ここは・・・どうだ？　　

脇腹の、柔らかいところを舐め上げられて。

んっ・・・やっ・・・　　

きゅっ、と、硬くなってしまったそこをさわりと撫ぜられる。

あ・・・・はぁん・・・　　

もどかしい性感に腰を揺らめかせ、自身を摺り寄せるようにして、永泉は無言でねだる。

欲しいのか　　

残酷な言葉に、それでも我を忘れた永泉は答えた。

 

 

「はい・・・・やすあきどの・・・・・・・・・・・・・・・えっ？」

 

 

素肌に触れるのは、汗に濡れた肌ではなく、絹の夜着。

大好きな人に縋りついたはずの腕は、虚しく上掛けを掴んで。

「はぁ・・・・」

永泉は、ため息をついてその上掛けに顔を埋めた。

 

知らず、顔が赤くなる。

あのような、淫らな夢を・・・

眠る直前まで、今は遠く、仕事で東国へ旅立っている恋人を想っていたせいだろうか。

あのひとのぬくもりを、恋しいと思っていたせいだろうか・・・

酷く情けない思いで、永泉は熱くなった下肢を見やる。

こんなことは初めてだった。

永泉にとって体の熱とは、他人の手で高められ、放たれるものだったから。何もされていないのにこんなふうになってしまうなんて、信じられない。

『永泉』

泰明の声を思い出し、背筋がぞくりとあわ立った。

下肢が更に熱くなってしまい、泣きたくなる。

これを冷ます方法を知らないわけではないのだけれど。

ないのだけれど・・・・

永泉は恐るおそるそこへ手を伸ばした。

 

「んっ・・・」

手と、そことを隔てる絹が、自分と彼の人の、指のつくりの違いを曖昧にする。

泰明殿は、いつも初めは形をなぞるように、優しく撫でてくれる。そこだけではなくて、他のところもさわってもらいながら・・・

もう片方の手が自然と胸に上がった。そこはもう、きゅっ、と硬く立ち上がり、触れると、じん・・・と痛いほどの刺激が、体の芯で、下から来る刺激とひとつになる。

「あ・・・っ」

びくん、と体が強張って、自身に触れる手にも思わぬ力がこもる。

「あ、っ・・・はあっ・・・・」

そう、こうやってだんだん強くされて、なんにも考えられなくなって・・・・・・

「あっ、はぁ・・・ん・・」

 

なまあたたかい液体が、勢い良く手のひらから溢れた。

 

「あ・・・・・」

初めて、自分で慰めてしまったショックと・・・・今だ腰の奥で燻る熱に、とうとう涙がこぼれる。

「・・・ひっく・・・・やすあきどのぉ・・・・」

もうどうしていいのかわからなくて。

泣いても、叫んでも、どうなるわけでもないのに。彼が来てくれるわけでもないのに・・・・・

 

 

 

「永泉？」

 

突然声をかけられて、永泉の体がびくんと竦んだ。

ふり返れば、いつものように、靴のまま簀子の上に立ち、無造作に御簾を退けて立つ。

永泉の、大好きな人の姿。

「・・・どうした？」

低い、優しい声が、腰の奥に響いて声が洩れそうになった。

目に前に膝をついた泰明が手を伸ばすと、彼の汗の匂いに鳥肌が立った。

「やすあきどの・・・・・」

彼の手に縋りつくと、しなやかで固い独特の感触に、思わずため息が洩れた。

「おかえりなさい・・・・」

やっと、それだけを言うと、永泉は、泰明の腕の中へ身を投げた。

 

 

誰かが乱さない限り、常に居ずまいの正しい永泉のしどけない姿に、泰明は驚いていた。

一瞬他の男の影を疑ってしまったが、気配がないので違うことはすぐにわかる。

それに永泉は・・・自分だけだと、言ってくれたではないか。

 

恋人の前に膝をつき、こぼれる涙を拭おうと手を伸ばすと、夜目にも薄紅く染まった腕が、ゆるりと絡みついてきた。

「やすあきどの・・・・・おかえりなさい・・・」

「ああ。今帰った」

師匠への報告も他人に任せ、京へ帰り着くなり御室へ向かった。とても、とても永泉に会いたかったから。それが十分に報われて、泰明は胸の中が何かでいっぱいになるような思いを味わっていた。

