「いいですか」

水色を目の前に座らせ、永泉は言った。

 

「今宵は、私は泰明殿と休みます。だから、お前はここで休んでくださいね」

ね。と、もう一度念を押すと、水色はにゃあ、と鳴いた。

「水色はいい子ですね」

にっこりと笑う永泉。

「では、おやすみな・・・」

「何をしている」

急に硬い声に背中を蹴飛ばされて、永泉は声を詰まらせた。

「え、あ、あの・・・」

「行くぞ」

ぐい、と後ろから襟首を掴まれて、永泉の体は宙に浮く。

いわゆる猫掴みである。

「や、やすあきどの・・・・っ」

ぶら下げられていく飼い主と、ぶら下げていく先住者（でもいつもいるわけじゃない）の後姿を眺めつつ、水色は、にぅ、とちいさく鳴いて、その後を追った。

 

そして行き着いたのは、もちろん寝床のある部屋。

寝床の上にぽい、と落とされて、きゅう、と目を回した永泉は、それでもすぐに立ち直り、泰明に抗議する。

「な、何をするのですか泰明殿！」

「なかなか来ないお前が悪い」

「水色に、ひとりで休むように言っていたのです！！」

 

にゃあ

 

「・・・・みずいろ・・・・・・・・」

泰明と永泉のあとを、あたりまえのようについてきた水色は、やっぱりあたりまえのように、部屋の入り口で行儀よく座っている。

そして泰明がひと睨みすると、定位置の文机の上へと上がり、丸くなって目を閉じた。

この姿勢で大人しくしていれば、この部屋にいても「先住者」の気に障らないことを、水色はちゃんと知っていた。

「この猫は、おまえよりも賢いな」

感心したように、あんまりなことを言う泰明は、もう永泉の衣を剥ぎにかかっている。

「あの部屋で休むと、約束したのです〜」

永泉が何か言っているが、泰明は戯言は聞こえない耳を持っているし、水色にはその声は気持ち良いだけだ。

 

だから。

 

 

よるは、きみとぼくとねこと、さんにんで。

それが、ふつう。

 

 

「でもひどいです、やすあきどの・・・・」

呟いた永泉の声には、その言葉を裏切って、

少しの諦めと、なんだかいっぱいの愛しさしか、入っていなかった。

 

 

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