消せる、傷跡
二度の大戦を経験して、たくさんのものを奪って失って。命に関わる怪我もして。
それでもまだ軍服を着ている自分は、たぶん、どこかおかしいのだとアスランは思う。
そうして、この少年も。
戦争が一応の終結をみて、アスランはオーブに「戻って」来た。
そうして、何故か。
シンも、それに付いて来てしまったのだ。
どうしていいかわからずに、自分の宿舎に連れて来てしまった少年を前に、アスランは途方にくれていた。
どうしても、言葉が足りなくて、届かなくて。
自分にそんなつもりがなかったとしても、結果として、裏切るかたちになってしまった。
自分の力が足りなくて、救うことが出来なかった。
それなのに、何故か今、アスランの前にいる、シンも。
やっぱり、どこか、おかしいと、アスランは思う。
「・・・お前、これからどうする気だよ」
とりあえずシンにデスクの椅子を勧め、自分はベッドに腰を下ろして。
アスランは、シンの赤い瞳をじっと見上げた。
たぶん、彼はザフトに帰った方が良い。
議長の子飼いということで、ジェネシスに撃たれた隊の関係者には恨まれるだろうが、それでも彼は「英雄」だ。
ここ（オーブ）では、あのインパルスのパイロットだとばれたら、恐らく一兵卒の自分では庇いきれない。
それでもアスランは、シンが故郷（オーブ）に帰って来られたことを嬉しく思うし。
何より、自分の側にいてくれることを、嬉しく思ってしまうのだ。
困ったことに。
「どうって・・・・」
シンだって途方にくれている。
大切なものを守るのだと、ただがむしゃらにザフトで頑張ってきた。
大切なものも、ザフトで見つけた。
見つけたと、思った。
でもソレは、シンを裏切って脱走して、守る代わりに討ってしまって。
ぐちゃぐちゃになっているところにまた現れて、訳わからないうちに「バカヤロー」とぶっ飛ばされた。
シンが守りたいと思ったものは、シンよりもずっと強かったのだ。
生きる意味を失って、途方にくれたシンは、それでも、やっと見つけた「大切なもの」の、嫌いな色をした軍服の裾を掴み締めた。
そして、付いてきてしまった。
そうしないと、何か、また怖いことがあるような気がして。
困り果てたアスランと、困り果てたシンと。
先に顔を上げたのは、ほんのわずかな年の功。
身の振り方で困り果てるには、慣れてしまったアスランの方だった。
「・・・・すぐに決めろとは言わないさ。お前はまだ若いから、選択肢はいろいろある。それまでは、俺を頼ってくれていい。・・・・いや」
そう言ったアスランは、努めて作った年上ヅラに、ほんのわずかなはにかみを乗せて。
「頼ってくれると、嬉しい」
そう、言ってくれた。
その言葉に、困り果てていたシンの涙腺が、切れる。
「うっ・・・！」
思わず飛びついた体は、覚えのあるあたたかさと力強さを持っていた。
一拍遅れて背中を撫でてくれた手のひらは、子供をあやす優しさで。
シンを、叩き墜としたくせに。
「バカヤロー」とか言ったくせに。
シンの、恋人だった人は。
今でも大好きな人は、やっぱり、とっても優しかった。
しがみ付いて、泣きに泣いて。シンがなんとか落ち着くまで、アスランはずっとシンを抱いていてくれた。
いろいろあったとはいえ、一時は恋人同士だったのだ。
状況が状況だったために、別れるしかなかったけれど。
今でも愛しいと思う、大切な子、なのだ。
まだうぐうぐいっているシンは、本当に可愛くて、かわいそうで。
だからアスランは、何とはなしにシンにハンカチを貸してやり。
そして何とはなしに、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった頬に、キスをしてやった。
ちょっとしょっぱくて、思わず笑ってしまう。
しかしそのキスは、弱りきった少年には、たまらなくて。