甘く、柔らかい体を抱きとめて、絡みつく腕に口付けると、燃えるような熱を放つそれから、白い雫が滴り落ちた。

「・・・・自分で、したのか？」

小さな驚きとともに手を取り、それを舐め取る。熱い腕がびくんと反応した。

「は・・・い・・・っ、だってっ、淋しくて・・・・っ」

くすんくすんと泣きながら、ぎゅうっとしがみついてきた体の熱を感じて、泰明はちいさく笑う。

「そうか・・・すまなかった」

永泉の体。そこから溢れ出す、熱い、あつい熱。

いつもは自分がもてあましているそれが、今は永泉を泣かせている。

どきどきした。

すごく、どきどきした。

自分が、永泉を欲しがるように、永泉も自分を欲しがっている。

それを初めて生々しく感じて、泰明は強く永泉を抱きしめた。

心の臓が躍りすぎて、胸が酷く痛い。

その胸に、苦しげなため息がかかって、もっと、もっと痛くなる。

痛みに耐え切れずに褥にその熱い体を横たえると、帯を解く間も惜しんで乱れた裾を割った。汗でしっとりと濡れた肌に手を這わせると、それだけで甘い声があがる。

「は、あ・・・ん」

いつも、自分の方が先に夢中になってしまうから、こんなに冷静に快楽に夢中な永泉を見るのは初めてだった。

衿を乱し、既に立ち上がっている紅い蕾にくちづけると、薄い胸がひくんと揺れる。

「そんなに気持ちいいのか？」

不思議になって聞いてみると、声にならない声と跳ね上がる脚が答えた。

面白くなって、その脚の奥へ手を伸ばす。

滴り落ちる永泉のものを指に絡め、そうっと、奥へしのばせて。

くちゅり

「は、あんっ」

驚いたことに、そこはあっさりと泰明の指を受け入れた。

ひくひくと震える四肢を、優しく撫でながら、いやらしくうごめく襞を少々乱暴に擦る。

永泉の感じる場所は良く知っている。

体の内側と、外側と。同時に攻めてやれば、どうなるかも、もちろん。

「あっ、やあっ・・・」

直接触れた訳でもないのに、再びしたたり落ちてしまった液体を、ぺろりと舐めて泰明は問う。

「そんなに気持ちいいのか？」

今宵、二度目の言葉は、意地悪すぎて。

永泉は体を震わせて、本格的に泣き出してしまった。

「う・・・っく・・・・ぅ・・・」

さすがにかわいそうになって、嗚咽の洩れる唇にくちづけた。

「すまなかった」

そう言って、もう一度くちづけて。今はもうすっかり良くなった舌の傷跡を優しく舐めてやる。泰明にとっても久しぶりの永泉の肌だから、もう余裕がない。舌を柔らかく噛んでから唇を離し、汗と自身のものに濡れた脚を抱え込んだ。

「あぅ・・・」

蕩けたそこは、たやすく泰明を呑みこみ、締め付ける。

激しく腰を突き動かせば、ぐちゃぐちゃという濡れた音と甘い喘ぎが響く。

「気持ちいいのか？」

三度問えば、受け入れる体すべてと、高く上がる声が答える。

「そうか」

嬉しくなった泰明は、その体を、いっそう深く抱きこんだ。

 

 

 

「やすあきどの・・・もう、朝・・・」

熱の引かない体をすり寄せ、その甘い感触に浸っていた泰明は、そこから抜け出そうとする永泉の腰を、つよい力で抱き寄せた。

「やすあきどの・・・」

あきれ声の永泉も、ほんとうは久しぶりの恋人のぬくもりに浸っていたい。

「でも、おつとめが・・・」

「話はついている。行かなくていい」

「はなし？」

何の？

「式神に、阿闍梨の部屋へ東国の茶を届けさせた」

「・・・お茶で、私を買ったのですか？」

なんだか悲しくなってしまった永泉を、泰明は自分の衣の中へ引きずり込む。そして少し冷えた肩を抱いて、ささやいた。

「買ったのはおまえの時間だ。おまえ自身は買わずとも私のものだ。・・・おまえが、そう望んだのだろう」

「・・・・・はい」

答えた唇に、そっと、自分のそれを寄せて。

 

大好きなひとと、くちづけを。

その幸福に、ふたり、時を忘れた。