐き出した。

「やすあき・・・・・どの・・・」

濡れた指に、熱い吐息がかかる。

その熱が煩わしくて、変にぐにゃりとした体を褥の向こうに蹴り出した。

こんな自分は、知らない。

この熱も、収まらない苛立ちもいつまでも整わない息も、

すべて、この手が箱を開けてしまったからだ。

半分畳に引っかかるように投げ出された、白い腕に目が留まる。それは、それだけで未知の生物のように、幽かな灯りに輝いて。

あんなものが、なければ良いのだ。

泰明は腰を浮かせると、その腕に踵を乗せた。そのまま、体重をかける。

「っつ！！・・・・いっ・・・ぁ・・・・」

びくびくと跳ね上がったそれは、奇妙な硬さで踵を押し返した。先程握った時の、やわやわとした手触りのほかは憶えていなかった泰明は、驚いて踵を退かす。

「ぁ・・・ぁ・・・・・」

側には、投げ出された腕もそのままに、ただ震えるだけの永泉。

自分は、何をやっているのだろう・・・・

泰明は、その場に膝を付いた。

蓋を開ける白い手。箱の中の汚濁。離れない熱。師匠が創ってくれた箱。人の真似をするために必要な箱。白い手が蓋にかかる。永泉。この白い手が・・・・

「泰明殿・・・」

白い手、が、伸びて。

「大丈夫ですか・・・・？」

ひたり、と、頬に触れる。

震えている手のひら。

「泣かないで・・・下さい・・・・」

この白い手は、自分の中の箱を開ける鍵。

自分自身ですら、知らなかった箱でさえ、易々と開けてしまう・・・・・

「泣かないで・・・・」

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