頬に触れた、柔らかな感触。
自分を包む、あたたかな腕。
手の中には、ハンカチと一緒に、まだアスランの手のひらの感触が残って。
見上げれば、変わらない翠の瞳が、やわらかな笑みを含んで、自分を見下ろしていて。
「―――――っ！」
借りたハンカチでぐいぐいと顔を拭うと、シンはそれを放り捨てて、アスランの上に圧し掛かった。
変わらない、あたたかな体。
悲しくて寂しくて仕方のなかったシンを、以前、慰めてくれた体。
今、シンは悲しくて寂しくて、そうして途方に暮れていて。もう、どうしたらいいかわからないのだ。
だから。
だから。
この、あたたかくて優しい人に、また、慰めて欲しかった。
優しくして、欲しかった。
なのに。
「おいシン！」
服を脱がそうと襟元にかけた手を、シンより大きな手がぐいと掴んで止めた。
翠の瞳が鋭い色で、欲しがる少年を拒絶する。
「何するんだ、お前」
「何って！」
どうして。
どうして。
頼ってくれって言った。
抱きしめて、キスしてくれた。
なのに。
なのに。
なんでアンタ、俺を拒絶するの。
なんで。
「なんでさせてくれないんですか！」
ぼろぼろと、シンの真っ赤な瞳から、再び涙がこぼれ落ちるのを見て、アスランはしまったと唇を噛んだ。
そんなつもりじゃない。
泣かせるつもりなんかじゃ、ない。
でも。
「落ち着け、シン」
なだめようと伸ばした手を、強い力で叩き落される。
「俺のこと、もう愛してないんですか！」
叫ばれて、泣かれて。
一瞬、この声、隣に響いてないかなとか、どうでもいいことを考えて。
そんな逃避思考を、なんとかシャットダウンして。
そうしてアスランは、じっとシンの赤い瞳を見上げた。
アスランの、大好きな色だ。
アスランの救えなかった。
アスランの、大切な子の、瞳だ。
この子の瞳から、涙がこぼれるさまが、アスランは嫌いだった。
泣かせたくないんだ。
泣かせたくない。
でも、お前がそう言うのなら。
そんなに、言うのなら。
「そんなに言うなら、させてやる」
こんな言い方では、駄目なのだと。知っているはずだった。
それでも、声は硬いまま。
言葉もまた、硬いまま。
「後悔、するなよ」
そう言って、アスランはシンを引き寄せた。
ヤケクソというのにもあんまりな台詞を、しかし気にできるほどシンの方にも余裕はなくて。
「しませんよそんなこと！！」
一転して、喜色満面。
その顔を見ただけで、アスランも思わず幸せになって。
それから、少し、落ち込んだ。
肌を合わせた回数は、実は、あまり多くはない。
不慣れな二人は、それでも快楽を分かち合うことが出来たし、互いの肌のぬくもりに、辛い時を慰められた。
だからシンは、それを期待して、アスランのシャツを剥ぎ取って。
そうして、そのまま息を飲んだ。
「これ・・・・」
アスランの胸から腹にかけて、大きな裂傷が走っていた。
裂傷の上に、更に腹部には、引きつれた火傷の跡。
「後悔するなって、言ったよな」
アスランの言葉に、シンははっとした。
以前抱いたアスランの肌にも、傷なら確かに少しはあった。
しかし、こんな酷いものはなかった。
そうだ。これは。
俺が墜とした。
あの時の、傷だ。
失ったと思った。
この手で壊したと思った。
あの絶望は、シンの中で硬く凝ったまま、この人に再会した後も、決して解けることがない。
シンが結局アスランに付いて来てしまったのも、シンの中に残ったままの、この冷たいカタマリのせいかも知れなかった。
この人に再会してから、ずっと、目を逸らしていた。
逸らさなければ正気を保てなかったものを、思っても見なかったかたちで目の前に突きつけられて、少年の手は、完全に止まってしまう。
そんなシンから目を逸らし、アスランは、小さく、消え入りそうな声をして。
「こんな体じゃ・・・・勃たないだろ」
そう言って、シャツをかき寄せて、傷を隠したその仕草。
