花鳥風月
| 花 「やる」 ぺし、と、白い百合の花を叩きつけられた。 「なんですか？これ」 花粉に制服を汚されたことに気づき、シンは不機嫌に傷んだ花を摘み上げる。 シンには、似合わない花だった。 むしろ、アスランに似合う花だった。 「戦友の墓参りに行って来た。残りだ」 そう言い捨てて、アスランは翠の目を細めた。 「そのうち、お前にも供えてやるかもしれない。先にもらっておけ」 「・・・・あんた！」 不吉な物言いに激昂したシンは、しかし続いた台詞に、言葉を失った。 「どうせお前も、俺を置いて逝くんだ」 そうしていつも、俺だけが残る、と。 「・・・・返す」 それを、付き返し。傷んだ白い花弁を見ながら。 「あんたの墓には、俺がちゃんと別に供えてやる」 そうして、顔を上げて、シンは言い放った。 「あんたに似合うのは、血色の花だ」 見上げた翠の瞳は、歪んだ喜色に輝いていた。 君の瞳と、同じ色の花を。 俺の墓に、ください。 |
| 鳥 白い鳥が、飛んでいた。 それを、翠の瞳が、追っている。 「何してんですか、そんなところで」 シンのきつい声に、その人は視線もよこさず。 「ああ、鳥が」 それだけを答え。 そうしてまた、鳥を、見ている。 どこか、夢見るように。 「あんなふうに、飛んでみたい、とか？」 馬鹿にしたような声を作ると、アスランはちいさく口元だけで笑った。 「まさか」 そうして、視線を下ろし。 「叩き落して、羽根を毟って、筋肉や骨格を見てみたいと思っていたんだ」 しかし、シンを見ないまま。 「また、鳥のマイクロユニットが作りたくなった」 そう言って立ち去った、アスランの痩せた背中に。 シンは、ずたずたに毟られた羽根を見た気がした。 |
| 風 強い風が、その人の青い髪を巻き上げていた。 ただひとり、甲板に立ち。 遠く、暗い空を眺めるひと。 つかつかと歩み寄り、きっちりと締められた襟元を掴み上げ。 シンは、まるで空の色を映したかのような、暗い瞳を覗きこんだ。 「ばっかみてぇ」 その言葉にも、答えず。 アスランは、ふいと視線をそらすと、また、遠くを見つめた。 遠く、風の来たる場所。 その地の名を、アスランは知らず。 そうして、シンは、その存在すら、知らない。 |
| 月 「何、見てるんですか」 「いや・・・・」 答える間もなく、襟首つかまれて引き寄せられた。 容赦のないキス。 アスランは、しばらくシンの好きにさせてから、腹を殴って止めさせた。 燃える眼差しが、きつく睨み上げる。 「月なんか、見ないでください」 そんな、懐かしむような、やさしい目をして。 「俺の勝手だろ」 蹲った体を蹴りつけて去っていく背中に、シンの叫びが打ち付けられる。 「もう戻れないことくらい、わかってるんだろ！」 アスランは、振り返らなかった。 |