「そうしたら・・・キミも、幸せに、なれる・・・・？」

今にも眠り込みそうな、消え入りそうな花月の声に、十兵衛はただ一言、答えた。

「ああ」

「だった、ら、十兵衛・・・ぼく、と・・・・」

繰り返される願い。それを、叶えてやり。

十兵衛は、幸せそうに眠る花月の肩に、毛布を掛けてやった。

『僕はもうキミを縛り付けたくない』

花月が、そんなことを考えているとは思ってもみなかった。

血脈の因縁。

幼い約束。

己の想い。

それらに縛られることは、十兵衛にとって幸福でさえあったというのに。

『僕は、キミに恋なんかしていないけど』

そんなことは、初めから知っている。

花月の口から、自分に対する恋情など、一度も聞かされたことはない。

それでも。

「ここで、お前が俺を必要としてくれた。俺にはそれで十分だ、花月」

十兵衛は、花月を守るために生まれたのだ。

一度、間違えたが、しかしもう二度と違えるようなことはない。

愛しい体を抱きしめて、穏やかな寝息を零す唇に口づける。

『キスをしようよ』

お前が望むなら、いくらでも。

オレは、お前のためだけに存在するのだから。

お前を、守るのだと。

いつでも、そう想っている。

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