「・・・すまないな。跡を消すとか、そんな余裕がなかったんだ」
ほんのりと染まった肌が、シャツの陰から見え隠れし。そのシャツを掴んだ指が、わずかにかたかたと震えている。
そんな様子が、少年の中に、どうしようもない熱をともす。
やばいだろ、と、シンは思った。
こんな時だというのに。
自分の罪を、目の前にしているというのに。
アスランの些細な仕草に、幼いオスは、たまらなく反応してしまうのだ。
「すいません。俺・・・・」
慌てたシンの声に顔を上げたアスランは、何か、慰めの言葉を探して、見つからずに。
それが、何に対する慰めなのかすら良くわからなくなって、余計に見つからなくなって。
「ソレ、俺のせいですよね」
先に言われて、首を振った。
「いや。あの時、俺はお前に負けたんだ。これは俺の力不足の結果で、お前のせいじゃない」
でもメイリンのことは別だぞ、と付け加えられ、それにはこくこく頷いて。
そうして、そのままシャツを羽織ろうとしたアスランを、その袖を掴んでシンは止めた。
「なんで着ちゃうんですか」
「？、だって、しないだろ、こんなのと」
羽織ろうとしていたシャツが落ちて、剥き出しになった酷い傷跡。
それを見れば、胸も頭も痛くてぐちゃぐちゃになるけれど。
「したいです！すっごくしたいです俺！」
そう、確かに。
シンはその時、その傷にさえ、欲情していた。
混乱して、オーバーヒート気味の感情を、体が処理し間違えているだけかも知れない。
それでも体が熱くて。
熱くて、仕方がなくて。
「あの・・・・そこ、キスしていい？」
訳がわからなくなりながらも、ためらいがちに頷いてもらうと、シンはそこに、恐る恐る唇を寄せた。
傷ついた肌の発する、すえた匂い。それにさえ、凄くドキドキして。
唇で触れれば、少し硬くてごつごつとしているそこを、それでも、離す気にはなれなくて。
舌を出して舐めてみれば、ざらざらとした感触。そこから生み出された思わぬ快に、シンは夢中になってそこへ吸い付いた。
「んっ・・・・ん」
「こら、シンっ・・・！」
慌てたのはアスランだ。
治りきらない傷は、剥き出しの神経に近い。
止めなくてはと思いながらも。
ひどく、感じて、しまう。
「くふ・・・・っ」
「気持ちいい？」
やっと口を離してくれたシンに、嘘がつけないアスランは、それでも頷くこともためらわれて。
困ってしまい、ただ、口元を押さえて視線を逸らした。
短い間でも、付き合っていたのだからシンにだってわかる。
これは、アスランが凄く恥ずかしがっていて、でもそれを認めたくないときの仕草。
嫌じゃないんだ。
気持ちいいんだ。
それに勇気づけられて、シンは丁度、顎の下にあったベルトに手を伸ばした。
かちゃり、とそれを外すと、アスランは一瞬シンを見下ろして。
それから観念したように目を閉じて、軽く腰を上げて、引き下ろすシンに協力してくれた。
そうして、現れた下肢。
うわ。
思ったシンは、それを口にださないことには、なんとか成功した。
それでも一度止まってしまった手に、気取られてしまっただろうか。
腰から脚にかけても、やはり酷いありさまだった。
何故だか腰周りと膝にだけ、元の肌とは色の違う人工皮膚が貼り付けてあって、それが余計に無残に見える。
シンの大好きだった、白くて滑らかで気持ちいい太腿は、一面のケロイドで。
何故だか、それが一番悲しかった。
悲しかったから、そこにもまた、キスをして。
それから、わずかに頭を上げ始めていたアスランのそれの先にも、軽くキスをしてあげた。
「こら・・・」
これを弄られるのを嫌がるのは、元からだから、それは気にしない。
それもやっぱり傷ついているのか、力を持つと、皮が張って辛そうだった。でも。
「コレ、無事だったんだ」
「嬉しそうに言うなよ」
「嬉しいです、凄く」
