可愛い子
唐突に、背後からバカでかい声がした。
「アスランさんっ！」
アスランは、避けようかどうか一瞬迷い。
避けたとき、彼の受ける被害を考えて、そこで、ただ立ち止まった。
とたん、背中にもの凄い衝撃。
踏み止まれたのは、弛まぬ訓練のたまものだろう。
「シン、危ない」
「すいません」
全然すまないとは思っていない口調で言って、笑って。
シンはアスランの背中にしがみ付いたまま、その横顔を覗き込んだ。
「今日、部屋行っていいですか？」
聞いてくるようになっただけ、進歩と言うべきか。
しかし、嫌だと言ってもついて来るので、結局は変わらない。
「まったく、お前は・・・」
普通に聞けばただのため息だが、シンにはそれが彼なりのＯＫだと知っている。
「へへっ」
笑うと、シンは先に立って歩き出した。
まだ、ちょっと勇気出ないけど。
そのうち、手をつないで歩こうと、実は密かな野望に燃えていた。
メール、来てたんだよな、議長から。
ベッドに座り込み、シンに懐かれながら、アスランはぼんやりとそう思った。
明日・・・だったよな、来いって。
随分上手になったキスを受けながら、しっかりと舌を絡めてやり返しながら。
連れて行かないと、さすがにイタイ目見るよな。
でも。
アスランは、軽い水音を立てて唇を離した少年を、やさしい目で見やった。
キスだけで嬉しそうにしているシンは、仔犬のようにアスランにじゃれかかり、大きな赤い瞳が、どう？どう？と、わくわくしながら見上げている。
差し出すの、かわいそうだよなぁ。
「上手くなったな」
褒めてやると、ぱっと顔を輝かせる。
うん。
もう一回くらいごまかせるだろ。
いろいろと鈍く出来ているアスランは、前回でさほど懲りていない。
でもちょっと・・・口実は、作りたいな。
うんそうしよう、とひとりで勝手に納得し、今度はアスランからキスをしてやった。
「シャワー浴びてきたか？」
「はいっ、いつでもＯＫです！」
そして、ガッツポーズのシンの肩を、とん、と押してシーツに倒した。
「若いよな・・・」
一回口でしてやったのに、またすぐに力を持ったシンのものを軽く指先で弾き、アスランは、ちょっと笑った。
「なんか凄い、年寄りくさいですよそれ」
「お前な・・・この」
シンのもので濡れた指を、憎まれ口を叩いた口に突っ込んで、熱い舌を絡め取る。
「んぐ」
目を白黒させたシンは、しかしさすがに意図を汲んだのか、一生懸命にそれを舐め始めた。
可愛いよなぁ。
んぐんぐいいながら指をしゃぶる様子は、やっぱり可愛いとしか言いようがない。
自分もこの年で可愛いと言われがちだが、可愛いというのは、こういうんじゃないかとつくづく思う。
シンの舌がアスランの指をたっぷりと濡らし、今度はつま先を丁寧に舐め上げてきた。
そこが弱いアスランは、ひくりと肘を震わせながら、努めて冷静に、指を抜き取る。
「あ、感じました？」
なのに、シンにはバレていて。
悔しかったけれど、彼があんまり嬉しそうだったので、頷いて褒めてやった。
「ああ。上手かったよ」
その代わり、シンが何かを言う前に、足首を掴んで思い切り開いて。
「うわ」
喜びよりも、羞恥に染まった体、その一番奥まった場所へ、濡れたままの指で触れた。
「んっ・・・」
熱く絡みつく内壁。
先ほどまで含まれていた口腔に似たそれは、しかしずっと感じ易い。
「お前のココも、慣れたよな」
感慨深げに言うと。
「そゆこと、言わないでくださ・・・あっ」
恥ずかしそうな声が、返って、跳ねる。
「本当のことだろ。ほら」
感じる場所はわかっている。どうされれば気持ちいいかも、身を持って。
だからアスランは、シンが気持ちいいように、気持ちいいようにと指を動かしていく。
「っあっ、やっ、あ、あんっ」
「声も、可愛くなった」
「可愛いってっ、あ、んっ、言うなっ」
とうとうばたばたと暴れだしたシンの四肢を押さえ込み、アスランはくすりと笑って、何よりも赤いシンの瞳をのぞき込んだ。
「いや、可愛いよ、お前は」
「・・・・・っ！」
極上の笑顔、極上の声。
挙句、中のイイところをぐいぐい押されて。
「やっ、あっ、アスランさんっ」
勝手に腰が揺れて、やばいと思う。
我慢できない。早く、欲しい。
うー、と半泣きになりながらしがみ付くと、アスランが戸惑ったように赤く染まった耳元で囁いた。
「どうした？シン」
この人、自分がどれだけヤらしい声してるか、知らないんだ。
そんなことを恨めしく思いながら、シンはアスランの髪を掴んでがしがしと揺すった。
「早く、しろって！」
ぎゅうぎゅうとしがみ付いてくる熱い四肢。
指を受け入れたそこも、きゅうっと締まる。
「こら、痛い」
真っ赤な瞳が必死になって、まっすぐにアスランを映して。
ああ、可愛いなぁ。
ひどく暢気なことを頭では考えながら、体は勝手にシンの体内から指を抜き取り、すっかり猛った自分のものをそこに押し当てている。
そんな自分に気が付いて、苦笑して。
だって、この可愛い子が、早くって。
軽く、自分に言い訳しながら。
その笑い方にまたシンが、見惚れていることになど、まるで気づかずに。
「シン」
「いっ、あ・・・・」
さすがにまだ痛いのか、ひく、と浮いた背に腕をまわし、軽く撫でてそのまま繋がった場所までを撫で下ろす。
「んっ、んやっ」
いったん力が入った後、反動で緩んだそこに、もっと深く入って。
「っ、う・・・・」
「痛くないだろ、もう」
そのまま、腰を抱き上げながら聞いてくる、声の深さ。
「・・・・くないけどっ」
なんか悔しい。
そんな思いを、アスランは絶対わかっていない。
「なら、大人しくしてろ。よくしてやるから」
あんたとして、よくなかったことなんかない。
そう言ってやろうと口を開いて、なのに出たのはまるで女の子ような声だった。
「あ、あ・・っん・・・」
「ほんと、可愛いよ、お前」
「だ・・・違っ、ああっ」
言葉を違えない男、アスラン・ザラ。
よくしてやると言ったからには、彼は徹底的にシンをよくしてやるつもりだった。
それこそ、明日、足腰立たないくらいに。
翌朝。
「・・・・・アスラン、さん・・・・・・・」
「休暇届は、出してやるよ」
「あ、ありがとうございます。・・じゃなくて」
「食事もらってくると、怪しまれるから。基地に出て何か買ってきてやる」
「ショップのハンバーガーがいいです。ってだから」
「レイには言っておくから。好きなだけ寝て行け」
「いやだからアスランさん・・・・」
そんな問題だろうか、と思いつつも、昨夜の彼を思い出すと、何も言えなくなるシンだ。
あ、シアワセとか思っちまった。
思わずニヤケた口元を、枕に押し付けて、隠す。
このヒトサイコー。
しかし、アスランはシンの想像の上を行く生き物だった。
「ああでも、今夜は議長に呼ばれているんだ。夜までには、立てそうか？」
このヒト、サイテー。
シンはがっくりと更に深く枕に沈んだ。
ちょっと息が苦しい。
それを笑って見ていたアスランは、一晩中呟いていたセリフを、また、口にする。
「ほんと、お前、可愛いな」
さすがに慣れたシンは、黙ってべちんと彼の額を叩いたのだった。