言って、ぱくりと咥え込んで。
ごつごつと力の入らない拳で叩かれるのも気にせずに、きゅうっと深く吸ってから、離した。
熱い口の中から放り出されて、プル、と震えたそれが、可愛い。
「人工皮膚って・・・感じるの？」
腰骨の上、奇妙に黄色い皮膚にキスをしながら聞くと、アスランはこくこくと頷く。
そうして、いつもそうしてくれていたように、シンの髪に指を差し込んだ。
「痛点と圧点は、普通にある。冷点と熱点は少ないから、鈍感になっているんだが」
「なんでここだけ皮膚張ってあるの？」
「火傷跡のままだと、突っ張って動きにくいんだ」
MSに乗るのに、支障のある部分だけ張ってもらったのだと、アスランはこともなげに言った。
「・・・・そんなに、俺のこと倒したかった？」
聞いても仕方のないことだと思いながら、つい口をついて出た言葉に、しかしアスランはふるふると首を振る。
「いや。機体を預かる者なら、コンディションを整えるのは義務だからな。・・・・だいたい、初めてお前と戦った時には、まだ張ってもらっていなかったから。裂けて出血して・・・いや、すまない」
「なんでアンタが謝るんですか」
「・・・すまない」
恐らくは。
生きていることが、不思議なほどの怪我だったのだろう。
人工関節が入っていると思われる、奇妙な凹凸を持った右膝にもキスをして、シンは思う。
それでも、こんな傷を負わせたシンを、こうして受け入れてくれる。
アスランの、優しさを想う。
『後悔するなよ』と言ってくれた。
優しさと、厳しさを、想う。
脚を高く抱き上げると、髪を撫でていた手が離れた。
代わりにシーツを掴むのは、『準備される』時のアスランの癖だ。
手触りの良かった双丘にも、擦過傷と思しき跡。
それにキスをしてから、シンは狭間を押し開き、シンを受け入れてくれるそこに、唇を寄せた。
「ば・・・かっ、舐めるなって、何度言・・・っ」
「ん」
何度言われても、アスランの言うことなど、聞いたことがない。
アスランも、もう諦めたのだろう。頭の上の方から聞こえるのは、押し殺した喘ぎばかりだ。
「く、ふ・・・っ」
アスランのそこは、固く閉じて。まるで初めてした時のようだった。
たぶんこの人、俺の他にしてない。
そう思うと、嬉しくて。
「んふ・・・っ、ぁ・・・・」
ちゅくちゅくと舐めていけば、やがて、アスランの声が艶めいて、ゆるりと腰が揺れてくる。
舌で触れるそこもほころんで、先を尖らせて押し込めば、躊躇いがちに開いてくれた。
そういうふうに、シンがした。
シンが開いた、体。
「ん、あンっ」
ぐいぐいと舌を押し込んで、腰ごと震えるのを楽しむ。
掴み締めた両腿は、ざらりとした跡の残る肌。
シンの開いた体の。
シンの付けた傷。
なんて、いとおしい。
「シ、ン．もぅ・・・・」
アスランのかすれた声に急かされて、シンは熱くて気持ちのいいこそから舌を抜き出した。
傷ついた肌と、健康な肌。
汗の匂いに、くらくらする。
「アスランさん・・・・」
囁いて、涙ぐんだ翠の瞳を覗き込んだ。
何故だかそれは、きっとシンを睨んで。
それから長い腕が、つい、と伸びて。
シンを、ぎゅっと抱きしめる。
「・・・・後悔、するなよ」
それは、さっきも聞いたセリフ。
でも。
濡れた声で囁かれる言葉は、比べようもなく、甘く、そして可愛らしい。
「なんで、後悔なんかするんですか」
こんな人が今、腕の中にいるのに。
涙に潤んで赤くなった目元に、そっと唇を落とすと、シンは大切に大切に、アスランの体を抱きしめた。
シンが傷付けた、大事な体を、抱きしめた。
「俺、アンタのこと大好き」
あまりにもストレートな言葉が、アスランの胸に染みて。
それから、そこに触れた熱いものに、一度だけ息を飲んで。
そうして、ゆっくりと、吐き出す。
「は、ぁ・・・・んっ！」
侵入った中の熱さ。
上がった声の甘さ。
抱き締めてくれる腕の強さ。
触れる肌の心地良さ。
そして、久方ぶりの痛みと快楽に震えながら、シンを受け入れてくれる人の優しさ。
全部、大好き。
深く入ると、アスランは、中も外もびくびく震えた。
「んやっ・・・シンっ・・・・」
「ご・・・め。でも」
引けば、絡みつく内壁。
突けば、きゅっと締め付けて。
「イイんでしょ・・・？」
経験の少ない少年でも、この人が今、凄く気持ちよくなっていることくらい、ちゃんとわかる。
現に、あんなに嫌がっていたというのに、傷跡の残る下肢をシンに擦り付けて、もっともっとと、無意識にとはいえねだっているのだから。
「アスランさん、やらしー」
思わず口をついた言葉に、アスランはシンを睨む。
「やらしいって、この、ばか・・・・・」
だって。
欲情した幼いオスの目には、恋人の傷跡さえ、艶やかに映るのだから、仕方がない。
「どーせ、バカですよ」
アンタの言うことなんか、半分もわからないバカですよ。
でも。
だから。
「だから、アンタなんかが好きなんだ」
傷も、すぐ殴るところも、偉そうな態度も。
勝手に自己完結してしまうところも全部ひっくるめて。
「アンタ、大好き」
ぐっと深く突きこむと、びくりとアスランの背が反った。
「あ・・・っ」
続けてきつく攻め上げれば、シンを抱いた腕がきゅうきゅうとしがみ付いてくる。
「シ、ン・・・シンっ！」
気持ちよさそうなアスランの声。
繰り返し、シンを呼ぶ。
ぐいと髪を掴まれて、何を求められているのか思い至り、シンは無理やり伸びをして、甘く喘ぐ唇に、自分のそれを押し付けた。
バカみたいに、一生懸命な、キス。
アスランだってバカだ。
こんな、俺なんかと。
「んはっ・・・ああ・・・っ」
たまりかねたアスランが、シンにしがみ付きながら達して。
そんなアスランを抱いて、シンも、一緒に。
「アスラン、さん・・・っ！」
それでも、シンのもので濡れたアスランの中は、変わらずきゅうきゅうとシンを締めているものだから。
「ごめ、ん。アスランさん、もう一回、いい？」
「お・・・前、一回で済んだこと、あったか？」
「ない」
お許しの言葉ににっと笑うと、アスランはなんだか目を丸くしてシンを見上げ。
それから上気した頬を更に染めて、視線をそらした。
「？」
不思議に思ったシンは、しかしアスランが自分に見とれていたなんて思い至るはずもなく。
ただ、恋人の気が変わって怒られないうちにと、せっせとその体を愛しはじめた。
アスランの肌は、傷の有無に関わらず。
今も昔も変わらずに。
シンを気持ちよくさせて。
シンを安心させて、くれた。
「・・・・今度の休みに、医者に行こうと思うんだ」
快楽に疲れた体を、ゆったりとシーツに伸ばし、シンに傷跡を舐められていたアスランは、彼の頭を撫でてそう言った。
「え？まだどこか悪いんですか？」
驚いたシンは、腰の傷から顔を上げる。
そんな少年に、アスランは首を振って。
「いや。・・・そこの傷は、消そうかと。・・・・・もともと、面倒だから放っておいただけだから」
「なんかもう、どっちでもいいけど」
シンは、今まで舐めていた傷を、またぺろりと舐める。
「俺が嫌なんだよ。・・・・その、お前に、これを見せるのが」
そう言って、シャツを引き寄せようとするアスランの腕を、シンは掴んで、引き寄せて止めた。
「ねえ、それってさ、これからもしていいってこと？」
「・・・・・」
黙ったアスランは、一回だけ、ぱこんとシンの頭を殴った。
全然、痛くなかった。
「へへっ」
「一度に全部は無理だから。・・・まあ、ゆっくり、な」
「うん。ゆっくり」
ゆっくり、ゆっくり、傷を癒して。
ゆっくり、ゆっくり、わかり合って。
そうして、ゆっくり、二人で。
「俺、ここにいて、いいですか？」
「ああ。もちろんだ」
二人で。
幸せに、なろう。